創作怪談 『植物と人形』

大学生の明日香は、一人暮らしをしていた。
部屋の中には、観葉植物がいっぱいで、小さなベランダにも綺麗に咲いた花々が並んでいた。
毎朝の水やりと、日差しを浴びさせるのが、彼女の日課だ。

ある日、明日香はふと気がついた。特にお気に入りで、実家にいる時から育てている、パキラ。
普段は健康で緑豊かな葉を持つその葉の先が少しだけ色褪せてみえたのだ。経験上、そこまで気にしなくてもいい範囲内だろうと、特に気にとめなかった。

しかし、次の日も、その次の日もパキラはどんどん元気を失っていった。明日香は心配になり、インターネットなどで調べてみた。適切な水やりや肥料の量、日光浴の時間など、基本的なことはすべて守っている。

どうしてだろう……そんなことを思いながら、明日香はパキラを見つめた。

1週間後、パキラの葉は茶色くなって、枯れてしまった。
明日香はかなりショックを受けたが、幹や枝はまだ元気そうだったので、まだ大丈夫だと思うことにした。

その日の夜、明日香は奇妙な夢を見た。ベランダの植物たちが、風もないのにゆらゆらと蠢き、何かザワザワと囁いている。
なんだか奇妙な不安を胸に抱え、明日香は目を覚ました。

起きてすぐ、明日香はパキラの様子を見に行くと、昨日よりも酷い状態になっている。
根腐れをした時のように、幹の部分が腐っているように見える。
仕方ないので、処分しようと決心した。
枯れたパキラを掘り起こしてみると、根とは違う、何か、硬いものが埋まっていることに気が付いた。
手に取ってみると、それは古びた木製の人の形をしたものだった。
小さく、そこら辺に売っているものではなく、手作りのようだ。
水で洗ってみると、それには不気味に笑うような顔が掘られていた。

不気味に思い、枯れてしまったパキラと一緒に捨てようと思ったのだが、何故か捨てることができず、綺麗に洗ってから棚に飾った。

その日の夜、明日香は夢に魘された。
部屋やベランダにある植物たちが、彼女に向かい、葉やツタをこちらに伸ばしてくる、唸るような声が植物たちから聞こえてくる。
まるで彼女に助けを求めているかのようだった。

その夢の翌日から、明日香の部屋では奇妙な出来事が続いた。部屋中から変な音がして、テーブルの上に置いていたはずの物がいつの間にか落ちていたり、何か囁くような声……
彼女は次第に寝れなくなっていった。

明日香は耐えかね、友人の美佳に相談し、数日部屋に泊めてもらう事にした。
美佳の家に着くと、何故か部屋から持ってきてしまった人形がバッグの中に入っているのに気づいた。
それを見つけ、青ざめていると、美佳は何があったのかと話を聞いてくれた。
一連の話を聞いて、美佳は真剣な表情で言った。
「なにかの呪いなのかも、お祓いをした方がいいよ」
その人形を2人で見つめる。

美佳が調べてくれた、お祓いを受け付けてくれているという神社へと持って行った。

神主はその人形を見て、少しだけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔になり、明日香を安心させるように言った。

「恐らく、誰かの怨念がこもっているものでしょう。けれど、お祓いをすれば大丈夫ですよ」

お祓いが終わり、人形は神社で処分してくれるというので、お願いして神社を後にする。

その日から、奇妙な現象はぴたりと止まった。
悪夢に魘されることもなくなり、彼女はようやく安眠できるようになって、心の平安を取り戻した。

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