創作怪談 『置き手紙』

心霊スポットへと行こうと言ったのは、誰だったか、長期休暇中にダラダラと友人宅で過ごしていたのだが、いつの間にか友人の車に乗せられ、廃墟へと連れて行かれた。

その廃墟は、結構大きめの洋風の一軒家だった。
外観は周りに生えた木の葉や、ツタで覆われていてあまりよくみえない。
扉のノブに手をかけると、あっさりと開いた。どうやら鍵か壊されているらしく、心霊スポットとして色んな人が来ているのだろうという事が伺えた。
中にはいると、ホコリまみれで窓ガラスが少し割れていたりするのだが、思っていたより荒れてはいなかった。
鍵が開いていたし、人が来てもっと荒らしているだろうと思っていたが、ゴミ等もほとんど落ちていない。

わざわざコンビニで買った懐中電灯を手に、各部屋を巡る。

普通の民家のようだ。
家具は置きっぱなしで、至る所に生活の跡が残っている。
玄関ホールには飾り棚、その上に大きな花瓶が置いてあった。中に入っていているのは水ではなくホコリが積もっていて、枯れ果てカラカラで茶色になった花が活けてあった。
収納のような所を開ければ、靴が入っていたぐらいで、特段何も無かった。
男性物の革靴に、ヒールが置いてあったがそれらもホコリにまみれている。

玄関ホール横の応接間のような場所も、部屋全体がホコリを被っていて、テーブルと椅子が置かれていて、それらの装飾はほとんど剥がれ落ちていた。

壁にかけてある絵を眺めていると
おい、と友人が声を上げる。
友人はテーブルの上を指さしていた。

『カエレ』

白い紙にそう書かれた物が、テーブルの上に置いてあった。

友人はそれを手に取り渡してきた。
コピー用紙のようなペラペラの紙に、黒のインクで書かれている。

部屋全体がホコリにまみれていた割には、随分と、綺麗なもので、どうやらホコリが溜まった後に置かれたもののようだ。
きっと同じように肝試しに来た連中がイタズラで置いたのだろう。

つまらないなと鼻で笑い、私は紙をテーブルに戻す。

次に入った部屋は、書斎のようだ。
ここもまたホコリ臭い部屋だった。
天井にはシャンデリア、壁一面には本棚。
映画でよく見るような、木材で細かな模様が細工されている、大きな重量感のある机に社長とか、偉そうな人が腰掛ける革張りの椅子。

案の定、その机の上には

『カエレ』

そう書かれた紙が置いてある。
それを一瞥し、本棚に目をやる。
詰められている本はほとんど洋書の専門書のようだ。
この家の人は何をやっていた人なのだろうか?

どの部屋も、ホコリっぽいが豪華な内装で、鍵が壊されていたのにも関わらずよく荒らされなかったなと話しながら、散策を続ける。

そしてどの部屋にも

『カエレ』

の紙があった。

各部屋に1枚づつ、寝室やリビング、キッチン、脱衣所、風呂場なんて浴槽の中にあり、わざわざこんな所にまで置くのかと笑ってしまった。 

全てを見て周り、特に何事もなく、もう帰ろうと玄関ホールに戻る。
扉へ手を伸ばそうとした時、友人が何度も肩を叩いてくる。痛いと言いながら友人の方を見れば、花瓶が置いてあった棚の方を見ている。

花瓶の横に紙が置いてある。
友人はそれを手に取り、こちらへと見せてきた。
来た時なかったよな?そう顔を見合わせていた。
すぐに、扉へと手を伸ばし、ノブを掴む。

ドアが開かない。

ガタガタガタ
ゴトッ、ゴトン

と家具類が揺れ、何かが落ちる音。

ドンドンドンドンドンドン

壁を叩くような音

バタバタバタッ

誰かがこちらへ向かって走ってくるような足音まで聞こえてきた。

異音に焦りつつ、ノブをガチャガチャと回すのだが開かない。友人が扉へと体当りをしだした。
タイミングを合わせ、同じように扉へぶつかる。
何度目かで、身体が扉にぶつかるより先に、勝手に扉が開いた。

勢いのあまり、外に倒れ込んでしまう。急いで立ち上がり、その場を後にしたのだった。
 友人は焦って例の紙を持ってきてしまったらしい。
改めて、それを見てみる。

『カエルナ』

そこには、そう書いてあった


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