創作怪談 『些細な事』

  私は「不良」と呼ばれるような、多少やんちゃなタイプだった。あの日は、同じようなやんちゃな友人達と一緒に、夜中にバイクを乗り回して、隣町の廃神社へとやってきた。ここで変なものを見た、という噂を聞きつけ、面白そうだと肝試しにやってきたのだった。

  廃神社は草木が生い茂り、狛犬や石灯籠が崩れ、鳥居も朽ち果てていた。そんな荒れ果てた様子に驚きつつも、当時の私たちは逆にそんな雰囲気に胸を躍らせていた。ワーワーと押し合い圧し合いしながら、辺りを探索すれば、手水場のようなものを見つけたり、よくよく見てみれば注連縄の巻きついた御神木と思われる木なんかもあった。
  拝殿や本殿と思われる建物は、災害などで崩れたのだろうか原型を留めておらず、至る所に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。賽銭箱も、もはや廃材と化している。流石に賽銭泥棒はできねぇかと笑いつつ、ふざけて参拝の真似事をする。

「何か面白いことが起きますように」と願ってみた。
せっかくの肝試しだ、何か起こった方が面白い。

  それなりの雰囲気はある。
何となくだが、ここに着いてから常に何かに見られている気がしていたし、時々ぬるい風が吹いているからか、背筋に何か這うような、ゾワゾワとした悪寒が走っていた。でも、皆でふざけていたこともあり、怖さは半減していた。
  結局そこでは何も起きなかったし、何も見なかったし、撮った写真にも、それらしきものも映らなかった。全て見て回っても、野良猫一匹も出てこない。結局ただの噂かと、帰宅する事にした。

  でも、身の回りでおかしなことが起こり始めたのは、その日以降の事だった。
本当に取るに足らない、ちょっとした現象だ。
テーブルに置いていたはずの物が床に落ちていたり、家の中で変な音がしたり、本当に気のせいだろうと思うような事。
目の端に誰かがいるような気配と、影を見るものの、そこに目を向ければ誰もいない。
誰かに呼ばれたような気がして、周りを見渡しても、声の主は見当たらない。
なんだか薄気味悪い、嫌な匂いをふとした時に感じることもある。
本当に下らな過ぎるので、違和感を感じながらも、正直気にも留めていなかった。

  しかし、友人たちの中で1番仲の良いAと遊んでいる最中、その友人の身にも同じような事が起こっている事が判明した。
Aは臆病な所があった。
どうやら、この手のことは苦手らしく、今回の小さな奇妙な現象を、かなり怖がっているようだった。大丈夫だと宥めつつ、2人とも同じようなことが起こっている事に少しだけドキリとした。
  他の友人たちにも、少し探りを入れてみれば、皆同じような経験をしている。全員が同じような経験をしてるとなれば、流石にあの神社の事が頭をよぎる。

  さらにAが夢を見たと言い出した。夢にはあの神社が出て来るそうだ。参道に佇んでいると、本殿だと思われる崩れた建物のそばに誰かいる。
こちらをじっと見つめているのだが、その人物の性別も年齢も分からない、ただボロボロの服を着た誰かがそこにいる。顔をこちらに向けているはずなのに、表情も何も分からない。
そんな夢。
臆病なAの事だ、気にし過ぎてそんな夢を見ているだけだ。皆でそう言い合っていたのだが、1人、もう1人と同じ夢を見たと顔を青くして報告してくる。

みんな、気にしすぎじゃないか?
そんな事を思っていたのだが、私自身も同じ夢を見た。

あの神社の草が生い茂る参道にただ立ち尽くす。
そんな私を、女性なのか男性なのか分からない、若くも見えるし、老人にも思えるような人物がボロボロの服を着た人物が、こちらを凝視している。

全員が同じ夢を見ることなんてあるのだろうか?
正直、ありえないと思う。
でも、それ以上にこの些細な出来事を、超常現象の類なんかだとも思いたくない。

友人たちはお祓いに行ったらしい。
私は気のせいだろうと、そう思いながら過ごしている。そして、その些細な現象は数年経った今でも続いている。


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