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過去の私からの謝罪

ただ混んでいるからという理由で、多目的トイレを使ってしまってごめんなさい。ベビーカーごと入れて、オムツ替え台もできる、貴重な場所なのに。

妊娠中に優先席に座るとき、奥の席も空いているのに、ドアに近い方に座ってしまい、ごめんなさい。ベビーカーで車両と車両の間の通路を塞いでしまい、通る人の冷たい視線を浴びてしまうということに気づけていませんでした。

改札口、わざわざ通路の広い改札を身軽な私が使っていてごめんなさい。通路の幅の違いがあることすら気がついていませんでした。狭い改札をベビーカーで通り抜ける時のストレスに、思い及んでいませんでした。

とりわけエレベーター。
たまたま通りかかって見かけたから、いや、そんなことも考えもせず、本当に無意識で、エレベーターに乗ってしまってごめんなさい。
エスカレーターでも構わないのに、手ぶらの私が、なぜエレベーターを使っていたのでしょう。階段やエレベーターであれば、数分のいや、数秒の距離を、ベビーカーでは、なかなか乗り込むこと出来ず、何回も何回も見送って、10分以上かかるということ、思い至っておりませんでした。そして、エレベーターとは、本来どういう人のためにつくられたのか、考えたこともありませんでした。

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「なんだこれ!?いじめか!?いじめか、おいっ!」

数十メートル先から、悲痛な怒鳴り声と共に、よちよち歩きの子どもの手をひき、片手でベビーカーを押しながら突進してくる女性におののいて、思わずエレベーターを降りた。

「お母さんはいいの!お母さんはいい、乗ってて!!!戻る!」

言われるがままに元の位置に戻り、抱っこひものなかの息子とともに、その場の行く末を見守った。

「子どもは元気、大丈夫!階段で行け!降りる!」

私の後ろで、小さくなって隠れていた小学生の女の子5人組が、光にあてれたまっくろくろすけみたいに、ささささーっと逃げ出していった。

「ごめんねー、吉祥寺の駅のエレベーターで、もう発狂しそうになっちゃってさー!」

ようやく改札階へと登りはじめたエレベーターの中で、息を切らしながら、一連の騒ぎについて詫びられた。

「あそこですよね!?わかります、その気持ち!ぜんっぜん乗れないですよね!私はもう、あきらめて最近は抱っこにしちゃってます〜」

その気持ち、よーくわかる。
わかりすぎて、小学生を引きずり下ろして叫びたくなる気持ちをしのび、泣きたくなる。

「かしこい!それが正解だ!かしこいお母さんでよかったね〜!」

息子の頭をひと撫でし、お互いがんばろうね〜と、さよならした。

またある時、

老舗デパートのエレベーターにて。

格式高き、老舗デパート、エレベーターガールが何人もいるのに、どうして10分待ってもエレベーターに乗れないのだろう。後からきた、手ぶらで身軽な老若男女、がすいすいと乗り込んで、永遠に乗れないのではないかと、途方にくれた。
満員のエレベーターの扉ごしに、申し訳ありません、と声なき声と顔で、こちらを振り返りながら去ってゆくエレベーターガールのお姉さん。

立ち尽くす我々を、ぐんぐん追越して、エレベーターに吸い込まれていく人々の波に揉まれ、はて、我々は、透明人間だったっけ、と錯覚した。
もしくは、このデパートには、エスカレーターがないのか?いや、そんなはぶはない。

見かねた店員さんのひとりが、一度、一番下の階まで降りて上の階に上がってほしいという。

何機もあるエレベーターのうち、一台でもいいから、ベビーカーや車椅子優先とサインを掲げてくれたら。
何にもいるエレベーターガールのお姉さんのうち、1人でもいいから、声かけをして、誘導してくれたら。なかなかこないエレベーターを待つより早いのだし、不要な人には、エスカレーターを案内してくれたら。

買い物をする前に疲弊して、もう二度と、ベビーカーでは、このデパートにはこない!と誓う。

と、同時に、当事者にならなければ思いいたらぬことって、たくさんあるんだなと反省した。

あの、まっくろくろすけのごとく去っていた小学生も、老舗デパートのエレベーターに吸い込まれていった無情の人々も、あれはすべて、過去の私だ。

あの頃の私になりかわり、今の私に、ごめんなさいと、謝りたい。

そして、自分にできることはなにかと考える。気がついた人から行動すること。
不要の時に、使わぬこと。
自分よりもっと、必要としている人に譲ること。
息子に伝えること。

余計なお世話かもしれないが、不便を感じたときに、同じように不便さを感じる人が少なくなるように、声にすること。

まずは、件のデパートに提案してみようと思う。



麻佑子

#日記 #エッセイ #子育て #育児


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