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歯がゆくて、しあわせなこと。

歩きながら、イヤホンで音楽を聴くことができない。

電車に揺られて、ちょっとした待ち時間での読書ができない。

やろうと思えばできるのかもしれないけれど、息子と一緒にいるのに、自分ひとりの世界にはいることが、忍びなくてできない。
寝ている時ならいいのだけれど。

だから、1人で音楽を聴きながら颯爽と歩く人が羨ましいし、喫茶店や電車で、本を読んでいる人を見かけると、たまらなく羨ましくなる。

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息子を連れて歩くと、必ずと言っていいほど、知らない人とおしゃべりすることになる。特に年配の方。

「一番尊い仕事って何かわかる?それは子育て。」

先日も、息子をだきながら駅で夫の帰りを待っている最中に話しかけられた。

そう、今この私に託された仕事は、責任重大で大変で最高に楽しくて、愛おしい瞬間の連続なのだ。

たとえ、夫に「この曲いいよ!」と勧められるばかりで、私も何かオススメしたいと思っても、それが出来ず歯がゆい思いをしていても、いっときのこと。

時代に取り残されたように感じても。

息子と同じ蝉の鳴き声を聞いて、「蝉さん元気に鳴いてるね」って語りかけよう。

以前のように、もう、夏の夕暮れどき、ふらりと立ち飲み屋でかるく一杯、なんてできないけれど。

息子と一緒に、ゆっくり歩きながら、暮れゆく空の色を眺めよう。
そして息子の瞳に映る、その空の美しさに見惚れ、息をのむ幸せを噛みしめよう。

きっとそれは、次々と生まれる、新しくて素晴らしい音楽や、本や映画や、アートやニュースに匹敵するくらい、刺激的で貴重なものになるだろう。

流行りの曲も、最新の映画も、話題の本も知らないけれど、
現に今、
通りすがりの人生の先輩方から、書物からの受け売りではない、彼、彼女らの生きた知恵や哲学を、毎日授けられている。
一冊の本を読むこと以上に、得難い幸福に恵まれている。

麻佑子


#日記 #エッセイ #子育て #育児


麻佑子

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