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鶏天おろし



人間って都合の良いもので、嫌だったことも苦しかったことも、時間が経てば美しくなったりする。

大学4年間捧げたダンスの話。

わたしは、大学1年生の時に初心者でダンスを始めた。

それまではテニスとかバドミントンとか、何故かラケット競技縛りで色々なスポーツをしていて、

幼少期海外でテニスを習っていたこともあって、わりと最初から"できる方"だったし、

部活の中でも"できる方"で、

大会に出ても"できる方"だった。

だけども、勝ち負けがつく競技は、当然勝てば楽しいけど負ければ悔しいわけで、
ずっと勝ち続けられるわけでもないので、わりとずっと、苦しかった。

なので、勝ち負けがつかないスポーツをしたくて、
ダンス部は全員がキラキラしてるように見えて、憧れて大学でダンスを始めた。
そんな単純な理由だった。

だけど、ダンスにも勝ち負けがあった。

当然だ。上手い人が前で踊るし、下手な奴は見えないところで踊る。

わたしが入ったサークルは、かなり"ガチなやつ"で、
今考えてみれば、自分が"できない方"になったのはこれが初めてだったかもしれない。

小学生時代にかじっていたhiphopやバトントワリングの経験は何のアドバンテージにもならず、ダンス部出身の仲間にただただ嫉妬して、隅っこで僻んでいた。

5月に初めて合宿に参加した。
3日間、朝から晩までひたすら踊り込む。
そして、3日目の午後に、3日間で1から作ったショーを披露する、というものだった。
同期が寝る間を惜しんで練習していた。
"うまく踊りたいから"と。

意味が分からなかった。
たった3日間でうまくなるわけがないのに、しかも3日後に披露して、それでそのショーは2度と披露しないのに。
何でそんなに頑張れるんだろう。

早く帰りたい。

この時、体育座りをして浮かない顔をしていた女の子がいて、
"もう帰りたくない?"
わたしと同じことを考えていた。

あれから丸4年が経とうとしている。
わたしも、あの時一緒に帰りたくて意気投合した友達も、4年生になっていた。
まだ、ダンスを続けていた。

しかも、お互い30人や40人の前に立ち、曲を考えて、振り付けを考えて、構成を考えて、後輩に教える立場になっていた。

何かを辞めたくなる時、
"とりあえず続けてみる"ということは、
あまり美しくないけど、充分ありだと思う。

みんなが、綱引きの縄くらい太いモチベーションで繋がっている中で、
わたしはほっそくて頼りない糸に繋がれて、1番ビリで、なんとかぶら下がっていたとしても、
そんなわたしでも、そんなわたしだからこそ、
できたダンスがあって、作れたショーがあって、伝えられたことがあった…
かもね?

"鶏天おろしって、串だったんだ。"
串だとは思わなかったね。
"ね、美味しそうだね。"
そうだね。
"ねえ、私たち、大人になったね。"

そうだね。
わたしたち、体育館の隅っこにいた時より、随分と大人になったね。



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