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演劇企画CaL番外公演『山の神様 -The Gods of the Mountain-』紹介

劇作家紹介の連載を読んでくださっている皆さま、この度はわたしが主宰しております演劇企画CaLの公演作品を紹介しております。ご容赦ください。

さて、演劇企画CaL番外公演はロード・ダンセイニ作『山の神様 -The Gods of the Mountain-』を上演します。野外での公演であることと、感染症予防の観点から、従来劇場公演で作成・配布している公演パンフレットは今回作成せず、こちらの記事にてかえさせていただきます。そういうわけですので、公演パンフレットのような気持ちでお読みくださいませ。

公演情報はこちらから。

10/9の当日観覧は予約受付を終了しました。10/23〜の映像配信はどなたでもご覧いただけますので、どうぞこちらをよろしくお願いします。映像配信チケットは1000円です。販売サイトは追って公開されます。

*追記
映像配信チケットの販売サイトです。映像の公開は11/6 23:59まで、配信チケットの販売は11/6 23:00までです。


ご挨拶

改めまして、演劇企画CaL主宰の吉平です。当団体はアイルランド演劇を専門に上演する団体です。アイルランドは国そのものすら日本ではマイナーですが、小国ながらかなり豊かで個性的な文化を持っています。そのひとつに文学があり、中でも演劇はかなり盛んで有名な劇作家は数知れず(詳しくは連載の方をぜひご覧ください)。

今回扱います作家ロード・ダンセイニ(1878-1957)は、ファンタジーの巨匠としてその創作神話『ペガーナの神々(1905)』『時と神々(1906)』などが有名で、彼の作品は20世紀以降のあらゆるファンタジー、SFなどに影響を与えたと言われています。一般的にはあまり戯曲のイメージはないのですが、ダンセイニの描き上げた世界の中にある戯曲もまた、名作揃いです。中でも今回上演します “The Gods of the Mountain” 通称『山の神々』は、ダンセイニの戯曲の中でも最高傑作だと言われていて、ユーモラスでありながら、複数の視点から同時に一つの世界を見ることのできる秀逸な構成の作品です。上演のためにわたしたちは邦題を『山の神様』としました。


ダンセイニの活躍した年代は、アイルランドで演劇運動が盛んだった時期なのですが、ダンセイニはアングロ・アイリッシュ(=イングランド系)の大地主の生まれで、ロードの称号からも分かるように上流階級の人だったので、民族運動とは常に距離をとっていました。そのため作品においても、同年代の作家・劇作家たちが「アイルランドっぽい」作品を書いたのに対して、ダンセイニは「まるでアイルランドっぽさがない」作品を書いていて、アイルランド文学のまとめからは外れることもしばしば。

しかし演劇企画CaLでは「アイルランド出身、もしくはアイルランドを基点に活動する・した劇作家、劇団の作品」を上演することとしています。ひとえに、わたしが感じる「アイルランドっぽさ」というのは、登場人物がアイルランド人だとか舞台がアイルランドだとか、まして民族運動などとは関係なく、「アイルランドという地を通して見る世界」であると思うからです。


この番外公演は、2020年世界が一変した中で企画しました。外出をせず家に引きこもって本を読み耽っていた時に、今、これを上演したいと強く思った作品です。タイトルの通り「神様」がキーワードとなっていますが、それまで明確な宗教観を何も持たず深く考えず生きてきたところに、ここまで「どうあがいてもどうにもならない状況」を目の当たりにして、つい神様の存在について考えるようになりました。この物語は全て、全くのフィクションですので、具体的にどこの宗教観、などというものではありません。ただ、「人」の考え方を描いただけだと思っています。


The Gods of the Mountainについて

ダンセイニは1909年にアイルランドの国立劇場アビー・シアターに依頼され最初の戯曲 ”The Glittering Gate” を書きましたが、以降アイルランド国内での演劇活動には消極的で、彼の作品は主にイギリスやアメリカで上演されていました。多作家で、小説や短編集や戯曲、詩など、実に50以上もの作品を残しています。

今作は1911年にロンドンで初演されました。舞台は架空の街で、戯曲には「東の方」とだけ記されています。乞食たちがお恵みをもらえなくなったので、神様になりすまして、市民たちからお供物をもらおうと画策する話です。

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10/9 東京都石神井公園にて。


アイルランドの民族と文化

今作はアイルランド文化とは直接的には関わりがありませんが、背景として紹介しておきます。

アイルランドはケルト(ゲール)民族です。数百年に渡り英国領だったためほとんどの人は英語を生活言語とし、イギリス文化の影響を強く受けていますが、アングロサクソンのイングランドとは異なる独自の文化も併せ持っています。国の公用語は古来からある独自の言語アイルランド語(ゲール語)ですが、21世紀現在で日常的に話されているのはごく一部の地域のみにとどまっています。人々はフレンドリーでおしゃべり好きですが、本音と建前を使い分けたり世間体を気にしたりして心を開くまでに時間がかかるなど、日本に似た特徴もあります。

かの司馬遼太郎がアイルランドを旅した際に、「まことに、文学の国としかいいようがない。山河も民族も国も、ひとりの「アイルランド」という名の作家が古代から書き続けてきた長大な作品のようでもある」(朝日新聞出版『街道をゆく 31 愛蘭土紀行Ⅱ』より)と記したように、「文学の国」と言われており、日本の北海道ほどの大きさの小国ながら、これまでにノーベル文学賞受賞者を4人輩出するなど数多くの有名作家、詩人、劇作家などを生んできました。

ほかにも、アイリッシュトラッドと呼ばれる伝統音楽や、リバーダンスで人気となったアイリッシュダンス、ゲーリック・スポーツ、日本の立ち呑み屋のようなアイリッシュパブなどが有名です。








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