高野文子という漫画家

 大好きな漫画家がいる。
 高野文子さん。
 この方の漫画に出会って、漫画の読み方が変わった。当時持っていた漫画のほとんどを読めなくなってしまったくらい。

 極めて寡作な方で、一番最近の作品は、2014年に12年ぶりに出した『ドミトリーともきんす』である。

 高野文子さんを知ったのは、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』の製作秘話を読んでいたとき。
 ジブリの伝説的アニメーター、近藤喜文さん(『耳をすませば』の監督)が、主役の千尋のキャラクターデザインを、高野さんの描く女の子に近づけようと提案したそう。千尋だけ他のジブリ作品のヒロインと毛色が違うのはそういう理由だ。

 高野さんは、滑らかな線で、登場人物の体の重みや力の入り方、やわらかさが分かる動きを描く(絵柄がかなり変わる方なので、一纏めに言えないけど)。
 パッと目を引く絵ではないけど、絵を描く人なら絶対に分かる上手さ。形式に甘んじた、金太郎飴のような静止画は描かない。
 また、視点も自由自在に操る。漫画の一コマの画の切り出し方と並べ方(映画でいうカメラワーク)は、読者をその世界に引き込む大事な要素だ。

 そして彼女の描く漫画は、基本的には「静か」なのだ。ド派手なアクションシーンとか、熱い友情・恋愛とか、主義主張とかは出てこない。日常の些細な美しさ、面白さ、不思議さを、静かなやわらかい線で、描く。
 だから登場人物の設定が凝っていたり、展開が劇的な漫画が好きだ!という方には、彼女の漫画は多分受け入れられないと思う。


 そんな高野さんの漫画本でまずおすすめしたいのは、
『棒がいっぽん』(1995年, マガジンハウス)。

        (私物の写真なので少し汚れあり)

収録作品は以下の6本。
・美しき町
・病気になったトモコさん
・バスで四時に
・わたしの知ってるあの子のこと
・東京コロボックル
・奥村さんのお茄子

 例えば『バスで四時に』は、一人の女性が婚約者の家まで挨拶に行く道中での、浮かんでは消えていくでたらめな思いつきを描写した作品。誰もが経験したことがあるであろう感覚がさらりと描かれている。

 『奥村さんのお茄子』はこの単行本の軸の作品であるにも関わらず、一読では捉え難い作品となっている。
 とっても遠くから来た遠久田さんは、一見するとスーパーのレジ打ちのお姉さん。しかし実は「整形」でその姿になっている。帽子からメガネからクツの先まで。遠久田さんは、整形で醤油差しになった先輩の、ある事件についてのアリバイを晴らすために、電器屋を営む奥村さんの元をはるばる訪ねに来た-
 この文だけ読んでも???だと思う。わたしも書いてて未だに???である。興味が湧いた方は、ぜひ一度読んでみてほしい。


 そして、もう一冊おすすめしたいのは、初の短編集である
『絶対安全剃刀』(1982年, 白泉社)。

 17作品収録されており、様々なタッチの作品がある。この本の巻頭作品は『たあたあたあと遠くで銃の鳴く声がする 』。カラートーンを用いたカラー作品で、5ページからなる超短編である。
 銃の鳴り響く音を聞いて、ある少女が「また貂が銃をいじめている」と怒り、銃を助けに行く。この少女はなぜこんなあからさまな「間違い」をするのか?
 5ページしかなく、絵柄もかわいらしい。でも何度も読み返してしまう。
 他にも素敵な作品がたくさんあるけど、紹介が難しくネタバレ必至なのでここでは控えたい。


 上の2冊の単行本を挙げて、以上で高野文子という漫画家の簡単な紹介とさせていただく。今回はイントロとして、あまり個々の作品については触れなかった。
 また機会があれば別の記事で、他の単行本も含めた作品の考察などをして、より深掘りできたらいいなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?