見出し画像

【#虎吉の毎月note】孤独の桜

 桜は孤独でした。
 彼女の自分勝手な性格が災いしているのでしょう。
 いつも妖精に無理難題を言っては、彼らを困らせていました。
 当然友達がいる訳もなく、自分自身以外に話せるものなどいませんでした。
 そんなある日、一羽の小鳥が桜の枝に止まりました。
「ちょっと! 気安く私のしなやかな枝の上に休まないでよ!」
 桜は小鳥にそう注意しますが、言う事を聞きません。
 もう一回言っても同じ結果でした。 
 腹が立った桜は枝を揺らして、脅かしてやろうとしました。
 すると、小鳥は静かに鳴きました。
 今にも消えそうな声に桜は枝を揺するのをやめました。
 よく見ると、翼に怪我をしていました。
「治るまでの間だけね」
 桜はそう小鳥に言いました。
 ですが、いくら経っても小鳥が羽ばたこうとしませんでした。
 翼はとっくに治っているはずなのですが、小鳥は自分の住処のようにあっちこち枝を移動していました。
 遂に限界が来た桜は枝を揺らして、小鳥を追い出す事にしました。
 小鳥はびっくりしてそのまま旅立ってしまいました。
「ふぅ、これでゆっくり過ごせるわ」
 桜はホゥと息をつきました。
 すると、三羽の小鳥が飛んでいました。
 しかし、そのうちの一匹が他の二羽にいじめられていました。
 くちばしで突き合っていると、ある小鳥が地面に叩き潰れるように落ちていきました。
 桜はその小鳥を見た瞬間、全身が震えました。
 彼女が追い出した小鳥だったからです。
 桜はようやくなぜ小鳥が自分から離れないのか、分かりました。
「お前も私と同じ孤独だったのね」
 桜は花びらを散らして泣きました。
 妖精に頼んで、小鳥のお墓を作りましたが、それでも桜の悲しみは消える事なく、全ての花が落ちたのを最後に、二度と開花する事はありませんでした。

 人間達の間では、春になっても咲かない桜の事を『孤独の桜』と呼んでいるそうです。

↓今回参加した企画はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?