【#シロクマ文芸部】そよ風が吹く丘の上で
詩と暮らす。
そよ風が吹く丘の上で。
あなたと二人きりで。
朝は決まってハーブティー。
私はスコーンにジャムをつけて。
あなたと二人きりで。
昼は晴れたらシロツメクサの花畑で。
青空を見ながら他愛もない話をする。
あなたと二人きりで。
雨だったらポタポタと落ちてくる水滴が。
ピチャンと缶の中に落ちていく音を聞いて。
あなたと二人きりで。
日が暮れたら手を繋いで家に帰る。
あなたが支度をして、私は配膳。
今日は私の大好きなクリームシチュー。
パンに付けたりしながら食べる。
あなたと二人きりで。
夜はトランプでもして遊ぼうかな。
ババ抜きはあなたが大好きな遊び。
私は嘘の顔が苦手だから。
すぐにバレちゃって負ける。
でも、楽しい。
あなたと二人きりだから。
二人きりだから。
二人きりだったから。
あの小屋はあなたと私がいたから。
今はガラクタの物置。
青空が曇り空にしか見えない。
花畑は霞んで見える。
雨はうるさくてキライ。
シチューも焦げてマズイ。
トランプもつまらない。
あなたと二人きりの世界がこうも簡単に壊れるなんて。
でも、仕方ないよね。
もう宣告されていたから。
あなたが人生最後の夢を果たしてくれて良かった。
幸せな顔をして眠ってくれて良かった。
でも、私はあなたがいないと駄目なの。
あなたと二人きりの世界が。
私にとっての全てだった。
あなた無しの世界は。
私には無意味でしかない。
あなたでないと駄目なの。
あなたでないと駄目なの。
あなたと二人きりがいいの。
あなたと二人きりがいいの。
私が丘の上でそう叫んでも。
やまびこは言ったまんま返ってくる。
今日は詩集を見つけたよ。
全部私に向けたもの。
赤面したくなる言葉も見つけた。
私の返事なんかもっと恥ずかしい。
若い頃の私はこんなに情熱的だったんだ。
久しぶりに書いてみる事にした。
だけど、駄目なの。
こんな言葉じゃ。
あなたに笑われちゃう。
こんな言葉じゃ。
あなたが悲しんじゃう。
こんな言葉しか。
苦しい言葉しか。
虚しい言葉しか。
今の私にはそれが限界。
駄文と暮らす。
黒風が吹く丘の上で。
孤独の私はただの紙屑。
あなたの僅かな温もりと二人きり。
それを失った頃が。
私の最後。
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