『最強姉妹の末っ子』第7話
私は待っている間、旅立つ準備の最終確認をした。
携帯食料とナイフとお金と着替え。
鞄は動きやすいポシェットに入れて首から掛ければ……うん、見た目は完全にピクニックに行くような感覚だけど、万が一戦いがおきてもいいように身軽な格好が一番だよね。
私は満足した様子で頷いたとほぼ同時に「できたー!」とロリンの声が聞こえた。
「何ができたの?」
私が駆け寄ると、机の上にピニーと同じ三角帽子を被った小人が乗っかっていた。
まつ毛が他より長いから女の子だろうか。
あれ? ピニーって全部オスだったの
け?
でも、今はそんな事はどうでもいいか。
「修理でもしたの?」
「チッチッチッ! まぁ、見ててよ」
ロリンは額にあるスイッチを押すと、眼が光った。
ピョンと飛び跳ねるように起き上がり、私とロリンの顔を見た後、「こんにちは、ロリン様とメタ様」とお辞儀をした。
「しゃ、喋った?! それに何で私の名前を知っているの?」
「ふふん! 彼女の頭の中にメタメターナ王国全国民に関するデータを入れたのさ」
え? それって、私とロリンを含めた我が国に住んでいる人や魔族も全部ってこと?
「でも、そんな情報どうやって……」
「フフフ……『叡智』と呼ばれる私を舐めないでいただきたいね。メタちゃん!」
ロリンはそう言って『メタメターナ王国、国民情報』と表紙に書かれた本を手に取った。
びっくりするぐらい分厚くて、岩よりも重いこの本には、確か国民一人一人の出生や配偶者、子供の有無、職業などが記されている。
そういえば、ロリンはこの膨大な記録を全部暗記していたっけ。
まさかそれを全部この小人一体に収めたの?
凄すぎでしょ。
私は空いた口が塞がらなかった。
「この子が代わりに国を統治してくれるから」
ロリンはそう言って、小人の頭を撫でた。
「私達が留守にしている間、よろしくね」
「はい、頑張ります」
小人はピョンと机から降りると、ピニー達を呼んだ。
「今日から私がこの国の女王です」
小人はお辞儀をすると、ピニー達は手を叩いて祝福していた。
「ねぇ、ロリン」
私は彼らに聞こえない声で聞いた。
「どうしたの?」
「私達が帰ってきたら、この子達に国を乗っ取られる事はないよね?」
私がボソボソと言うと、ロリンは「大丈夫! 大丈夫!」と明るい口調で返した。
「そうならないようにプログラミングされているから!」
「プロ……ぐらむ? 何それ?」
「まぁ、一種の洗脳みたいなものよ」
何それ、凄い物騒な事をこの子達にしているの?
私が戸惑っているのが分かったのか、フフッと笑って「冗談よ! そんな事する訳ないじゃない!」と背中を叩いた。
何かちょっと腹立った。
ふとそんな凄い発明をしているのなら、空飛ぶ道具か装置かを開発しているのではないかという考えが頭を過ぎった。
「ねぇ、空飛ぶ機械とかないの?」
私がそう尋ねると、ロリンは「うーん、あるにはあるけど……その靴に」と私が履いているパンプスの方を見た。
「え?! 本当?! どうやってやるの?!」
「い、いやぁ……でも、止めたほうがいいと思うよ」
いつもだったら意気揚々と語るのに、今回ばかりは乗り気ではなかった。
「ねぇねぇ! いいから! お願い!」
空を飛ぶ事ができたら最短で王子様の所に行ける。
それがこの靴に備わっているのなら、使わない手はないじゃない!
私が頼み込むと、ロリンは「じゃあ、これを」と例の箱からお菓子を渡してきた。
今度は茶色だった。
「使うにはポーションが必要なの?」
「念のための保険。食べて」
また下着姿にならないか不安になったが、自分は今普通のドレスを着ている事を思い出し、一粒受け取った食べた。
うん、チョコレートだ。
「……食べたけど、何も起きないよ」
「靴のかかとを二回鳴らしてみて」
「どうして?」
「それが飛ぶ魔法の合図だから」
ロリンがニヤッと笑った。
なんか嫌な予感がしたが、物は試しだ。
やってみるか。
私は言われた通り、靴のかかとをコンコンと二回鳴らしてみた。
すると、シュゴォオオオという音が聞こえたかと思えば、私の身体が浮かんできた。
チラッと見ると、靴が燃えていた。
「え? ちょっ――」
そして、一気に急上昇した。
せっかく直した天井を突き破り、気づけば青空が見えた。
顔面に強い風がぶつかってくるからまともに眼を開けられなかった。
たまらず下を向くと、靴の方から何か炎みたいなのが出てていて、動きづらい上、うまくバランスが取れない。
私は宙でジタバタしていると、地上から私の名前を呼ぶ声がした。
チラッと見ると、ロリンがリュックを背負いながらフワッと飛んできた。
「どう? この靴には凄まじい火炎で身体を浮遊させて空を飛ぶ機能があるんだけど……思った通り、失敗だね」
ロリンが懸念していたのはこの事だったんだ。
「ロリン! 早く止めて!」
「えっと……もうすぐ燃料切れると思うよ」
「……え?」
ロリンの言う通り、暴れるくらい炎を吐き出していた靴が急に大人しくなった。
突然浮遊感は無くなり……。
「きゃあああああああ!!!!」
みるみるうちに落ちていった。
「メタちゃん!」
ロリンが私を掴もうとするが、あともう少しで届かなかった。
あぁ、死んだ――と死を悟った。
私、王子様と二度と会える事なく、バカ姉の発明品で死ぬんだ。
地獄の底から恨むぞ、ロリン。
私はそう念じ、地面に激突した。
目覚めたら天国――ではなかった。
草原にいたのだ。
ムクッと起き上がって、自分の心臓の音を確認した。
トクトクと流れている――これは確実に生きている証拠だ。
でも、どうしてあんな高さから落ちても平気だったのだろう?
服は……土で汚れているけど、はたいて落とせば問題ないよね。
私は起き上がって、汚れたドレスを綺麗にしていると、いつの間にか地上に戻ってきたロリンが駆け寄ってきた。
「メタちゃん! 無事?」
「見ての通りね……あ、そういえば私が飛ぶ前に食べさせたポーションは何だったの?」
「あぁ、あれ? あれは『硬化のポーション』って言って、皮膚を鋼鉄みたいに硬くさせる効果があるのよ」
なるほど、それを食べたおかげで、私はピンピンしているのか。
ふと足元を見ると、靴が真っ黒に焦げていた。
それを見たロリンが「ほら、新しいのに履き替えて」と新品のパンプス(イチゴミルク色)を渡してきた。
受け取って履いてみる。
うん、ピッタリだけど、なんでこいつは私の靴のサイズを知っているんだ?
「ねぇ、ロリン……」
私が質問する内容が分かったのか、ロリンは「さぁっ! 王子様はあっちの方向にいるらしいよ! 行こう!」と言って歩き出した。
うーん、なんかはぐらかされているような気がするけど……まぁ、いいか。
↓宣伝の妖精からのお知らせ
皆さん、こんにちは。
チュピタンです。
まずは、本当にすみませんでした。
お酒は今後一切飲まないと誓いました。
家にあった未開封の酒は全部売りました。
開封してしまったお酒は料理やスイーツに使いました。
一滴たりとも飲んでいません。
今後はちゃんと自分の置かれている立場を自覚した上で、誠心誠意で宣伝させていただきたいと思います。
では、宣伝です。
この作品を少しでも面白いと思ってくださったら、ハートとコメントをください。
では、感想に移らせていただきます。
えっと……紙……紙……あった。
コホン……えーと『今後のロリンの発明に期待します』。
感想は以上となります。
次回からは、ちゃんといつものテンションでお送りさせていただきますので、よろしくお願いします。
本当にすみませんでした。
↓次回の話はこちらとなっております。
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