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夏夜の引金

 最近、星見てますか?

 星を見上げるのが好きだ。
 特に少し暑くて、日没からどんどん涼しくなって瞬きの間に夜になっているような日の、肌触りよい風に撫でられて眺める星は最高だ。

 しかし星のことはあんまり知らなくて、昔図鑑で調べて全く知らないわけではないはずだけれど、その知識もあまり覚えていないのだ。ただなんとなく、いつかの夏に見上げた空にどんどん近づいていって、吸い込む空気も生温くなっていくことが喜ばしい。

 『枕草子』においては「春はあけぼの」をはじめとして四季折々の魅力的な時間が綴られるが、自分にとって四季は夕方から夜にかけて、それぞれの特性を色濃く出してくると思っている。というのも、昼間は自分には眩しすぎてじっくり見られないからかもしれない。色鮮やかな緑や花、陽の光、銀杏並木、雪の照り返し、全てのコントラストが眩しい。情緒として四季を感じたいが、全くアウトドアな趣味のない自分には昼間は輝きすぎている。そういえば先に引用した『枕草子』にも昼間は無いな。明け方、夜、夕暮れ、早朝。いずれも薄暗いか真っ暗な時間帯だ。清少納言にとっても、四季の昼間は眩しすぎたのだろうか。全編読んでないから知らないけどさ。

 話は少し逸れたが、この夕方から夜、夏の前には特に物思いに耽る。涼しい風が一瞬止んであたたかい空気に包まれ、そいつの尾を捕まえたいとその場にとどまる時間。見上げると夜空は晴れて、何年も前から瞬き続けている星がある。昔の人は、よくこの手も届かない夥しい数の光の粒に名前をつけようと考えたものだ。

 なんだか6月は長い。夏夜が待ち遠しすぎるからだろう。しかし、もしかしたら今、本年もきっと鮮烈であろう夏の引金に手が掛けられていて、それを弾かれのるをそわそわと待っているこの時間が、一番気持ちいいのかもしれない。実際、暑すぎるし眩しいし、夏そのものってあんまり好きではないかもな。変なの。

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