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カナダで映画「君たちはどう生きるか」を観た感想(日本語版との違い)

音声バージョンはこちらから↑

もう一度劇場で観たくなる映画


こんにちは!カナダ西海岸都市。バンクーバーの郊外のまた郊外からお送りしております、シンガーソングライターのメイナです。
今日は宮崎駿監督のジブリ最新映画「君たちはどういきるか」を日本で観た時とカナダで観た時の印象の違いについて書いてみたいなと思います。  
  
多くの人がそうであるように、私ジブリ映画の大ファンでして。映画シリーズを見て大きくなりました。メイナというアーティストネームも小さいころによくとなりのトトロのメイちゃんに似てるねと言われたことからつけたくらいです。

そして去年7月に公開された最新作「君たちはどう生きるか」が出たと言うことで、去年の12月に日本で自分の結婚式をしに一時帰国をしたタイミングに合わせて観に行きました。音声版はこちらからどうぞ!!

もうこれが本当に圧倒される素晴らしい映画で。なんていうか、いい意味で観た後に現実に放り出される感じ?すごく哲学的で人間として生きる原罪や醜さってものに正面から向きあっていて、そしてそこから醸し出される時折の美しさみたいなものがぎゅっと集約された、そんな映画だったと思います。
 
これはもう一回絶対見ないと!思っていたらもうカナダに帰る日になってしまって。あーあと思っていたらですね、なんとも丁度良いタイミングで「君たちはどう生きるか」が私がカナダに帰った直後から欧米各地で上映され始めました。
 

カナダでまさかの英語吹き替え版を見ることに


「あーやったー!」と思ってこちらに帰ってきてから近所のシアターまで行きました。チケット買っていざ映画を観始めたらですね、なんと英語の吹き替えバージョンでした。なんで日本語ネイティブなのに日本のアニメを英語吹き替えで観るねん!と自分で突っ込みたくなったんですが、チケット買っちゃったからもういいやと思ってそのまま見続けました。そしたら案の定日本でオリジナルを観た時との凄く良い比較になりました

 アオサギの英語吹き替えに度肝を抜かれる


まずは英語で吹き替えをした声優さん達の声がすごくよかったんですよ。
私個人的には映画の吹き替え版って正直あんまり好きじゃないんですよ。ハリウッド映画の日本語吹き替え版もアニメの日本語吹き替え版もおんなじで、言語の持っているニュアンスとか空気感みたいなものが伝わらない、むしろ全然違ったものになってしまう。アニメキャラの声なんかも違ったりすると結構違和感が残ると思っているので。 

でもこの映画では声優さんたちの声が日本語の声とすごく似てたんですよ。もちろん人によって感じ方はそれぞれだとは思うのですが。
私の中ではすごくオリジナルの日本語バージョンと比べて声質とかキャラクター性っていうものがほぼそのままちゃんと英語吹き替えバージョンにも投影されていて、観ている時に日本語ネイティブにとっても違和感をあまり感じないようにちゃんと配慮されてるなという印象を受けました。
 
とくにビックリしたのが菅田将暉さんが見事に演じられたアオサギの声がまさかのあの映画トワイライトの彼、ロバートパティンソンさんで。これは吹き替え版を見た後に知って本当にびっくりしました。だれがどういう経緯で彼をキャスティングしたんでしょうか。彼の声優としての技術―しかも別の言語で作られた作品を吹き替えするプレッシャーっていうものがあったと思うんですが、本当にお見事で彼を見る目が変わりました。
 
あとは敢えて言うのであれば柴咲コウさん演じるキリコの声。特に若い時の彼女の声が英語吹き替えバージョンだと柴咲さんの声より若干低めでオリジナルキャラより少し年季が入っている感じがしました。でも全体的にすごく自然な吹き替えで純粋にびっくりしました。

ちなみに滝沢カレンさんが演じたワラワラの声だけがそのまま世界デビューしたというガイドブックの裏話は面白かったです^^
 
もし日本語と英語吹き替え両方見られた方いましたらどう思いましたか?
キャラクターの声の印象の違いは映画の印象に違いをもたらしたと思いますか?
 

怖い(であろう)シーンも「Ha ha ha!」と笑い飛ばすカナダのお客さん達


もうひとつ目は笑いのツボの違いについて

欧米の方たちは感情を素直に体や声を使って表現する傾向にあると思っていて、映画を観ているときとかも結構声に出して「Ha ha ha」て笑うでの笑いのツボみたいなのがすごくわかりやすいんですよね。
それでこの映画を観ている最中に自分が「怖い」と思ったシーンで笑いが起こってびっくりしました。

どのシーンだったかというと、眞人がアオサギを追いかけて初めて大叔父さんの屋敷に辿り着くシーンなんですが、その時にアオサギが自分の体の三分の一位しかない小窓に自ら体を吸収させるシーンがあります。私はそのシーンがものすごく不気味に映りました。でも一緒に観ていた観客のマジョリティーが「Hahaha」と笑っていて。

掃除機ででっかいぬいぐるみを無理やり吸い取る?みたいなそういうコミカルさが笑いを誘ったんだろうなとはい思うんですが、私的にはあれはアオサギがただのアオサギではない。怖い存在なんだぞということを観客に見せてるシーンだったんじゃないかなと思ってるんですよね。これは私が日本人だからなのかそれとも個人的な受け取り方の違いなのか分からないんですけど。どっちがよくてどっちが悪いとかではなくて、もしかしたら何を怖いと感じるのかっていうのも文化的な違いがあるのかもしれないなと思いました。
 

Lost In Translationになっていたと思うところ


①少年とアオサギの関係性

これはLost in Translationになっていたなと思うところ。それは少年と青サギの関係性の変化が日本語でしか表現できない点にあるということ。
日本社会では話者同士の人間関係によって日本語の話し方がかなり変わる。このMemeを見たことがあるでしょうか?
この映画の中だとMahitoと青サギの関係性はお互いが話す時のタメ語と敬語の使い方によって示唆されている箇所がいくつかある。

Mahitoは青サギに対してタメ語。それに対して青さぎはどこまでも敬語で話す。なぜ青サギはというと丁寧に喋りたいのではなくて人との距離をとっているから。そんな二人の関係性はどこまでも曖昧で距離が縮まるのかと言ったらそんなこともなく。

「あばよ、友達」に凝縮された意味

そしてアオサギはどこまでもMahitoに自分の素性を明かさないんです。だって最後まで名乗ったり自分の生い立ちなんかを話さない。まひとが青サギのことを「仲間」だと認識しているのはどこまでも一方通行なんですね。
でも旅の最後に青サギが「あばよ、友達」と言うシーンがあるのですが、この「あばよ」という言葉のチョイス。これは相当親しい相手じゃないと絶対に使わない「あなた」の代わりなんですよ。これがまさにお別れ直前、最後の最後で青サギがまひとに心を許した瞬間だったと私は思っていて。この微妙な言葉のチョイスが英語にはなかなか反映されずらい。映画の言語が変わると言うことはストーリーの理解をより映像に頼ることになる。どうしようもないことなんだけど、少しもどかしい気持ちになりました。
 

②”How do you live?”にならなかった英語タイトルの違いで生まれる差異


もうひとつ思ったのが、タイトルの違いですね。

オリジナルだと「君たちはどう生きるか」なんですが英語版だと「The Boy and the Heron」になっています。これがなんで気になったかというと、このタイトルの違いによって観客の映画の見方や映画の伝えたいメッセージに対する認識に違いが出てくる可能性があるなっていうことを感じたからです。

タイトル「君たちはどう生きるか」にこめられた思い

私がこのガイドブックを読んだ理解では「君たちはどう生きるか」というタイトルにこめられた思いが2つあります。ひとつは1937年に出版された吉野源三郎作の本「君たちはどう生きるか」に宮崎監督が大変感銘を受けて、そのタイトルを借りて宮崎監督のオリジナルストーリーを展開していったという点。もうひとつは宮崎監督がそのまま観客に「ぼくたちはこうやって生きてきた、君たちはどういきる?」と問いているっていうメッセージがそのままタイトルとなったという点です。この二つについては日本語のガイドブックに記載がされています。
さっき私が「(見終わった後に」いい意味で現実に放り出される感じがした」といったのですが、それがこの「君たちはどういきるか」というタイトルにリンクしていて、映画が一番見た人に問いかけたかったメッセージなんじゃないかなと思うんですね。
 
それと比べて「少年と青サギ」っていうタイトルだと、「君たちはどう生きるか」という問いよりもこの二人の登場人物の関係性に焦点が向いてしまうんじゃないかなと尾思いました。これとイコールではないけど同じ理屈でジブリ映画の「耳を澄ませば(Whisper of the Heart)」っていうタイトルが「雫と聖司」になっちゃったらやっぱり同じ映画でもラブストーリーの要素が強くなっちゃうみたいに、「少年と青サギ」だとこの二者がどうやって友情関係を結ぶのかって言うのに重きを置かれがちになてしまうと思うんです。

欧米の観客を意識したタイトルチェンジ?

そしてこの映画を見たいと思う観客には二つのモチベーションがあると思うんですね。一つはこの「君たちはどう生きるか」という本の事を知っていて見る、二つ目はシンプルに宮崎駿監督の最新作!という話題性で観るという2つ目の動機があって、この吉野源三郎の本の存在をほぼ知らないであろう欧米の観客たちはほぼ後者の理由のみで観るはずなので、「少年とサギ」というもう少しとっつきやすいタイトルにしたっていうのがジブリの戦略だったんじゃないかなと思いました。

異国の地のお母さんを感動泣きさせる宮崎監督のすごさ


それでかはわからないけれど、私が観た回では小さい子供を連れて見に来た家族連れが沢山来ていていました(ちゃんと前売りチケットまで買って)
映画の最後で家族できていたお母さんが泣いていて、父親と子供だけ先に劇場の外に出ていてもらって、一人最後まで涙ぐんでエンドロールを見ていたのが印象的でした。

トトロ映画のような30年前のジブリ映画とは全く違う、もっといい意味でカオスな、哲学的な映画で、もちろん言語が吹き替えられれば100パーセント日本語のニュアンスが伝わるかと言われれば限界がある。それでもこの作品が子供から大人まで見られて、観客の心に響くものを残せる宮崎さんはやっぱりすごい!ですね。
 
皆さんはどう思いますか?
この映画のタイトルが「How do you live?」だったら映画の見方が変わったと思いますか、それともそんなに変わらないと思いますか?
 

他に興味深いポイント:

最後にこちらだけ紹介して終わりにします。
 
·      映画が終わった後に一緒に観た友達や家族とエンドロールで徹底的な話し合いが行われていましたーみんな米津さんの歌を聴いて!エンドロール含めて映画の一部だから!と言いたい気持ちを我慢していました(笑)
 
·      これジブリ映画に関わらずだけれど、映画の配給会社は字幕版と吹き替え版の割合をどうやって決めるのか気になりました。もちろんマーケティング戦略なんだと思いますが。私の周りの大多数は日本語がわからなくてもアニメは字幕を見たがる人が多いなっていう印象なんですが、みなさんはどうでしょうか。
 
どちらにしても本当に素晴らし映画でどの世代の人でも楽しめると思うので、もしまだお近くのシアターで上映していたらぜひ見てみてください!そして海外に住んでいらっしゃる方!一回吹き替え版を見て字幕版と比べてみてみたら本当に面白いと思いますので是非両方のバージョンで観てみてください!
 



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