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怪談: タバコの香

以前勤めていた会社で、同僚から聞いた話です。

客先からの帰り道、駅喫煙所の前を "お互いタバコ吸わないよな" と
確認し、通りすがったあとしばらくして不意に
「タバコといえば」とこんな話を聞かせてくれました。

「まだ派遣で来てた頃ですけど」
「突然タバコっぽい匂いがすることがあって」

彼はもともと派遣社員から引き抜かれた形だったのですが
雇用形態が代わる以前、度々それに遭遇していたのだといいます。

少しねっとりとした印象の、煙のような香りだというそれは
通勤の電車をはじめ「こんなところで?」という場所でも
所かまわず唐突にフワッと香るのだそうです。

「すごい近くで匂うんですよ」
「そんなに混んでない電車だった気がするなぁ」
「もしかして自分から?って心配になったりして」

タバコの煙を直接吹きかけられるようだったといい
気味が悪いと共に、かなりの不快感があったそうです。

「鼻を悪くしたのかな、とも思ったんですが」
「耳鼻科かかって、何ともなさそうだって話で」
「吸引だけしてもらって、おしまいですね」

それは周りの人間にはわからないのかと聞けば。

「人じゃないですけど、自分の部屋であったときに」
「空気清浄……エアコンについてたんですけど」
「反応してたんですよね」
「彼女とそれでモメたりもありましたし」

それほど頻繁に起こるわけではないものの
どことなく不気味で、当時悩んでいたのだというその現象。
しかし、あるときからパタリと起こらなくなったといいます。

「切っ掛けらしい切っ掛けはないんですけど」
「しいて言うなら、リセッシュ吹きまくった……くらい」

何度目かの、自宅でその香りがしたときに
すっかり嫌気がさした彼は、床が湿る程の消臭スプレーを
部屋へ振りまいたのだそうです。

「それからしばらくして、社員になって」
「以降はなくなった気がします」

結局何が切っ掛けかはわからないそうですが
今はもう感じることがなくなって久しいのだと
当時そう語っていました。


私はそれほど、嫌いな香りではない

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