L達に肩肘張らずに観て欲しいホラー映画7選

本来はあまり、自他のセクシャリティ絡みの事を発信するつもりはないし、ここを読んでくれてる人の中にどれだけマイノリティの方がいるかも分からないので、今回は本当に独り言に近い記事になりそう。

いわゆるLGBT、LGBTQをはじめとするあらゆる個性の人々への差別・偏見を無くそうとか、不当に権利を奪ったり嫌な思いをさせるのはやめようみたいな多様性尊重の動き、つまり“ポリコレ(ポリティカル・コネクトレス)”が認知・推奨される世の中になってしばらく経つ。
マイノリティ当事者だけでなく、マジョリティの人々や子供達にもこの考え方が浸透するのは勿論悪い事ではないと私は思っている。

が、単刀直入に言うと、マイノリティ当事者の一人として個人的に(本当にいち個人として私は、のケースだけど)最近、不愉快なメディアや作品が増えた。
ポリコレを普遍的にしよう!というのを盛り込みたいあまり原作を不自然に歪曲してまで盛り込まれたLGBTQキャラクター設定とかが最たるものだ。
“特定の個性の人々への差別を肯定したり扇動する作品を作らない”だけでいいものを“何がなんでもマイノリティが登場しマイノリティとして公に大切にされている世界の作品を作りまくる”というのは、何と言うか逆に、
「一周回って腫れ物に触るような扱いのごり押し」
のように見えている。
あくまで私には、の話ね。

かといって、マイノリティ当事者とは無関係で空想要素強めの「百合萌え」とか「レズポルノ」に対しても全く興味が無い。
言い方考えずに敢えて言ってしまえば、私にとっては
男やオタクの興奮用に作られたリアリティのない女性同士の描写
は、色味のキツい食品サンプルのようなものである。
それに、そういった商業レズものに迎合してしまえば、平坦な道のりでなかった私自信のセクシャリティに関して私自身が侮辱してしまうような気さえしている。ここはまあ、拗らせなんだろうな。
(百合萌えやレズポルノを愛好するレズビアンの方を否定はしないですが、商業レズやGLを見て大真面目に「これの作り手はセクシャルマイノリティに理解がある」と熱弁してくる人とは何も話すことはないなとは思ってるよ)

かたや昨今、多様性を認め、様々な生き方を明るく照らすような優しい映画も多く、名作の呼び声も高い。
同性カップルと障害児の家族を描く『チョコレート・ドーナツ』、マイノリティ同士の少年少女が偽装カップルになる『恋人はアンバー』、恋愛感情の無いアセクシャル女性が“色恋結婚当たり前世間”の中で自分らしく生きる『そばかす』等。
こういった映画が作られ、似た境遇のマイノリティの共感を呼び、マジョリティの視野のアップデート機会になったりと、たくさんの人々に感動を与えている事は喜ばしい。
だが断言する。
ひねくれた私自身は人生の中で、こういった“優しいマイノリティ映画”に救われた事や、映画によって自己肯定感を得たり励まされた事は一度もない。

……ここまで、マジで
「ひねくれレズの理解できない暴言が続いてるけど、何を読まされているんだ?」
ってなってると思う。
マジョリティは勿論、マイノリティでも読んでいて不快とか理解できないって人がいても全く不思議ではない。
本当にごめんね。

今日はそんな、善意のポリコレとか感動のマイノリティ物語とかを好きではないマイノリティ当事者のひねくれたレズである私が
「L達に肩肘張らずに観て欲しいホラー映画」
の話をする。

セクシャルマイノリティの話題が好きではないって人や、ホラー映画嫌いな人はここで回れ右が吉。

この記事でオススメする映画には「セクシャルマイノリティ要素」が含まれているものの、それがストーリーの主題でない、という共通点がある。
平たく言うと「LGBTがテーマ」ではないが、LGBT要素が含まれてるよって映画だ。

更に、ホラー映画なので当たり前だけど、感動とかハッピーとか教訓とかライトで絵面キレイなご都合百合萌えは期待しない方が良いです。

じゃあまあ、そんな感じで。気の合うLの方がいれば、ゆっくり行きましょうか。
(以下ネタバレは極力無しで書きますが、作中のキャラクター設定などに触れる事があります。前情報を入れたくないよって方は見出し一覧だけ見て、気になった作品はぜひ観てみてね。
また、それぞれの作品に年齢レーティング、要注意描写を含むので鑑賞の際はご注意を)


□チャイルド・プレイ5~チャッキーの種~


『SEED OF CHUCKY』ポスターより


ジャンルはスプラッタコメディ。
<あらすじ>
前作のラストで退治される間際に生まれていたチャッキーと妻ティファニーの間の子供。
その生き人形は不気味な顔つきから「シットフェイス」と名づけられインチキ腹話術師にこき使われていた。
サイコキラーの両親に似ず心優しいシットフェイスはひょんな事からチャッキーとティファニーが両親だと確信し再会を果たす。
しかし、父チャッキーは我が子を「息子」と呼び、母ティファニーは「娘」と呼ぶ。
どちらとして生きたいか問われたシットフェイスは己の生き方と、殺人人形にはなりたくない正義感に思い悩みながら、両親の元で暮らし始めるが……

「あのチャッキーの映画にLGBTQ要素!?」
と驚く方も多いかもしれない。
この5では、殺人鬼の子に生まれ女性の体つきを持つが、自身が殺人鬼なのか善人なのか、そして男なのか女なのかの生き方を模索するシットフェイスが登場。
しかしそれは一要素に過ぎず、説教くささも多様性ごり押しも無い前作同様コメディ全フリのチャイルド・プレイムードが楽しめる(シリーズのうち4とこの5はお下品で明るいコメディ)。
(前作までを観ていなくても、いきなり5から観ても分かるし楽しめるので大丈夫)
実はチャイルド・プレイは次作以降も、バイセクシャル女性とベビーシッター女性の不倫関係や、病気のパートナーを看病しているゲイの男性等、ちょっとした脇役にさらりとマイノリティが登場している。
不倫関係の女性同士とかは本当に嫌な感じに描かれていて、マイノリティを美化しすぎないで(マイノリティにも良い人間と悪い人間がいるという当たり前の事を)物語の隅っこに描いている。
ドラマ版に関してはちょっと話が別なので割愛するけれど、特にトランスジェンダーやノンバイナリの人にはぜひシットフェイスの苦悩と幸せ(?)な未来を見守って欲しい。

□バウンド

『BOUND』ポスターより

ジャンルはクライムサスペンス。
<あらすじ>
刑務所から出所してきた元泥棒のコーキーは、身を寄せたマフィアの元で、組織の幹部の情婦であるバイオレットと知り合い恋に落ちる。
愛し合う二人が立てた計画、それは、マフィアの大金を奪い逃走する、という危険極まりないものだった。

これのみホラー要素一切無しのサスペンス映画なのだが、オススメの一作なので一緒に。
『マトリックス』の監督による、裏社会を舞台にした犯罪サスペンス。
後半に向けて荒削りさはあるものの、影のある画づくりの中で繰り広げられるダーティーなシナリオは素直にカッコいい。
クールなコーキーとコケティッシュなバイオレットが、愛を交わす時、また罪に手を染める時に見せる表情が印象的。
ハードなダークヒロインが好きな人には特にオススメ。
(ちなみに『チャイルド・プレイ5』には、この映画のネタがあります。バイオレット役の俳優さんが出ているので)

□『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』


『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』日本版バナーより

ジャンルはモキュメンタリー風ホラー。
<あらすじ>
医学生グループは、アルツハイマーの母デボラを持つサラに取材を申し込む。
治療費の助成を条件にそれを受け入れたサラの許可を得、学生達はデボラの家にカメラを設置し、アルツハイマー患者としての記録を開始するのだが、デボラの奇行を皮切りに、次々と説明のつかない現象が起こっていき……

コメディ要素一切無し、恐怖描写や謎解きもしっかりしたホラー映画なので、純粋にすべてのホラーファンにオススメな映画。
多様性映画と思ってそれ目当てに観る映画ではないです。怖いの平気な人向け。

主人公達の取材先で年老いた母の面倒を見るサラという女性がいて、冒頭で化粧っ気もなくマニッシュな服装で登場したので
「ああ介護に追われてる人なんだな」
と思って観ていたら、途中、酒に酔ったサラが主人公達に自分の恋愛について語る場面が。

罪悪感なく自然に覚えた初恋とか、親の態度の原因はこのセクシャリティのせいだと悩むとか、ワンピースは苦手とか、そういった少しずつの世間話がかなり等身大のセクシャルマイノリティ的な内容で、ふと友人を思い出したりした。
謎解きや主題にほぼ無関係な脇役の身の上話を、こちらも説教くさくもなく、悲劇的に持ち上げるでもなくかなり自然に描いている。

□ゴーストマスク-傷-

『ゴーストマスク-傷-』ポスターより

ジャンルはサイコサスペンス。
<あらすじ>
日本から韓国を訪れた少女。その目的は生き別れの姉を探すため。
町で困っていたところ、親切な整形外科医の韓国人女性に声をかけられ彼女とそのルームメイトと親しくなる。
少女の姉が韓国へ旅立った理由、それは、美醜へのコンプレックスと、深く傷ついたある事件のせいだった。
女性達の美醜、そして愛への哀しみと妄執が惨劇を重ねていく。

日本の都市伝説妖怪“口裂け女”をモチーフとし、その類型の一つである口裂け女三姉妹説にも着想を得たと思われる日韓合同のサスペンス作品。
整形大国韓国を舞台にした事で「美醜」というテーマ性を補強している。

女性ならではの悩みやコンプレックスや心の傷は勿論、女性間の嫉妬とかを経験した事のある人にはかなり痛々しく刺さる作品。
映画としての怖さは控えめで、ストーリーや映像作品としてもライトめなので、深く考えず観るのがオススメ。

□フィアー・ストリートpart1 1994

Netflixイメージビジュアルより

ジャンルはホラーコメディ。
<あらすじ>
魔女伝説の残るシェイディサイドは治安が悪く殺人事件の多い汚い町。正反対に明るく住みやすい隣町のサニーベイルとはいがみ合っている。
恋人と別れ傷心の高校生の少女は、サニーベイルとのスポーツの試合の応援に嫌々駆り出され、案の定揉め事に。その夜、サニーベイルのふざけた奴等が報復に現れたと思ったが、それは殺人鬼で……!?
何故この町で殺人が多発するのか。
その謎に立ち向かう少年少女の体験する恐怖。

Netflix限定配信。
思春期の少女が直面する性自認と葛藤を、登場人物のうちの二人がそれぞれに抱えている。
一人は、レズビアンだとカムアウトし、後ろ指を指されながらも自分らしく生きて幸せになりたい少女。
もう一人は、自分を押し殺して周囲のように男の子と付き合い、親や町の人々に嫌われないよう生きようとする少女。
田舎町という狭い世界で揺れ動く二人の初々しい葛藤とぶつかり合いが、血まみれの惨劇の中でも鮮烈に悲しく美しい。

□パーフェクション

Netflixイメージビジュアルより

ジャンルはサイコスリラー。
<あらすじ>
かつて名門のチェロ教室の優等生だった主人公シャーロットは、母親が倒れたため音楽の道を諦め介護生活に10年を捧げた。
母の死をきっかけに、チェロ教室と連絡をとり演奏会に足を運んだシャーロットはそこで、後輩にあたるチェロ奏者の女性エリザベスと出会い、愛し合うようになる。
一夜を過ごし意気投合した二人はともに旅行に出発するのだが、道中、エリザベスは謎の病変を見せていき……

こちらもNetflix限定。
目を覆いたくなるようなグロテスク(しかも血よりも虫や汚物)描写が連発するのでかなり人を選ぶ作品ではあるが、構成、映像、音楽、ストーリーの完成度は確固たるものであり、グロテスク要素では揺るがない美しさが一貫している独特の凄みがある。

シャーロットとエリザベスによる“二重奏”のシーンが冒頭と後半に二回あるのだがそのそれぞれの見せ方が本当にキレイ。
昔どこかで
“性行為とセッションは精神的に刺激される箇所が似ている”
という話をしたのだけど、この感じが分かる人にはオススメかも(笑)
ラブシーンの質感もポルノ然としていなくて良い。

□クズ・ゾンビ

『クズ・ゾンビ』ポスターより

ジャンルはゾンビホラーコメディ。
<あらすじ>
生命力の強さ故に家畜の餌として日本から持ち込まれた“葛(クズ)”は、アメリカの一部の地域では気候にマッチしすぎて繁茂しまくり、厄介な外来種としてはびこっている。
そんなクズに効く特製除草剤を開発した日本人科学者のフクシマ博士は早速除草実験を行うのだが、なんとその除草剤が、クズを「人をゾンビ化させる恐るべき植物」へと突然変異させてしまった!!

これはもう、よくも悪くもB級ホラーの全部乗せみたいな作品(笑)。
ゾンビに立ち向かう若者達の中にトリシュとジェニファーという女性カップルがいるのだが、お色気要員と思いきや、鉈と機関銃でゾンビに立ち向かう。
特に小柄なトリシュが先陣切って鉈を振り回す姿はよくわからないが癖になる(笑)。
頭空っぽでB級ホラーを楽しみたい時に!

□終わりに

ざっと紹介してきた作品だが、どれも純粋に、映画としてオススメ。
一番難しくもなくライトめで、ストーリー性があり気軽に観やすいのは『フィアー・ストリート』かな(これは町の秘密や過去に遡っていく三部作なので、作品世界を気に入ったらぜひシリーズでどうぞ)。

そんな感じで、誰がどれだけ読んでくれるかも分からない記事を書いてしまったわけだが、誰かに届けば幸いです。
ある日突然出会った女子から、
「クズ・ゾンビ観ました!エンディングの歌最高ですね!」
なんて話しかけられる出会いがあることを、私は夢見ているよ。

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