知識0から『ウィッチャー』(Netflixオリジナルドラマ)を観たら混乱の末大好きになった話

かつてドワーフやノーム、そして高度な文明を築いたエルフらの暮らしていた地に、“天体の合”という大異変が起きた。
幾つもの“世界”やエネルギーが交差し魔力がもたらされ、怪物達が現れ、そして人間が生まれる。
異変の後、エルフ達が手にしたのは“混沌(カオス)”に触れてエネルギーを引き出し用いる技術である魔法。

やがて人間達は、先住のエルフを虐げ、殺戮し、大陸の支配を拡大していった。

……そして時は流れ。
幾つもの国家が大陸を治めるこの時代。

民はそれぞれの国に敷かれた統治の中で、貧しい者も、富める者もみな日々の暮らしを享受している。
王族は権力と富と国家の存続に執着し、国と国とで腹を探り合い、また同盟を結び、政略を巡らせる。
魔法の才ある人々は魔法院を設立し、見込みのある数少ない者にのみ魔法を教え、学び、古のエルフの技術であった魔法を人の力だけで身につけている。優れた「魔法使い」は一定の発言力を持ちながら政治の中枢にさえ介在している。

古き民のエルフを辺境へ追いやり、魔法さえも習得して、武力の牙を研ぎ王家を盛り立て繁栄を謳歌している人間達。
しかしそんな人々をーー民を、そして王族や魔法使いをもーー平等に恐れさせ苦しめるものがそこかしこに存在する。

闇夜に徘徊する醜悪な吸血鬼……
水に、森に潜み人を襲う異能の生物……
それら恐ろしき“怪物”と戦い、狩ることを生業にしている者達がいる。

「ウィッチャー」。
その身に、修行と戦いにより刻み込まれた卓越した技と、人為的突然変異で得た超人的な能力を宿し、人より遥かに長い時を生きる戦士達。
人は時に金を与えて取引し、時に侮蔑し、時に恐れ、まるで“怪物”と同義かのように彼らをそう呼ぶ。

そんなウィッチャーの一人、リヴィアのゲラルト。
これは彼と、
“彼により宿命を背負う者”、
“運命を切り開こうと目覚める者”、
三人の物語。

“白狼”の異名をとる屈強な孤高のウィッチャー、ゲラルト。
女王自ら前線に立ち剣を振るう武勲の王国に生まれた王女、シリラ。
人々に疎まれ蔑まれ、持たざる者として弱々しく生きるだけの少女、イェネファー。

別の時間、別の場所でそれぞれに動き出した彼らの「運命」はやがて、互いに導かれるように「宿命」として交わる……。


くらいのイントロダクションをさあ、やって欲しかったよ!!!

Netflixオリジナルドラマ『ウィッチャー(原題:The Witcher)』。
シーズン2までが配信されており、本編の他にアニメ版、モンスター解説シリーズまで製作されている。

原作となるポーランドのファンタジー小説、そして小説を元にしたゲームが有名であり、主人公(プレイヤーキャラクター)リヴィアのゲラルトは日本のゲームファン達から
“ゲラルトさん”
と呼ばれ愛される存在。

いわゆるソウルライクゲー(『ダークソウル』シリーズやそれに似たもの)や、世界観がベーシックファンタジーベースの大人向け作品(漫画『ベルセルク』等)が好きな私は以前から、ゲーム『ウィッチャー』が気になっていつつも未プレイのままで、ふとNetflixで“おすすめ”にドラマ『ウィッチャー』が表示されたのがきっかけで、
「あ、ウィッチャーあるじゃん。ゲームや小説からじゃなく映像作品から入ってみようかな~」
と何気なく視聴を開始(ちなみに視聴開始までにNetflixの『ウィッチャー』コンテンツが複数あり、どれがいわゆるゲラルトさんのやつなのか分からずTwitterで教えていただいた)。

この時点で私のウィッチャー知識は
「主人公の屈強な男の名前がゲラルトさん」「ウィッチャーとは、武器とウィッチャーセンス(超能力)で魔物を倒しまくる賞金稼ぎ」
というだけの超最低限のものであった。
まあ大丈夫だろシーズン1の最初のエピソードだし!と、早速第一話観賞。

※以下、ストーリーの展開やキャラクターに触れていきます。ネタバレ注意!

□特に説明の無い「分からん殺し」がウィッチャー初心者を襲う!

……何も分からない。
一話観て、ストーリーとして何が行われているのか分からない。
「この人がゲラルトさん」
「この世界のキキーモラは家つき妖精じゃなくクモみたいなやつ」
「魔法使いとかがいる」
「何か強ばあちゃん女王のいるどっかの国が侵略されだしてピンチ」
小一時間かけて、ウィッチャー素人の私に残った印象はこんな感じだった。
人が多い、地名が分からない。
人名か地名かも分からん言葉も出てくる。そのままどんどん話は進んでいく。
待って待って!
今登場人物は何について喋ってて、それはゲラルトさんに何の関係があるの?

原作予備知識が無いため誰が主要人物なのか分からないからストーリーのどこが重要な流れなのか全くつかめず、日食の日に生まれたあの女性がベルセルクでいうキャスカ(主人公の戦友であり後に恋人となる)的な感じになるのかと思いきやどうやらそうではなく、しかし意味深なセリフはあり。

これ、私が持ってたなけなしのウィッチャー(職業)の設定と主人公がゲラルトである、という予備知識すらない人はもっと何も分からなかったんじゃないだろうか。

苦肉の策的に私は悟った。
……もう全部覚えながら観るしかない。と。
レッドブルを投入しめちゃくちゃ集中して観続けていても、でこの王国は何で攻められてるの?豚小屋でいじめられてるこの可哀想な子は誰なの?等、ゲームの主人公であるはずのゲラルト以外のキャラクターにも話が飛ぶ為、シーンごとについていくのがやっと。

で、第三話でようやく、飛び飛びに描かれていた人物や事件の時系列がつながる。
いやこの三話、素直に構成として
「あー、成る程ね」
となれたくらい今までの二話の混乱&全集中が報われて、
時系列の明かし方もめちゃくちゃスッと示されて本当に良かった。
良かったのだけれど、もう日食女の名前は既に忘れていた。

□映像作品としての魅力は十分にある。だからこそ幅広い層が入門しやすく脱落しにくい導入が欲しかった

展開が分かりにくいとは言え、ベーシックファンタジー・ダークファンタジー好きを惹きつける造形の凄さと迫力は一話から健在で、そのおかげで三話までついてこれた。
この時点ではストリガに夢中である。いやこのデザインマジで怖えー。

とりあえずここから色んな事が分かっていくので、ウィッチャー知らない人でも一話・二話の内容を結構きっちり頭に入れながら三話まで来ればもう大丈夫。

逆に言えば、知識ゼロから『ウィッチャー』を観る人は一話・二話の難解さで離脱するパターンが多そうではある。

原作ファンには
「あのキャラだ!」「あの国だ!」
と理解できるだろう要素(しかも結構ストーリー上重要な事)に対する説明が驚くほど少なすぎる。
三話での時系列の種明かしで効果的に驚かせる為、敢えて多くを説明せず視聴者を混乱させておく狙いがあったのかも知れないけど、それも結局三話までついてこれなければ意味不明からの途中離脱を招くおそれがかなりありそうな作り。
ジョーク風に言うと、
「製作陣は、ウィッチャー原作を知ってる人間と、Netflixを契約してるだけの人間の人数を逆だと思ってたんじゃないか?」
って感じさえある。
少なくともほぼウィッチャーを知らない私の印象としては、前知識前提の、原作ないしゲームを知ってる人を対象にされてる感はあった。
完全に原作ファン向けの難易度である。デスマーチである。

原作ファンにだけ分かる重要な言葉を説明なく当然のように使ってどんどん先へ行くな(笑)!
初心者はそれされて、更に時系列まで飛び飛びに出されてるので、三話の近親相姦兄妹の子供時代の姿が出て時間軸がはっきりするあのタイミングまでは、もうほぼ
「人も出来事もよく分からない、とりあえず目で追いながら懸命に手当たり次第固有名詞と顔を覚える」
時間が続く。
キャラクターがゲストキャラ・即死モブなのか、続投・主要人物なのかの分かりにくさもでかい。これが懸命な暗記を更に強いる。

二話まで観た時、利用してる洋トイ系の通販で買い物がてら『ウィッチャー』関連商品を見たらシリラ王女とイェネファーのグッズがあったことで、彼女達は原作でも出てくる主要なキャラクターなんだな、と分かったのだけれど、ドラマだけ観ていると彼女達の登場時ではまず主人公格のキャラクターだと分からない(特に一話の日食女の意味ありげな登場→あっけなく一話のうちに退場、を見せられているので重要人物度が測れなくなってる)。
この記事の冒頭で触れたように、せめて主人公は怪物狩りのウィッチャーであるゲラルトと、シリラとイェネファーの三人である、くらいの触れ込みはあってもよかった。そしたら登場時からこの三人に注目して物語を追うことができたし。

今シーズン2の途中まで観ててやっと、「白炎」が人(しかも問題の国の皇帝)を指す言葉だというのが分かったし、「ディメリティウム」が何らかの材質っぽいなと分かってきたところ。
リヴィアのゲラルト、の「リヴィア」ですら、
他の人物が同様に名前に冠してるのと同じ地名が出てきたからどっかの地名なんだろうな(レオナルド・ダ・ヴィンチ=ヴィンチ(村)のレオナルド、方式)
と何となく掴んだ程度。

Netflixでは、ポ○モン図鑑みたいなモンスター掘り下げコンテンツ配信してるけど、そうじゃないんだよ(それはウィッチャー原作知っててファンタジー的な元ネタ知らないとか、もっとウィッチャーを掘り下げたい人向けでしかないんだよ)ってなってる。

たとえばウィッチャー世界の歴史と、ウィッチャーとは何かの説明、ここにはこの国があり王は誰でどんな国かとかの大陸全土の地図や説明であるとか、そういう、初心者導入用の説明動画こそ出して欲しい。
日本の民放ドラマが得意な
「これを観れば今夜からの本編がより一層楽しめるナビゲート特番!」
みたいなやつね。

なので或いは、何も知識なく観ていきながら断片的な情報集めて考察と組み立てをし世界観を把握してくような手探り感を楽しめる人にはとても良い塩梅の作品かも。

初心者としては本当に、イントロダクションがあったか、初心者導入動画作るだけで大分違ったかなと思う。

何故なら、私の周りでは『ウィッチャー』を元々知ってる人からのこのドラマの評価がかなり高かったから。

そしてシーズン1に関しては後半、全てがつながって大きな転機を迎える盛り上がりは本当に面白くて、このクライマックスを十分に楽しんで欲しい・クライマックスまで脱落せずにたどり着いて欲しい!と思える作品と言えるからだ。

■魅力溢れる“ウィッチャー世界”の造形

展開に関しては特に序盤の「初心者置いてきぼり」の難解さは否定できないが、映像作品として、ファンタジーとしての魅力は溢れんばかりにある。

まずはファンタジーとしての世界観。
誰もが聞いたことのあるような言葉(エルフやドラゴン等)・どこかで聞いたことのある言葉(ストリガや錬金術等)・ウィッチャーオリジナルの言葉(ウィッチャーや驚きの法等)
の共存のバランスの妙が、ファンタジックでありながら独特の雰囲気を構築している。

エルフは人間より歴史のある種族である、とかのファンタジーの基本を含んでいつつ、この世界では実力不足の生徒は魔法学校のパワーソースとしてゴールデンうなぎに変えられます、とかすごいな、ホグ○ーツもびっくりだよ、独特で良いし、怖すぎる(笑)!

モンスターデザインや動きもかなり良い。
たとえば三話のストリガは、あれ死んだ母体から出てきた怪物なので、多分臍の緒を垂らしてるのかなと思うんだけど(尻尾なの?)。
“叫ぶアンデッド”という実際の伝承を忠実に再現しつつ、“生前道に外れていた者が死後ストリガになる”という点を、近親相姦という禁忌そのものではなく、その関係に嫉妬?した呪いによるもの、としたアレンジは良かった。

金のドラゴンも好き。
あのドラゴンおじさんの存在自体がもうめっちゃファンタジーですごく良いんだけど。
ドラゴンって多くの作品で、こうガッと大口を開いて、口の幅いっぱいの炎を吐くように描写されてるんだよね。ゴジラみたいに。
『ウィッチャー』の金のドラゴンは、細く火炎を吹き出すような感じになってた気がする。
そう“吐く”というより“吹く”みたいな。
ドラゴンの見た目もかなり頭が小さく華奢で細くて、これは飛べる生き物だなってリアリティがあって。更にこの火炎放射もスマートで素敵だった。

あと、この世界でも怪物は銀を嫌うんだな、というのが随所に描写されてるね。

建築や道具とかも、お城や宮廷の装飾、剣や弓から、革袋だとか、家畜の内臓でできた水筒等、王道の西洋風ファンタジーの時代の雰囲気(13、14世紀くらい?)。
画面いっぱいに剣と鎧の兵士が現れる戦いのシーンも迫力があって見ごたえ抜群。
戦争に魔法の技術が絡む防衛戦の場面は特にお気に入りで、魔法使いが魔法火炎瓶みたいなやつを作って、カタパルトで飛ばすとかなかなか面白い。
魔法使いが兵器とか戦争に直に参加したらこうなのか!みたいな。
自分が魔法でえいやあ!だけじゃなく、魔法使いでない人にも武器を与えるとしたらこういう事もするよな~!ってディテール。

シーズン2なんだけど、ウィッチャー関係も、本拠地のように帰る場所がある事が明かされる所が良かったな。
あの首飾りのメダルが人それぞれ違ってて、個々の象徴的なデザインでありその人そのものである、というの。作中で人々から「心を持たない」とされて嫌われ恐れられてきたウィッチャーが、ウィッチャー間のコミュニティに家族同然の情だとか、死んだ仲間を忘れない精神的結束を持っているというギャップ。

あとあの「ウィッチャーSASUKE」みたいな設備も。やっぱりどんな作品でも修行パートは面白いわ。

■登場人物達の個性と、物語の中での彼らの「変化」に引き込まれ愛着につながる

登場人物が多く、ゲストキャラクターも多いのだけど、一話限りのゲストキャラクターと思われた人が後からまた出てきたりと実は続投キャラ率が高いな?と気づいてからは、時系列が整理された事もあり、キャラクター達の変化も大いに楽しめる。

◆ゲラルト
馬にだけ心を開いている無口で屈強な男性、しかし世の中で言われている“ウィッチャーは心が無い”がデマであるとはっきり分かるくらい、情に厚く優しい。
(おそらく作中の時間の経過からして、馬が普通の馬であれば同一の一頭ではないと思われる。その場合、新しい馬にも同じ名前をつけてる事になるよね)
ストリガを閉じ込める時の“念力ドアロック”とか、剣を撫でて赤くする“念力剛刃研磨”的なウィッチャーセンス(特殊能力)を説明ゼロで出してきても
「ゲラルトならこんなことも出来るだろうな!」
と納得させてくる凄みがある。
『ベルセルク』でもそうだけど、パーティメンバーに子供が加わってからの屈強な男の「頼りになるパパ感」は何かほっこりするね(笑)。

◆イェネファー
『ノートルダムの鐘』の男のようにいわゆる“せむし”として生まれ、無力に卑屈に生きていた人生が魔法の才能を発揮して一変、代償を恐れず自力で何でもつかみ取り、更には払った代償すらも取り戻そうとする貪欲な人生を歩む。
魔法使いとして、女性として=人間として、自分の価値と力を求める生きざまはゲラルト以上のダークヒーロー(ヒロイン)。
主要キャラクターの中では私はイェネファーが一番好き。防衛戦あたりで着てたロープ状のドレスがおしゃれ。

◆シリラ王女
『ウィッチャー』には強い女性が多く登場する。そんな中で、シーズン1でのシリラは迷い、怯え、逃げ続けるとても弱い存在だ。
その弱々しさと、育ちの良さ特有の素直さはエルフの少年や森の民にも愛されるが、親切なおばちゃんに声をかけてもらったのに、突然盗んだ白馬で走り出す。
手袋の窃盗未遂含めこの辺りから、なりふり構わないサバイバル能力を発揮。シーズン2では世の中で恐れられているウィッチャーのオッサン達相手にキツめの冗談を食らわしたり、ゲラルトに反発して修行したり、なかなかにおてんば化。
ウィッチャーSASUKEのセンスを見ると、さすがはファイティング女王だったおばあちゃんの孫。

◆ヤスキエル
おもしろ吟遊詩人。
てっきりエルフ王に捕まった所で殺されると思ったが生き残り、世間から忌避されているゲラルトを怖がることなく親友ムーブをし始め、ゲラルトの歌を作る底無しの人懐こさ。
馴れ馴れしくて空気が読めないが、彼が登場すると安心感がある(笑)。
そこそこ才能があり、そこそこモテて、そこそこ勇気もある模様。
ゲラルトの命を本気で心配するいい奴。

◆ティサイア
イェネファーをスカウト(安価で親から買った)した魔法の先生。
厳しく冷酷な魔法使いと思いきや、私利私欲抜きに魔法院のみならず世界情勢までを案じて立ち回れる聡明な女性。くわえて、防衛戦後に見せる、イェネファーをまるで我が子のように大切に思っている側面は登場初期とはまるで違った印象だった。

◆フリンギラ
イェネファーの同期で、内定の事で揉めて以来関係が悪い。
初歩の呪文の授業で石を浮かせたとき“代償”として花を用いなかった事で手がぐちゃあ……となっていたのはこの人だよね。
就職先で辛酸を舐めてきたようだが、それでもまだ「窮地に陥った時に何かを信じることで状況の好転を願う」という考え方。行動力おばけのイェネファーとは対照的な存在であることが際立つ。

シーズン2からは1からの続投キャラクターの他、ゲラルトの友達やウィッチャー仲間、エルフ勢力の新たなまとめ役といったキャラクターも増え始め、主人公達を含め彼らがどうなっていくのかとても楽しみ。
めきめき強くなっていくシリラを思うと、女性ウィッチャーは今のところ登場していないし言及もされていないけれど、女性のウィッチャーは存在するのか否かは気になってくるね。

あとは、これは人によって好き嫌いが分かれそうだけど、ギリシャ神話くらいの頻度で盛り込まれているエロシーン(笑)。
私は臍フェチなので、イェネファーがジンを自分のものにしようとするシーンは凄く好きでした。美しい。

■原作とゲーム、そして世界中のファンタジー好きを繋ぎうるハイクオリティな表現と映像美

繰り返しになるが、シーズン1初期の説明の無い世界観・構成の複雑さが、ドラマから『ウィッチャー』を知ろうとする人に対する間口の狭さ、ハードルの高さになってしまってる感は否めない。
しかし特撮やCGを用いて表現される魔法や怪物、戦争等の映像の美しさは、世界中のファンタジーファンの愛する
“ドラゴンやヴァンパイアのいる剣と魔法の世界”
を文句無しにリアルに構築しきっている。

そしてこれは同じNetflixドラマ『返校』を観たときも思った事なのだが、私は連続ドラマをほぼ見ないので、一話一時間区切りの続き物を数回に分けて視聴する事で完結する形態に対して、どうも緩急だとか空気感みたいなものが掴めない。緊張感を継続させにくい、と言ってもいいと思う。
仮面ライダーとかでも、何で先週まで毎回怪人と戦いまくってたのに今週は料理の回なんだよ、急にゆるいな、こういう回を挟む・こういう回があってもいいよね!みたいなのが連続ドラマのお作法なのか?といまいちついて行けなかったり。

当たり前だが、平均して2時間で全てが納められる映画と比べてかなり全体の物語の時間も、「起承転結」それぞれの波のようなものも違っている。
『相棒』や『古畑任三郎』のように一話完結形態の謎解きであればまだ観やすい(一時間に起承転結が詰まっていることが事前に分かるので)が、連続モノとなると未だに
「ここが冗長では?」
とか
「あんな最初期に立てたフラグを7週間後の放送で回収とか時間かかりすぎて驚きが薄いだろうに。忘れてる人もいそう」
とか感じる事が多い。
日常をダラダラ……みたいな、平和で、片想いを毎回募らせて結局恋愛の成就が最終回の結末です、みたいな、合計約100時間超の視聴でも継続する・かつその長さを上手く利用できる(乱暴に言えば、箸にも棒にもかからない緩急で毎週誤魔化しのように視聴者を煙に巻いて楽しませ、予定調和だろうと最終回まで視聴させる)技術で作られている芸術が連続ドラマなんだろうし、殆どの連続ドラマファンの皆は無自覚だろうけど、このタイプの長丁場を継続視聴するスキルとか才能とか慣れって絶対にあると思う。

話題になっていたから観た『あなたの番です(日本テレビ系)』にすら、何が伏線で何が伏線のフリしたぽっと出の紛らわしい思わせ振り描写なのかを考察するのすら難しく、長く、連続ドラマという“毎週煙に巻かれる事を楽しむ”フォーマットに適応できない自分を思い知っただけだった。

話が少し逸れたけど、そんな長編連続ドラマ視聴スキルの乏しい私が観ても、『ウィッチャー』には少しの冗長さも無い。
意味不明な序盤は意味不明なりに興味をそそられる要素が詰まっていたし、全容を把握してから思い返しても、無駄なシーン、いらないシーンは無かったように思う。
時間相応の中身がある。これは連続式の一時間区切り(=一話完結式でない)ドラマシリーズとしてはかなり嬉しかった。
娯楽とはいえ、映画やドラマの視聴はつまるところ長時間拘束である。拘束された時間相応の中身がなくて水増しや冗長さを感じるのは何よりも悲しいし辛い(『チャージマン研!』は例外)。

『ウィッチャー』は、ファンタジー好きに刺さる要素やキャラクターの魅力、一つの大陸を舞台にした壮大なストーリーがぎっしり詰まったドラマだ。
ウィッチャー素人の私が観てもこれだけ楽しかったから、ファンならもっともっと熱くなるのも納得。
続きが楽しみなだけでなく、小説やゲームにも触れてみたくなった。

……当方、ガスコイン神父(『ブラッドボーン』)に購入当日には勝てるレベルですが、ゲラルトさん、キキモラやストリガはガスコインより強いですか?

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