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【映画】しっかり手ざわりのある異世界を描く「鹿の王」#0002/1000

https://shikanoou-movie.jp/

「鹿の王」は、予告の
「映像化不可能と言われた圧倒的スケールの物語の映画化」*1
という惹句に、見ようと思いました。
どこがどう映像化不可能で、それをどうやって『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『君の名は。』を作った作画監督が映像化したのか、に惹かれたからです。
それを知るには原作を知る必要があると思い、まずは原作を読んでから鑑賞しました。
結論から言うと、
「病をあつかう物語をリアルに感じさせる独自の世界設定が、映画でも映画の物語基準でしっかり描かれていること」
という点で、見て正解でした。
原作との比較の詳細は、以下で。


おすすめポイント

・国と国との歴史をふくむスケールの大きい物語、映像
・異世界の国の設定が丁寧。実際にそこにいるようなリアルさ、怖さがある
・だれもが惚れてしまう寡黙な男、「父」が背中で語る物語(ヴァン)
・「顔がいい」とつぶやきたくなるいい男(ホッサル)
・飛鹿や火馬、登場する動物の生き生きとした描写

好きなシーン・セリフ

・東乎瑠帝国の文化、衣装や気球のデザインの圧倒的存在感
・清心教の医師が印を指でむすぶところ、それをホッサルが真似するところ
・ユナの笑顔が個性的ではじけている
・ユナとヴァンの互いへの思いが、セリフでなくて行動にあらわれている
・クライマックスでのサエの弓の腕
・飛鹿の動きがリアルで生命感があって可愛い
・「あらがってもがくことが生きるということではないか、その子とともに生き続けるためおれはあらがい続ける」

原作を読んでから見た感想

映画は原作とは別物として見るのがおすすめです。
なぜなら、2時間という制約のもとに、描きたいテーマを絞り、それにそって人間関係も大幅に変わっているからです。
原作の重要人物なのに登場しない人もいます。
映画にするにあたり、原作をどういう意図で変えたかについては監督のインタビューがあります。*2
私はこれで納得しました。

そのほかにも、細かいところがシンプルに変更されています。
このあたりのそぎ落とし方、インパクトの強め方はうまいなと思いました。
・ユナの生い立ち、ヴァンとの出会い
・火馬の民の設定(移住の話がない)
・飛鹿が避ける草の名前が、イキミになっている(植物の変更)
・玉眼来訪が皇帝の行事になっている

それでいて、ユナがヴァンの指を吸ったり、耳をいじったりするふたりのコミュニケーションの描写は、映画でもていねいにひろわれているところはいいなと思いました。
また、その人が東乎瑠人かアカファ人かというのは物語上大切なポイントです。
小説では、「漢字の名前だから東乎瑠人」と判別できるようになっています。
映画では難しいところですが、東乎瑠の人は額に印があるという設定でうまく判別できるようになっています。
また、東乎瑠の清心教の医術とホッサルのオタワル医術の詳細を説明する尺まではないところ、冒頭、黒狼熱で死亡した患者への対応の仕方で違いを示すのも、うまいなと思いました。

映像化不可能なのはどこ?

「鹿の王」で「映像化不可能」と言われたところが具体的にどこかは、検索上位記事では明確には示されていませんでした。*3 *4

原作の上橋先生は映画化に
「『え? それは無理でしょう!』でした」「しかし、Production I.Gさんが制作なさると聞いて安堵しました。I.Gさんなら原作に囚われ過ぎず、アニメとして面白い映画を創ってくださるでしょう」
とコメントされています。

たしかに、あの物語の入り組み加減や、人間関係の複雑さ多様さを、そのままに2時間のアニメにまとめるのは「無理でしょう!」です。

でも上橋先生のおっしゃるとおり、「アニメとして面白い映画」には確かになっていると思います。

映像化不可能なのは具体的にどこか、個人的にあげれば、やはりヴァンが「裏返る」感覚だと思います。
原作の、自分自身がなくなっていく描写、それを大切な存在が守るところは、奇異をてらわずに映像化されていると思いました。
ヴァンがキンマの犬たちから影響を受けるところも、キンマの犬たちの動きが原作の「黒い水」という表現を拾って描かれているので、わかりやすかったです。

まとめ

小説を読む人には、登場人物の風貌も情景も脳内でリアルに映像にして読む人や、文章の描写をそのまま読んで感じる人、いろいろなタイプがいます。私は後者です。
なので、アカファはこんなイメージの土地、東乎瑠はこんなイメージの文化、というのがリアルに感じられたのは楽しかったです。

原作未読の人は、映画だけでも充分楽しめます。
ただ、
・ホッサルは東乎瑠人でもアカファ人でもなく、技術を糧にして国を持たないオタワルの人。オタワルの医術と東乎瑠の医術は別物
・飛鹿は鹿に似ているが別の個性をもった、ヴァンの世界を象徴する生き物
あたりだけでも踏まえてから見ると、スムーズに物語が頭に入ってくるかもしれません。

*1 https://www.production-ig.co.jp/works/shikanoou/
*2
 https://webnewtype.com/report/article/1070415/

*3 https://natalie.mu/comic/news/325256
*4 https://news.yahoo.co.jp/articles/d057f56ec09704309b6655e58d05775a1f883963


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