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「労働者」=会社に雇われている人、という定義が変わるかもしれない?

「労働者」の定義が大きく変えられようとしています。

2024/6/27に厚生労働省で行なわれた審議会では、日本で雇用で働くときに基本の基本となる法律、労働基準法における「労働者」の定義の見直しについて話し合われました。

労働基準法が定められたのは1947年、70年以上前ですから、現代のような、ギグワーカー、プラットフォームワーカー、AIやアルゴリズムによる労働者管理などの新しい働き方にはさすがに合わなくなってきています。

したがって、見直しが行われているわけです。

1.そもそも労働者とは?

労働基準法の「労働者」の定義は以下の通り。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

「労働基準法」第9条

この「使用される者」「賃金を支払われる者」という定義により、労働者は受け身の立場であるから、使用者よりも弱い立場にあるものとされています。

いきなり解雇はできないように守られているし、労働時間は制限され、休みたいときは年次有給休暇で収入を減らさずに休め、病気で仕事ができなくなれば健康保険から傷病手当金がもらえ、老後にもらう年金は会社が負担した厚生年金保険料の分も増額され、仕事が原因でけがをしたり病気になれば労災保険が治療費も休業中の生活費も保障してくれ、育児休業や介護休業で会社を休んだり、会社を辞めて次の仕事を探しているときは、雇用保険が給付金を出して守ってくれます。

労働者として認められない、ということは、これがすべて真逆になるイメージです。

いきなり契約が切られることもある(フリーランス保護法で制限されるようになりますが)し、労働時間は管理されず、病気で休んでも傷病手当金はなく、将来もらえる年金は国民年金のみ、けがや病気は仕事上かそうでないかは関係なく自分で治療費を負担し、育児や介護で仕事を休めば収入がなく・・・といった感じです。

労働者として認められるか認められないかで、大きな違いが生じることがわかると思います。

2.何が問題?

昨年、Amazonの配達員が仕事中でした怪我について、労災保険の利用がみとめられたという報道がありました。

この配達員は、雇用されている従業員ではなく、配達を委託業務として受けるフリーランスで、いわゆる「労働者」ではありませんでした。

それが、「労働者」に該当すると判断され、「労働者」が利用することのできる「労災保険」が使えることになったのです。

「労働者」かどうかの判断は、会社から指揮命令を受けて働いているかどうかという点が重要ですが、今回は、Amazonが提供するアプリが配達に関する指示を出し、それに従っていたということで、「労働者」の条件を満たしていると思われたようです。

3.これからどうなる?

これからの変化は、大きくふたつあると思われます。

ひとつめは、「労働者」かどうかの判断方法の変更です。

仕事をお願いしているフリーランスについて、「労働者」であるかどうか、会社から積極的に認めに行くことはまずありません。

なぜなら、「労働者」となれば、上で示したようなあらゆる義務が会社にかかってくるからです。

したがって、「労働者」であることを申し立てるのはフリーランス側となり、「労働者」であるかどうかの立証は、申し立て側が行わなければいけないことになります。

ですが、それはかなりの負担です。

そこで、今回の見直し議論では、「労働者」の定義そのものを変えるというよりは、まず、「労働者」であることを申し立てやすくする方法が検討されています。

諸外国では、こうした状況に対応するために、主に以下の2つの方法がとられているということで、日本でもこれらを参考に、「労働者」を判断する方法が改められるのではと思われます。

① 個人で役務を提供している者を「労働者である」と推定した上で、それに異論がある場合には使用者に反証を求める方式(米国カルフォルニア州のAB5)

② 具体的な要件を列挙し、そのうちいくつかを満たせば労働者であると推認する方式(2021年12月に欧州委員会から提案された「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」)

また、ふたつめは、フリーランスはフリーランスのまま、労働者が受けている保護を一部受けられるように保険の対象を変える方法です。

たとえば、さきほどの労災保険。
フリーランスも労災保険に個人で加入できるようにと、法改正がすでに予定されています。

また、いまも民間では収入保障保険などがありますが、そういった健康保険の傷病手当金・雇用保険的なものを国が行なったりするのも一案です。

国民年金は、いまでも自力で課金して年金を増やす仕組みはありますが、会社員の年金額との差はそれでも大きいものがあります。
もう少し制度の見直しが考えられるかもしれませんし、iDeCoをそのぶん拡充する方法も考えられます。

3.まとめ

フリーランスも、働き方が労働者に近ければ、労働者として認めやすくし、自分で社会保険等も手厚くかけることができる。

そんな方向性に議論がすすめば、フリーランスもより安心して働ける環境が整っていくかもしれません。

見守っていきましょう。

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