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【本】高田郁「あきない世傳 金と銀」シリーズ~物語と江戸の世界を堪能しつつ経営が学べるお仕事小説

「買うての幸い、売っての幸せ」。

買い手の幸せを叶えると、売るほうの幸せにもつながる。
お仕事をするうえで、売り手としては、そうありたいと願うものではないでしょうか?

ですが、どういうことが買い手の幸せになり、それを叶えることがどうやれば自分の幸せにもつながるのか。

その「筋」をしっかり体感としてつかめば、具体的な案を判断していく力にできそうです。

この「あきない世傳 金と銀」は、その「買うての幸い、売っての幸せ」を叶えるべく主人公が奮闘しつづけることで、その考え方の「筋」が体感できる本です。

この「あきない世傳」の主人公が売るのは、絹や綿の反物です。

反物を買う顧客は、なぜ反物を買うのか?
もちろん、そのまま保管するわけではなく、着物や帯を作りたいからです。江戸時代当時は、家の着物はその家で仕立てることが慣習でした。

ですが、反物を裁断するのにはなかなか技術がいります。
だから、反物を買って新品を仕立てたいと思っても、そこに自信がない人は、古着を買わざるをえない。
そういう事情があることに気づいた主人公は、店のなかで、反物の裁ち方を無料で教えるコーナーを設けました。

そこで、自分の手で気に入りの反物で新品の着物が仕上げられるようになる人が増えることで、結果、店も顧客がひろがる、という好循環が生まれる。

顧客が何を求めているのかを探ったり、時には、顧客のうつうつとした気分をすくいとってその心の底では何を求めているのかを先取りし、人々の気持ちを明るくする商品を出したり。
そうした具体例が十三巻にわたって展開されています。

物語にハラハラドキドキしながらも、読んでいるうちに顧客が喜ぶアイデアを考える筋が脳内にできてくる気がします。

もう一つ、読んでいると脳内に仕込まれる経営の考え方が、「好調なときには不調の芽があり、不調なときには好調の芽がある」こと。

『菜根譚』の以下の言葉が引用され、主人公の店にはまさにこの流れにそって、好調不調がおとずれます。

「衰颯の景象は就ち盛満の中にあり」
(すいさつのけいしょうはすなわちせいまんのなかにあり。物事が衰えていく兆しは、最も盛んで隆々たる時にすでに始まっている、ということ。)
「発生の機緘は即ち零落の内にあり」
(はっせいのきかんはすなわちれいらくのうちにあり。新しい芽生えの働きは、葉が落ち尽くしたときに早速に起きている、ということ)

人間、いま眼の前の状況がずっと続くとどうしても思ってしまいがちです。

特に、自分まわりのことだと冷静に見られないもの。

ですがこの物語を読むと、主人公の店の浮き沈みに、そのリアルさを、我がことのような身近さでありつつも、実際の痛みをともなわずに実感することができます。

これから経営の道をすすむつもりですが、その心の準備として、非常によい脳内シミュレーションになりました。

本はあまり読まない方や、時代小説はあまり読まないというかたには、ちょうどNHKBSでドラマも放映されています。

現代の話ではないので、逆に俯瞰して見られるところもあり、おすすめです。

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