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【レビュー】スタートアップ - 2021 J1 第1節 浦和レッズ vs FC東京

この記事でわかること

・浦和の「良かった」要因
・相手を見るサッカー
・切り替えの速さを実現できる理由
・武器、左サイド
・次への課題

「リカルド監督のサッカー、良いんじゃないか」

そう感じたサポーターも多いのではないでしょうか。お互いセットプレーによる得点で1-1の引き分けに終わった開幕節のFC東京戦。

多くの時間帯で浦和が試合を支配していたように見え、試合内容に満足感を覚えた方も多いはず。

なぜそう見えたのか、何が良かったのか、何ができて足りない部分はどこだったのか、レビューで振り返っていきます。

どこから進むかは相手次第

キャンプ中のコメントから繰り返し示されていた今季の指針。ポジショナルプレーと呼ばれる考え方に基づいた今季の浦和は、「相手にダメージを与える立ち位置」をキーワードにボールを持つことを強調してきました。

2021年型浦和レッズを戦術的に理解する3つのステップでも紹介しましたが、ベースとなっているのは位置的優位を活用するポジショナルプレーという考え方。

「いつもこうする」といったパターン化されたものではないため、一段階抽象的な基準を基に具体的なプレー選択を行うチーム作りは、多少の時間がかかるだろうと思っていました。

しかし、浦和は開幕からある程度の成果、形を見せます。

今季のボール保持を見るにあたってまず大切なのは、相手がどのような配置で、どこまでプレスをかけてきて、どこに追い込もうとしているのか。

今節の東京の基本配置は4-3-3。1トップ気味のディエゴ・オリベイラはセンターサークル付近に位置取る浦和のどちらかのボランチをケアしながら、岩波や槙野にプレッシャーをかけようとする姿勢ですが、IHやSHに任せて中央にステイするパターンもありました。

浦和のバックラインに対して単純な構造では数的不利となる東京は、中盤で構えつつもなるべく前から浦和を追い込みたい意図で、IHとSHを前に出して数的同数を形成してくる方法を採用しました。

大きく分けて2つのパターンでハイプレスをかけてくる東京に対し、浦和はその動きを見定めたうえで、どこを取れば相手にダメージを与えられるかをチームで認知・利用することが期待以上にできていたと思います。

まずは相手のIHが1列目となってプレスをかけてくるパターンから。

IH東の2度追いから逃げるようにボールを動かす浦和。敦樹が降りることで岩波をサポートするとともに、逆のIHが前に出る距離を長くします。

実際にIH安部がプレスに出ると、その裏の空いたスペースに小泉が降りて立ち位置を取り、相手の中間で顔を出すことで複数人に影響を与えます。

小泉が中間に降りたことでレアンドロは宇賀神へのターゲットを絞ることはできませんし、同様に明本がSBとCBに影響を与える立ち位置を取っています。最終的にはパスが通りませんでしたが、宇賀神は時間とスペースを獲得できます。

相手を見て、相手が動いた結果として空くスペースや中間を取ることで複数人を困らせて優位を獲得する。開始直後の2:50でまずは今季のベースを示しました。

そして、このベースを基に相手を見ながら実行できることも提示してくれました。この日の東京の守備は固定された一辺倒な守り方ではありません。

IHが前に来る場合もあるし、SHが前に来る場合もありました。相手の構造がその時々で変わるわけですが、そこで抽象的なポジショナルプレーの「考え方」を基にボール前進を試みる浦和の強みが発揮されます。

こちらは後半の53:10のシーン。相手のSH、レアンドロが出てきたことを見て、必然的に空く場所を宇賀神が位置取り、さらにそこに東京のSBが来たなら、その動いた場所を明本が取る。

「相手にダメージを与えるポジョション」を取ったうえで、東京の選手たちの間に顔を出してボールを受けて前進することができていました。

さらに、この試合の東京は後半途中で配置と仕組みも変更。60:00に永井を投入し、ハッキリとした4-4-2へと変化します。これは変形する4-3-3での守備が浦和相手にハマらなかったことを意味しているでしょう。

またしても、相手の配置、相手のやり方が変わったわけですが、抽象的な考え方をベースにする浦和は「やり方」を変えながらも「やること」は変わりません。

4-4-2となった東京に対する初めてのビルドアップが行われたのが62:30。

相手がハッキリと2枚になった前線に対して阿部が下がることで数的優位を形成。その恩恵を受ける岩波はしっかり幅と距離を取ることで自身に時間とスペースを生み出します。

敦樹が中央に残ることでレアンドロを足止めしたことも岩波の時間とスペース獲得に寄与。良い状態でボールを持った瞬間に明本がSB-CB間で裏へのランニングを行ってラインの押し下げ、幅を取った宇賀神は下がらずに高さを維持することで前進に成功しました。

最初のビルドアップで優位を生み出し、その優位を失わないように前線に届ける。現状、ゴール前の決定機まで届ける回数は少ないですが、この場面でも宇賀神がボールをもらいに下がらず、相手MF背後、相手DFラインと同じ高さでボールを待って受けていることで、前進には成功していると言えます。

また、いずれも前線、DF-MF間には5レーンに基づいた人数を残しており、東京の中盤もそこを気にしながらハイプレスをかけざるを得なく、ビルドアップ隊へのプレッシャーも軽減。ボランチコンビがボールを持てる選手であることも大きく寄与していたと思います。

図らずも、東京の守備のやり方はIHを前に出す、SHを前に出す、4-4-2とバリエーションに富んだもので、浦和はその対応を求められました。

そしていずれに対しても、相手を見て立ち位置で優位を獲得していくという基本を示すことができた浦和。「前進する」という観点では最低限、根底の考え方を基準としたプレーを表現できたのは良い意味でサプライズとなりました。

良いシーンの「ひとつ前」

リカルド体制もうひとつの特徴である、ネガティブ・トランジション(攻⇨守の切替)。ボールを失った際にすぐにカウンタープレスを発動し、即時奪回を第一選択肢とするプレーも開幕戦から表現できました。

ゴール、チャンスクリエイト、決定機。試合を観ていて、「今のシーンよかったな」と感じた時、その要因はひとつ前の局面に隠れていることがあります。

最初のチャンスは4:20。ネガティブ・トランジションによる即時奪回から生まれた、VARによって取り消された健勇のゴールシーンでした。

今季を象徴する、カウンタープレスによる即時奪回から攻撃への高速切替。プレスのスイッチを入れたのはキャプテン・阿部で、やっぱり頼れると考えた方も多いのではないでしょうか。

もちろんそれは当然なのですが、ここで考えたいのはなぜ阿部がスイッチを入れられる場所にいて、なぜ浦和が東京より早く切り替えができたのかです。

切り替えの意識、実際に実行できる選手たちは重要ですが、それだけで実現はしません。構造的に相手を上回ることができた要因は「ひとつ前」の局面にあります。

チャンスを生み出したのは攻⇨守の切り替え、いわゆるネガティブ・トランジションですが、その前は攻撃、つまり浦和がボールを保持していたことになります。

試合後会見でリカルド監督がコメントしていたように、良い切り替えができるのは良いボール保持ができているから。

実際、このシーンでは前に、前にと圧力をかけてきた東京に対してダメージを与える立ち位置を取ることでその勢いを外すことに成功し、相手の方向づけを逆手に取れていました。

SHを前に出してハイプレスを敢行する東京。それを見た浦和は、山中がSHが出たことで空くポジションへと高さを下げます。そこに前へと出てくるのは東京のSB。するとそのSBが空けたスペースにはIH東に影響を与えながら汰木が入り、その影響を利用して相手の間に立ち位置を取る阿部。

相手の動きを見た浦和が次々と相手の嫌なポジション、動いた後のスペースや人と人の間に立ち位置を取り続け、いざボールを受けた選手は時間とスペースの獲得に成功します。

その結果、前へとプレッシャーに来る東京の選手を十分に引きつけてボールを離し、そのまま前へと反転。プレスをかけようと前に矢印が向いていた東京の選手は置き去りにされます。

最後はボールを失いますが、「良い保持」で相手を外して前進した浦和と前へとプレスをかけて反転を許した東京の差はこの瞬間に現れます。

ボールを失った瞬間の配置は以下の通り。ネガティブ・トランジションに局面が移行した瞬間に周囲で良い状態を取っているのは浦和の選手たちです。

ボールを拾ったシルバに阿部が猛然とカウンタープレスをかけて前を向かせず、周囲の選手が呼応して即時奪回。健勇の取り消しゴールまで到達します。

確かに阿部がスイッチを入れ、全体の切り替えの速さが現れたシーンですが、それができる状況を作ったのはひとつ前の局面、ボール保持で論理的かつ相手にダメージを与える前進に成功したからでした。

リカルド監督がピッチサイドで大きな声とジェスチャーで切り替えの強度を求めている通り、その意識や実行も不可欠ですが、即時奪回のためには良いボール保持による前進もまた、不可欠なわけです。

進化の兆しを見せる左サイド

この試合、コンビを組んだ汰木と山中。昨年もひとつの武器になっていたこの左サイドは、今季、更に進化する可能性を感じさせるコンビネーションを見せていました。

その源泉はより改善されたポジショニング。位置的優位を得て活用するための立ち位置により、お互いに時間とスペースを与える仕組みが機能していました。

特に顕著なのは、汰木の内側でのポジション取り。この試合、大外で山中が時間とスペースを得るシーンがいくつかありましたが、その影には汰木が相手に影響を与える立ち位置やランニングを行っていたことが寄与しています。

5レーン理論に基づき、同じ列に入ることはほとんどない2人ですが、汰木が内側に入った際の立ち位置は相手のスクエア間、SB、CB、SH、IHの間にポジションを取る姿勢。

これにより何が起きるかというと、その場所にいることで、ひとりで複数人に影響を与えることができます。位置的優位を得るためのもっともわかりやすい例のひとつです。

その状況で、槙野や降りた阿部、逆サイドから高精度のロングパスを送る岩波が良い形でボールを持った時は受けに下がるのではなく、裏へのランニング。

汰木が立っている場所、走る場所が相手のSBに影響を与えることで、山中へ時間とスペースを提供することに成功していました。

13:30、26:20、27:00、30:00など、この関係性は度々確認することができます。山中も相手のMFラインより前に位置を取っていることでその優位を活かし、その後のクロスやアタッキングサード侵入へと繋げていけました。

もちろん、2人の意識だけが変わったわけではなく、全体としての前提や、昨年にはなかったボランチの能力など複合的な要因によるものですが、昨年以上にチャンスクリエイトの起点となり得る可能性を感じました。

まとめ - 次のステップ

開幕戦から上々の試合内容を見せた浦和。しかし、得点はセットプレーによるものでした。ゴールはゴールですが、理想はボール保持やネガティブ・トランジションによるカウンターから得点を奪うことでしょう。

東京の外された後の帰陣が早かったこともありますが、浦和の最後の崩し、最終ラインをどうブレイクするかという面では、プレシーズンの相模原戦を含めて考えてもまだまだこれからといったところ。

多くの時間で試合を支配していたこの試合、最終的にシュートは10本に終わりました。相手を上回ったことは確かですが、物足りなさがあるのは否めません。

主な崩しの方法としては、サイドでの1on1突破、相模原戦で見せたコンビネーションやポジション旋回(サイドで3人がぐるぐる回る動き)による相手チャンネル間(SBとCBの間)ブレイク、アーリークロスが挙げられると思います。

トライはしていそうな所作は見えますが、ビルドアップの安定に人数を割いていることもあり、そもそもゴール前に人数が足りないシーンも散見されました。

しかし、これはある程度リカルド監督が許容しているのかもしれません。今のところ、後方から繋いで相手の空白を突いていくために最低限以上の労力を割くことがある印象です。

これを必要最低限で行えるようになれば、そこで獲得した優位性をゴール前に持っていき、より多くの人数がそれを活かす状況になると思います。

ただ、まだ立ち上がったばかりであるため、致命的になり得るリスクは避けているようにも思えます。まだ1試合なので、多くはわかりませんが、これから試合が進むにつれてそういった現在地も浮き彫りになってくるでしょう。

とはいえ、総じてポジティブだった開幕戦。次のステップへと進むための課題は当然あるものの、最初のステップ、立ち上がりとしては想像以上のものを見せてくれました。

特に阿部・伊藤敦樹のボランチコンビは出色のパフォーマンス。相手を見て正しい立ち位置を取り、中央でボールを持っても落ち着いて顔を上げ、足元の技術への自信から相手を引きつけて空白を作る姿は昨年にはないものでした。

中央で補佐に入って循環を助ける小泉、献身的な守備と小柄ながらポイントを作れる明本もJ1で通用し得るポテンシャルを見せてくれました。

また、ビルドアップ隊が顔を上げて前向きにボールを持った場面で、裏を狙う動きと降りる動きがセットで行われていることが非常に多く、東京のDF-MF間にスペースを空けて活かしていたことも印象的でした。

東京の前線のコンディションがおそらく本調子ではなかったこと、そもそも引き分けで勝ち点3は得ていないことを考えると100点満点というわけではないですが、開幕戦にしてまずは第一歩、最低限これぐらいはできるという基準は示すことはできたのではないでしょうか。

怪我人を抱える中、いきなり厳しい連戦が続きますが次節を楽しみに待ちたいと思います。

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