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【レビュー】主導権の奪い合い - 2021 J1 第9節 浦和レッズ vs 徳島ヴォルティス

この記事でわかること

・局面の奪い合い
・前に出られなかった前半、その要因
・ボールを取り戻すハーフタイムの修正
・得意な展開へ戻す力

2連勝で迎えたホーム・徳島戦。リカルドが4年率いた古巣相手ですので、同じような展開を志向する両チームの対決となりました。

結果は1−0で勝利しましたが、前半は主導権を握られました。試合の大部分をコントロールした直近2試合とは違い、難しいゲームになったと思います。

その分、後半の修正で主導権を取り戻して勝ち点3を得たことは大きいことでした。

このゲームにおける主導権とは何だったのか、なぜ前半に主導権を奪われたのか、後半にリカルドがどのような修正を加えてゴールまで到達したのか、解説していきます。

大局を決める局面

浦和としてはボールを握り、相手の守備の配置や方法に対して効果的な攻撃を選択してボールを前に進める。そのことで相手を押し込み、ボールを失っても再び取り戻して攻撃に再移行するという、いつも通りの流れで試合を握りたいところでした。

しかし、今節の相手はリカルドが4年率いた徳島。GK上福元を組み込んだビルドアップで深さと幅を取り、相手が動いた裏や間で顔を出して前進する。当然ですが、今季の浦和がやろうとしていることを練度高く行ってきました。

両者とも同じようなサッカーを志向しているということは、お互いにボール保持の時間を長くして相手を押し込み、試合の主導権を握りたいということ。

セットした状態で攻撃を行うことができれば、全体が良い立ち位置で崩しの場面を迎えられ、攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)の局面でも即座にカウンタープレスを発動して試合を有利に進められるためです。

つまり、ボール保持の局面をどちらが主体的に握るのかという点が、どちらがゲームを握るのかという大局を決めていたという試合でした。

前半の奪い合いは徳島に軍配

そんな試合で先手を取ったのは徳島でした。表記上は4−4−2の徳島でしたが、浦和の守備組織に合わせて可変。最初のビルドアップ隊を3+1か3+2で始めて優位を得ると、前線は5レーンを埋めます。

そこから、前線のポジションの入れ替わりや、裏抜けと受けるの逆の動き、フリーマン的な渡井が受ける場所を探すといった一連の動作がスムーズに行われていました。浦和の守備組織としては的を絞れず、簡単には動けなかったと思います。

さらに追い討ちをかけられたのが武田の負傷。6分で怪我を負い、12分に健勇と交代。徳島のボール保持に対するプレスを探っている段階で変更を余儀なくされました。

また、健勇はアップをする時間もなく投入されたこともあり、試合に入りきれていない様子も見受けられました。さらに武田の位置に武藤を降ろしてみたり、2トップにしてみたりと試行する時間があったため、その影響は攻守において大きかったと思います。

守備についてはリカルドが試合後会見で言及していたように、徳島のビルドアップ隊に対して規制をかけるには健勇と武藤だけでは足りません。明本や関根、小泉の助けが必要になりますが、この枚数をハイプレスの局面で確保することはあまりできませんでした。

特に、明本が前にズレて徳島の3枚目にプレスをかけるシーンを表現することができなかったと思います。前半の序盤はトライはしていたのですが、5:30のシーンで前からの規制がハマる前に、左サイドの裏をキレイに取られたことが少なからず影響していたかもしれません。

リカルドも試合中に声を上げてはいましたが、WB的な立ち位置を取る岸本に完全に裏を取られたら失点に直結するため、明本としてはその辺りが気になって前に行けなかったのだと推測します。

SHの前ズレが難しいと、小泉を前に出すダイヤモンド気味の形やそれに付随してFWが前に行くことはただリスクを背負うだけになります。

最終的には通常の4−4−2にような形になり、徳島の最終ラインへのプレッシャーが足りないのでピッチを大きく使われるようになりました。このような状態で迂闊に前にズレることは危険なので、自陣に押し込まれる展開が続くという構造になったのでしょう。

ボール保持を取り戻せない浦和

前からの規制がかけられない状態で押し込まれると、徳島にとって一番やりやすいセット攻撃に晒されます。

ボールを回収してもすぐにカウンタープレスを受けるため、浦和にとってはセット攻撃へ移行することが難しい状態でした。

42:00のシーンなど、浦和もボールを持って相手を押し込み、セット攻撃から始めることができれば主導権を握れます。

敵陣でボールを失ってもカウンタープレスで徳島に時間を与えず、苦し紛れの長めのボールを回収するという場面を作り出せるからです。

しかし、前半の大部分においては意図的にセットした攻撃を始める回数が制限され、立ち位置を取り切る前に徳島のプレスで追い込まれるシーンが多くなりました。

また、ボールを持つ時間が短くなったことで浦和の選手たちもリズムを掴めない様子でした。オンザボールでのミスも散見され、やっとボールを持てたと思ったら自ら手放してしまう、という負の連鎖が続いており、メンタル的な部分でも難しい前半だったと思います。(西だけは問題なくプレーしていましたが・・・)

保持における武田の役割も武藤が遂行しようとしていましたが、23:00のように役割が被ってしまう場面もあったり、こちらもポジションを含めて探りながら前半を進める形となりました。

アクシデントも重なりましたが、徳島からボールを取り戻すことができず、前半は試合の主導権を握ることができなかった、という構造でした。

それでも、最後の決める・守るの部分は選手個人の質に依存します。33:50には徳島の前線からの守備、浦和自身のボール保持の立ち位置取りの甘さから追い込まれてボールを失うと、決定的なピンチ。しかし、ここを西川が防いでくれたこと、徳島にとっては決めきれなかったことが終わってみれば大きなポイントになりました。

ボールを取り戻す浦和

前半終了間際にクロスバーを叩くチャンスを迎えましたが、ほとんどの時間で思うように試合を進められなかった浦和。後半頭から再び本来の姿を取り戻しにかかります。

ボールを取り戻すために、徳島のボール保持に対して前から規制をかけることを試みます。具体的には、GK上福元までプレッシャーをかけ、各自が大きく前にズレることを許容。

先述の通り、2トップだけでは前で追い込みきれません。SHや小泉の助けが必要になるので、リカルドは彼らを前にズラしてサポートすることを再び徹底しました。

具体的には下記の通り。小泉が2トップ間に位置を取る徳島のボランチ(主に岩尾)をケアできる立ち位置を取ることで、背後の憂いが軽減した健勇と武藤が前半より広めの幅をカバー。

一番消さなければいけない、自分たちの背後を小泉らに任せることで相手の最終ラインやGKへ規制をかけに前へとポジションを移します。

その結果、ボールが動く方向を主体的に誘導できるので、その予測を元に関根と明本が連動してプレスをかけることができます。

当然、その裏は空くことになりますし、徳島の選手もその場所を取りに来ますが、予測を持てるSBの前ズレや敦樹のカバーで対応。長いボールに対しても岩波と槙野が安定感を持って対応していました。

後方のリスクを許容して相手より先に守備の立ち位置を決めること、方向づけと予測でボールを意図したエリアで閉じ込めて回収すること。後半頭からいつも通りのリスクとリターンのバランスに戻すことができていたと思います。48:00のシーンはその具体例です。

不本意な前半を送ることになりましたが、その中でも失点しなかったことは大きかったと思いますし、ハーフタイムを挟んで本来の姿を取り戻せたことは良かったと思います。

前線から横に誘導し、同サイドで閉じ込め、後方の前向きな守備でボールを回収する。前半できなかった主体的な守備でボールを取り戻し始めると、セット攻撃を落ち着いて行える回数も増えてきます。

徳島の思い通りにボールを持たせないことは、徳島のカウンタープレスを正面から受ける回数を減らすことに繋がり、ボール保持のためのポジションを回復する時間が持てるからです。

その結果、最終ラインの立ち位置も前半より広く取れていてました。正しい立ち位置を取れていれば、いつも通り相手を見ながら繋いでいく余裕も生まれます。56:45のシーンは良い例だったと思います。

同じようにダイヤモンド気味で前から来る徳島に対して、アンカー周辺で健勇の質的優位を活かすロングボールも織り交ぜて前進することができていました。その結果、前半とは逆の展開で浦和がボールを持つ時間が長くなり、試合を有利に進められました。

後半開始直後から修正した主体的な守備でボールを回収し、ボール保持の時間を徐々に長くしていきながらセット攻撃で相手を押し込む。

意図的な保持ができているのでボールを失った時にカウンタープレスがかかり、徳島に保持の時間を与えない。前半では失ったゲームの主導権を握り返した良い循環でした。

先制点に繋がるコーナーキックを獲得するまでの約5分間も、浦和がボールを持って敵陣でセット攻撃を行っています。途中でボールを失ってもカウンタープレスがかかり、長いボールを蹴らせて回収する時間が続いていました。

コーナーキックではマンツーマンを採用する徳島を逆手に取り、健勇・岩波・槙野がPA内に入らないことで相手の高さ・強さのあるマーカーもPA内から排除するデザインで、関根のゴールが生まれました。

安定の撤退守備

その後は前から規制を始める姿勢は維持しつつも、80分前後から撤退守備も多くなります。ですが、今季非常に安定しているクロス対応は今節も健在。最終ラインがPAから外に出たらボランチがゾーンを埋めて跳ね返すという仕組みが機能していました。

最後はコンディション不良からスタメンを外れていた柴戸を投入して運動量も担保すると、逃げ切って1−0の勝利を挙げました。

まとめ - 「得意な展開」へ戻す力

ほぼ同じと言っても差し支えないほど、目指すものは似通っている両チーム。

ボール保持の局面を意図的かつ安定的に握ることで主体的なセット攻撃を行い、そのボール保持をベースに攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)を制して再びボール保持の局面に戻すというサイクルを、どちらが取るかというゲームになったと思います。

浦和としては、徳島に対して効果的な追い込みができなかった前半と、その修正を実行できた後半、ボール非保持における守備がそのままゲームの主導権を握れるかどうかに繋がった印象です。

前半はアクシデントもあって思うようには試合を進められませんでしたが、ハーフタイムの修正と後半のパフォーマンスは一定の評価に値すると思います。

一方で、崩しの場面はまだまだ時間がかかるかなという印象です。押し込んだ相手組織の奥のスペースを取るために行う、ポジションのローテーションや、ビルドアップから中盤を越えてスピードアップする場面などは出せてはいますが、安定して得点を取っていくにはまだまだ回数が足りません。

だからこそ、リカルドはシーズン序盤からセットプレーの重要性を説いていたのだと思います。その中で、相手の守備方法を逆手に取って得点を奪えたことは、現時点での現実的な勝ち方のひとつとして機能した結果でした。

今季が始まって9試合、「得意な展開」である程度のコントロールができるようになっていることはポジティブな点ですし、ハーフタイムで試合を自分たちの「得意な展開」へとゲームを戻し、実際に結果を得たことも良かったと思います。

今後を見据えるならば、その戻すタイミングをより早くすること、「得意ではない展開」を強いられても、その中での武器を見せられるようになることでしょうか。

とはいえ、2年ぶりの3連勝を挙げて1週間のインターバルを得られます。武田の怪我の具合は心配ですが、リカバリー以外のトレーニングを行うことができます。

次節はロティーナ体制から真逆の方向へ舵を切ったセレッソ大阪戦。仕込みの時間を得たリカルドが次の試合で何を見せてくれるのか、楽しみに待ちたいと思います。

今回もレビューを読んで頂いたこと、感想や意見をシェアして頂いたこと感謝です。ありがとうございます。

ハーフタイムの修正で主導権を取り戻した今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!

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