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【レビュー】脈略はなくとも兆しはあり - 2020 J1 第18節 清水エスパルス vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・怖くはなかった清水の保持
・完全には表現できなかった浦和の非保持
・兆しが見えつつある保持
・つらいよまるちゃん

はじめに

川崎戦から中2日、アウェイで迎えた清水戦。選手の回復には最低48時間必要ですので、対策はほぼミーティングのみで行っていることが推察できます。

当然、メンバーの入れ替えも必要で最近スタメンを外れていた橋岡や汰木が名を連らね、青木にアクシデントがあったのか、ボランチに長澤が入りました。

一方の清水は新体制でスタートした今季、丁寧にボールを繋いで試合を支配するサッカーを目指します。

試合をやる方も書く方も読む方も過密日程なので、前置きは程々に、清水の保持に対する浦和の非保持とその攻防、浦和の保持における原則を中心にさっそく振り返っていきましょう。

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怖くはなかった清水の保持

今節の浦和は、ここ数試合とは少し毛色の違う非保持。ミドルゾーンから構えるところまでは同じですが、清水の最終ラインに対して積極的にプレッシャーをかけに行きました。

今季の原則通り、3バックに対して2トップ+SHでサイドに追い込み、閉じ込めてボールの奪取を狙った浦和でしたが、中盤でボールを刈り取るシーンはあまり見られませんでした。

特に厄介だったのがエウシーニョ。サイドに追い込んで窒息させようとしても、この川崎からやってきたボールプレイヤーは中央へのカットインや斜めのパスで浦和のプレスを空転。逆サイドのWB西澤も同様の働きができ、両サイドで同じような現象が見られました。

かといって、危険なシーンを作られたかというと、それも違いました。要因は清水のやり方で、狭いエリアでもボールを繋いでいくというチームカラーを表現するためにボールサイドに密集し、浦和のプレスを掻い潜るパス回しを行ってきましたが、FWも参加するため、最終ラインに脅威を与える人が不足。

中盤のロンドで誰かが時間とスペースを得たらMF背後に1〜2が入る程度で、その先の最終ライン背後を狙う人もいなく、空転させられたとしても、浦和はきっちり人が戻って対処できました。

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また、その後改めてブロックを組んでPA手前で守る浦和はボールを奪って素早いカウンターに出たいところでしたが、清水のネガティブトランジションでの振る舞いがファール覚悟のタックル連発だったため、不発。即時奪回で攻撃を続けるというよりは、とにかく浦和のカウンターを潰すために一回止めるような形でした。

浦和としては狙い通りにボールは取れないけど、ゴールを脅かされることは少なく、カウンターもファールで止められるという試合で、ゴールに迫るにはボール保持が求められました。

構造上空く場所を取る浦和

保持について、前節でも見られた「相手の構造上、空く場所を取る」という狙いは今節でも引き続き読み取ることができました。川崎の場合はアンカー守田周辺のスペースでしたが、清水の場合はIHの横。

5-3-2という構造上、中盤の3の横は空白になる場所です。ここを山中が使うことで起点とする狙いは試合を通して確認でき、ちょうど開幕戦の湘南戦と同じような構造となりました。

清水はミドルゾーンから2トップがプレスをかけ始めるため、まずはそこの優位を取ることからスタート。岩波・槙野に加えて柴戸が最終ラインに出入りすることで、3vs2とすることから始めます。

清水のIHには汰木や長澤が影響を与えることで外に出ていくことを牽制し、山中に与えるスペースと時間を最大化。そこで相手のWBやIHが出てくれば、2トップが3CBを中央にピン留めしてWB裏を狙っていました。

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5分のシーンからもその狙いが見え、湘南戦の1得点目のような形で汰木が裏抜け。34分50秒では山中にWBが来たのでその裏、38分50秒は汰木がエウシーニョに1on1の裏抜けを仕掛け、山中のロングパスから決定的なクロスまであと一歩まで迫ります。

また、同じようにIH横を最大化するために、横にボールを移動する際はスライド距離が長くなるよう「ひとつ(人を)飛ばすパス」が意識付けされており、試合中大槻監督からよく声が飛んでいました。

ただし、これもこれまでと同様、チームとして原則としている事柄から狙いを表現し、ボールを前へ運ぶことはできても最後のゴールまで迫るというフェーズでは、個性の発揮が行えず。

保持に関しては、いつも通りの"もう一歩"感で試合は推移していきます。

保持原則から繋がった理不尽ゴール

ところが19分、"構造的に空く場所を取る"浦和の狙いは、直接的ではないのですが、先制点に繋がります。

先述のように、中盤でボールを奪えずとも最終ラインが危険に晒されることはなく、カウンターへの移行はファールで潰され、保持はもう一歩というところでしたが、その保持からファールを得て、そのFKからCKに繋がり、山中のスーパーゴールが生まれます。

19分40秒、リスタートではありますが山中が構造上空くスペースでボールを持つと、清水はIHの鈴木がプレス。その結果空くスペースに長澤がしっかり立ち位置を取り、ボールを受けるとプレスバックしたカルリーニョスからファールを受けてFKを獲得しました。

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ゴールに迫るという意味では特に脈略はなかったですが、最初の前進を狙い通り表現した結果、ファールをもらってセットプレーからゴールに繋げました。

理想としては、最終局面でも選手が個性を発揮し、ゴールまで迫ることですが、過密日程で練習もままならない現状、勝ち点を拾っていくという意味でもこういった脈略のない"理不尽な"ゴールも大切です。

課題と伸び代

事前に共有した相手の構造、そこから空く場所を取ることに関しては徐々に表現できるようになってきましたが、試合中、おそらく想定外の構造になった場面がありました。

40分、これまで通り柴戸が最終ラインい入って3バックを形成、長澤が2トップ背後で一旦ボールを受けますが、この時に清水のアンカー竹内がチェックを入れた後、そのまま最終ラインにプレスをかけてきます。

おそらくこの試合初めてアンカーが上がっての同数で追われた浦和は途端に慌てだし、危うくロストするシーンを作られます。この際、アンカーが出てきているので「構造上空く場所」がDFライン前の中央になり、ここにレオや興梠が位置取ってボールを貰い、SHが絡んでアタックすればチャンスになるのですが、瞬時にそれをすることができませんでした。

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ただし、後半には兆しも見えました。

70分25秒の場面では同じような状況で長澤にチェックを入れようとしたアンカーを逆手にとり、その裏で健勇が受けて前進。その後、ひっくり返したMFラインに戻る時間を与えずにシュートまで持って行きました。

相手が動いて空いた場所を使って前へ進み、相手が整う前にシュートまでたどり着くという、今季の取り組みのひとつを見せられたのは良かったと思います。

相手の空いている場所を取るという狙い上、事前の共有に加えて試合中に相手をしっかり観察し、空く場所を認知する必要があります。まだぎこちなさがある浦和の前進ですが、徐々に表現はできているので、致命傷にならない程度にチャレンジしつつ、上積みをしていきたいところです。

悩ましい人材不足と健勇の貢献

後半に入っても基本的な狙いや構造は変わらず試合は推移しますが、エウシーニョの中央へのカットインや斜めのパスは驚異を増し、48分から53分にかけて複数回同じようなシーンを作られます。

それでも清水は基本的に密集での細かいパス回しに執着していたので、それほど大きな決定機には繋がらず。59分にはCK崩れから配置がぐちゃぐちゃでもボールサイド密集で繋いでいた清水からボールを奪うと、今季の狙い、ポジティブトランジションでの高速カウンターが実現。興梠だからパスを出したであろうレオナルドの完璧な御膳立てで、大きな2得点目をゲット。

浦和は非常に楽になり、この後は試合をオープンにせず締めていくことが求められるところでしたが、過密日程の影響でメンバーをあまり引っ張ることができないため、67分にマルちゃんを投入。試合の緊張感とエンターテインメント性を取り戻します。

引き続き、ミドルゾーンから相手の最終ラインにプレッシャーをかけていく守備は継続していたため、対面のCBに対してプレスをかけるマルちゃんですがかなり早いタイミングから動いてしまったり、前節同様、背後を消すことができないため、右サイドは危うさが漂います。

とはいえ、75分にはファイナルサードで複数人を引きつけてラインを押し下げられるマルちゃんの特徴を活かして橋岡をフリーにし、興梠のビッグチャンスを作ったり、前線からのチェイスで78分の武富が決定機を迎えますがいずれも決めきれず。

しかし、75分に健勇が入ると、ボールを収めてスローダウンすることで再び試合をオープンにしないよう、コントロールを取り戻しはじめます。懸案の右サイドも、マルちゃんが1回で奪いきれなかったり、密集から脱出された後は悔しがって戻ってこないのですが、健勇がその穴を埋めて対処。本当に助かります。

それでもアディッショナルタイムでは、マルちゃんが戻らないことで右サイドの人数が足りず、岩波がサイドに引き出されたうえでクロス。エリア内の弱点である山中がティーラシンとの1on1を押し付けられて失点。

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正直なところ、今季SHが求められる役割を鑑みるとマルちゃんの非保持のレベルは致命傷になりかねません。とはいえ、代わりの選手はいるのか?と問われると人材不足の感は否めませんので、今季はある程度覚悟する必要があります。

最後はマルちゃんの体を張った時間稼ぎで逃げ切り、勝ち点3を得ました。

まとめ

中2日のアウェイ遠征ということで、練習はできなかったと思いますが、その中でも清水の構造上空くスペースを突けるようになっていたことは非常にポジティブでした。

9/25に行われた定例会見から読み取っても、大槻監督は固まったパターンや手順を用意するのではなく、原則を落とし込む、つまり大枠の方向性や基準を共有し、個別場面ではその原則に沿った選択を選手が行うチームを作っていることが伺えます。これまでの試合と合わせて考えると、保持に関しては"相手の構造上空く場所"を利用することだと推測できるのではないでしょうか。

もちろん、その先のゴールへの質の部分、選手の個性が輝くところはこれまで同様、まだまだなのですが、時間がない中で優先的に落とし込んでいる部分をピッチ上で確認できる回数が徐々に増えているのは良いことです。

次の試合はまたしても中2日。チームは試合後すぐに帰ったそうで、今回も戦術的な仕込みはミーティングのみですが、今季の積み上げを表現してのホームでの勝利を期待したいと思います。

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