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【レビュー】リバランス - 2020 J1 第31節 ヴィッセル神戸 vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

・対峙 - 噛み合った4-4-2
・修正 - 飲水タイムで施したズレを作る修正
・調整 - まずはミドル、非保持の重心
・両面 - レオナルド起用の側面
・戦術的要素とメンタル面、様々な側面でのリバランス

はじめに

6-2の大敗を喫した横浜FM戦から中3日、アウェイ4連戦の最後となる神戸戦を迎えました。

大敗後の一戦がメンタル的にも厳しい試合であることは、今季2回目でもあるので我々も知るところ。王者相手に前から嵌めに行く理想を実現しようと意気込みながら一瞬で崩壊したショックを引きずらず、というのは口で言うのは簡単ですが、入りを含めて難しい試合だったと思います。

メンバーは、直接的に失点に絡んでしまった岩波に代わってトーマスがスタメンに復帰。また、エヴェルトンに代わって青木が入りました。それ以外はベンチ含めてお馴染みのメンバー。このサッカーにおいて最重要と言っても過言ではないSHの層の薄さはなかなか厳しいものがあります。

結果は0-1の勝利。相手も含めて何度も滑った難しい芝を含め、様々に難しい要素が絡みあった試合で勝ち点3とクリーンシートを獲得することができました。

序盤の神戸の勢いの理由や飲水タイムでの修正、前回対戦との違いなどについて振り返っていきます。

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正面対峙

神戸は三浦体制になり、ACLも見据えてシステムは4-3-3と4-4-2を併用、選手も大幅な入れ替えを厭わず多様なメンバー編成を組んでいます。浦和にとっては事前の予測に基づいた準備が難しかったことが伺えます。

大槻監督 11/20 定例会見 抜粋
どんな選手構成で来るのかも分からない状態でした。神戸はG大阪との試合は同じメンバーでやっていましたが、その前は4-3-3でずっとやっていて、それに対してどういう準備ができるかというとなかなか難しいところがあります。

相手の配置を見て、まず最終ラインの立ち位置で空く場所を確保してズレを作っていくというのは浦和の保持の狙いですが、この試合の前半は完全には予想できなかった4-4-2同士のマッチアップということもあり、正面で衝突することになりました。

2トップであることを認識し、主に宇賀神をバックラインに入れて3枚を形成しようとする浦和に対し、その宇賀神へ右SHの古橋がスピードを活かした外切りプレス。これを合図に神戸は2トップとSH、ボランチが積極的に前へ、人へ圧力をかけるプレスを敢行しました。

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真正面からこれを受ける形になった浦和は、バックラインから神戸のライン間や背後へのボールはあまり届けられませんでした。しかし、前から嵌められたとしても、最後に残っているのは西川。あまり余裕がない中でも1:30や3:40のように正確なフィードで空いている橋岡や前残りしているFWとマルちゃんを使ってひっくり返すような場面は作れていました。

しかし、2つの場面以外はモロに嵌るプレスをかわして空いているボランチ背後などを効果的に使うことはできず、神戸の勢いに押され、少し苦しい展開が続きました。

飲水タイムの修正

その様子を見た大槻監督は、23:00に迎えた飲水タイムで保持のメカニズムを修正。バックライン3枚の確保をより確実にするべく、主に青木をCB間に明確に降ろす仕組みを採用しました。

直後から効果は現出。神戸のボランチも青木にどこまでも付いていくことはできず、槙野とトーマスにアプローチしていた神戸の2トップに対して数的優位を得たことで、ひとまず勢いを殺すことには成功しました。

余裕を持ってバックラインがボールを持てるようになったところで、次はどう神戸のブロックを越えていくか、ですがポジションを離れた青木に呼応するように興梠と汰木がボランチに影響を与えるポジションに降りて長澤と優位を形成、マルちゃんは内側に入ると幅を取る役はSBが担うようになりました。

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この形で28:30には橋岡に決定機。数的優位を得たバックラインで数的優位を得ると、ボランチに影響を与える2トップ背後の長澤と降りる興梠、幅を取った橋岡でパスコースとライン間スペースを作り、トーマス→マルちゃんのパスが刺さった時点でスピードアップ。少し運も味方に付けましたが、橋岡は決めておきたかったチャンスでした。

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噛み合った4-4-2を配置でズラし、空いたスペースを使って速く攻め切ったこのシーンは、状況を把握して修正を入れた監督、それをすぐに実現した選手が見せた非常に良いチャンスだったと思います。

しかし、その後は神戸のブロックにズレを作ってゴールまで迫るシーンはそこまで見せられず。45:00では監督から橋岡に幅と高さを取れという指示が飛んでいますが、左サイドも含めて幅を取ったSBが高さを取るようなシーンをなかなか作ることができず、決定的なチャンスは創出できませんでした。

非保持のリバランス

一方、前回の試合、開始15分で3失点を喫した非保持守備ですが、SHが始めから前にかけていた重心を少し後ろに戻したように見受けられました。

前向きに嵌めてトランジションに移行し、相手が秩序を取り戻す前に攻め切ることは現体制、ひいてはコンセプトにおける理想です。随所に前から行こうとする姿勢も見られましたが、今回は一旦ミドルゾーンでセットし、SHを早く・先に動かしすぎないセット守備を行いました。

横浜FM戦で大量失点したとはいえ、4-4-2のブロックを組んだときの安定感は継続しており、神戸に危ないシーンを作られる回数は少なかったと思います。

とはいえ、神戸の保持がフィンク体制と比べて様変わりしており、前回対戦のように4-4-2で守る浦和の守備が空きやすい場所を取るためにどこから優位を取ってどこに運ぶか、という視点がかなり減っていたことも考慮しなければなりません。

前回はIHが浦和のボランチをピン留めし、2トップ間でサンペールが出入り、CBと連携して優位を得ることで、高さと幅を取ったSBを使って大外をアタックしてきた神戸でしたが、今回はボランチが頻繁に最終ラインからボールをもらいに下がったり、古橋を絡めたワンタッチで中央を割ろうとするような場面が多かったです。

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[前回対戦時の神戸]
サンペールの効果的な立ち位置、大外に優位を運ぶために論理的なビルドアップを構築していた

大外にボールが渡る場合でも、陣形を収縮させてその優位を届けるという狙いも特に見えなかったので、浦和のスライドが致命的に遅れることはほぼありませんでした。(マルちゃんのスライドはご愛嬌)

また、横浜FM戦で槙野がハーフスペースにスライドしてエリア内が2人になって失点した反省か、大外でボールを持たれた際もなるべくSHが下がることでSBをステイさせ、CBをエリア内に残すような狙いも見られました。事実、この試合でのクロス対応は危なげなかったのではないでしょうか。

レオナルド起用の両面

後半開始時に浦和は武藤に代えてレオナルドを投入。

非保持でミドルゾーンへ重心を少し下げた裏返しとしてSHの位置がやや下り目になっており、夏頃のように押し込まれ続けてしまうことを防ぐため、カウンターに移行するための時間と陣地の回復を期待した面もあったと思います。

また、サポートがないような場面でのポストプレーも無理の利くレオナルドですので、HTの指示ではポジトラの1手目で2トップに預けるよう意識をより強めるよう指示があったようです。

大槻監督 試合後会見 抜粋
レオナルドが入ったから後ろのビルドアップを省くということではなく、ボールを奪った瞬間、トップを見てもう少し1本目のところはつなぎましょう、という話はしました。

50:00にはその効果を発揮。左サイド大外を使われた浦和でしたが、宇賀神がでたハーフスペースを槙野ではなく汰木が戻って対応。ボール回収後の1手目でレオナルドに預けると強引にポイントを作ってカウンターに移行しました。

また、これはメリットとデメリット両方になり得ますが、レオナルドを起用すると、セット守備の際に周りを見て行けるときに前へ行くより、自分が前から追いかけて後ろがついてくるように要求するシーンが増えます。

レオナルドに引っ張られるように前半よりは前から追いかける回数が増え、それに応じてGKの前川から長いボールが入るシーンも増えました。その分、リスクを追うのは最終ラインになりますが、空中戦では槙野が強さを見せて精算。ドウグラスがいなかったこともありますが、今節は安心して見ていられました。一方で、トーマスは背負う形になる相手に対してアプローチすることは少し苦手なようで、ポイントを作られる場面もありました。

別の側面として、ミドルゾーンのセット守備ではレオナルドがいることで脆さが見られる場合があります。65:30シーンでは、神戸はボランチの郷家が最終ラインに参加、山口が2トップ背後に立ち位置を取ることで優位を取ってビルドアップ。

郷家と山口に対し、最低でもどちらかに対してはレオナルドがケアをして欲しい場面ですがそれを行わないことで長澤と青木が対応。その結果、2人のボランチの裏を使われ、ひっくり返されるような形で前進を許しました。

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このあたりが、スタメンで起用すると長い時間リスクを抱えることになる箇所であり、武藤が選ばれる要因のひとつなのかもしれません。

それでも、神戸の悪い意味で前回とは見違えるような保持の仕組みもあって、古橋に複数人が外されてしまったり、不運が重ならない限り失点するようなイメージは湧かない試合でした。

71:00にイニエスタが投入されてからはしばらくオープン気味に試合が進みます。77:30で青木を降ろした3枚のビルドアップから橋岡が最終ラインの裏を取ったシーンは、前半の修正でやりたかったことができたシーンだったと思います。

そうして迎えた82:00、待望のゴールを挙げたのは浦和でした。レオナルドのセット守備での脆さを指摘しましたが、きっかけとなったポストプレーは彼だからこそ生み出せた局面。ワンツーで抜け出した山中の完璧なクロスに「来季の契約がどうなるか見てみよう」と試合後に言ってのけた(?)マルちゃんの右足ボレーが突き刺さり決勝点を得ました。

その後の神戸はイニエスタがボールを貰いに下がってきてお任せするような状態。ATにセットプレーから危ない場面がありましたが、ドウグラスもいない中、イニエスタを使ってパワープレーをする神戸に怖さはなく、1-0で浦和が勝利しました。

まとめ - 戦術とメンタルのリバランス

理想を追って前への意志を見せようとし、開始直後で全てひっくり返ってしまった横浜FM戦。そこから中3日で迎えた試合でしたが、大敗後の試合はメンタル的に難しいものであることは名古屋戦後の広島戦を経験した我々サポーターからしても明らかで、それに加えてトリッキーな芝に対してもかなりナーバスになっていたようです。

そのため、ミドルゾーンでのセット、重心をやや下げ気味にしたのは戦術的なバランスの調整もあったとは思いますが、大敗後の試合というメンタル面の負荷もあったのかもしれないので、一概に全て戦術的要素であるとは言えません。

また、先述したように神戸の攻撃がフィンク体制に比べてかなり変化しており、浦和の非保持においては前回対戦よりは楽な試合になったことは間違いないと思います。

それでもクリーンシートで試合を終えられたこと、勝ち点3を得られたことは大敗後の一戦としては及第点ではないでしょうか。

次節は宿敵G大阪戦。前回対戦ではミドルゾーンでセットして先に動かないことで、稚拙さが目立ったガンバの保持を追い込んで勝利を得ました。前と後の配分をかつての比率に"リバランス"した非保持をそのまま次節に持っていくのか、それとも大敗後のメンタル面も考慮した結果なのであれば、再び理想へその振り子を傾けるのか。

そういった側面にも注目しつつ、久しぶりのホームで勝利を味わえることを期待したいと思います。

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