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【レビュー】相手基準で支配下に - 2021 J1 第8節 清水エスパルス vs 浦和レッズ

この記事でわかること

・清水の守り方、対応する浦和
・複数の手札から出口探し
・5分で見えるリカルドサッカーの真骨頂
・方向づけの守備
・手札と選択

ひとつの解答を示した前節・鹿島戦から中3日で迎えたアウェイ清水戦。ベンチも含めて全て同じメンバーで臨みました。

結果は2−0の勝利。特に前半は完全に試合をコントロールし、危なげなくプレーできていたのではないでしょうか。

とはいえ、清水は鹿島とは違う守り方を行ってきました。その中でも浦和が安定した試合運びをできたことは、相手のやり方を基準にして効果的なカードを切ることが大原則であるリカルドのサッカーという観点からも素晴らしかったと思います。

今節の清水の守り方、それに浦和がどう対応して試合をコントロールしたのかを見ていきます。

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ビルドアップの出口作り

前節の手応えそのままに、同じメンバー同じ布陣で臨んだ今節の浦和。前半の最序盤から試合を自分たちのコントロール下に置き、ボール支配率は67%を記録。

この数字を記録するためには安定したボール保持と良い失い方が必要です。つまり相手を見て引っかからないようにボールを前進させ、最後の崩しの場面でしっかりと相手を押し込んでいること、相手のFWやMFのラインを越えるパスやターンを余裕を持って行える優位性を確保していなければいけません。

そして、それらは全体のポジションバランスが崩れていないことが大前提になります。

ロティーナ監督を迎えた清水も浦和と同様、配置を大事にして試合をコントールすることを目指しているようですが、同じ1年目のチーム同士の完成度としては浦和が上回ったと考えて良いのではないでしょうか。

清水は前節の鹿島とは少し違ったやり方で守備を行ってきました。浦和は前節とはまた違った対応を求められたわけですが、どのように安定したボール保持を実現したのか見てきます。

開始1分過ぎからボールを保持した浦和はまず相手の様子を伺います。毎回のことですが、リカルドのサッカーにおいて基準になるのは「相手がどう守るか」。

清水は4−4−2を初期配置としながら、SHを高めに配置すると同時に前線の3枚を狭くして中央エリアのFW背後でボールを受けようとする経路を警戒。ただし、プレスの開始位置は浦和の最終ラインが基準で、GK西川への積極的なプレスは控えたように思います。

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これは前節で鹿島が前からハメにきた結果、西川、CB、柴戸の四角形で優位を得てFWラインをクリーンに突破していたことに対する対策だったのかもしれません。

浦和としては西川に下げても前から来る気配はあまりないので、CBからビルドアップをスタートさせることになり、前節とは違う対応が要求されました。

ただし、「やり方」は違っても「やること」は原則として同じ。最低限のリソースのみでビルドアップを完結させて優位を得て、それを相手の各ラインの背後へ届けて前進していくことは変わりません。

最初のビルドアップ隊からどのようにライン背後へボールを届けるか、つまりビルドアップの出口となる場所や人をどこに設定するか、ということになります。

まず、前半で多かったのが右の大外を出口とすること。柴戸経由を最優先して封鎖している清水に対し、相手から距離を得る立ち位置を取っていた岩波が前を向くシーンが多くなります。

そこから最終的にMFライン背後の大外に位置を取る関根や西を出口として活用することができていました。なぜ、この前進ができていたかという点に目を向けるには、ボールに関わっていない周囲の選手の立ち位置に着目する必要があります。

例えば、3:30のシーンでは柴戸がFWのラインより後ろで我慢していること、武田や出口にならない時の西、関根が相手のSH、ボランチ、SBに影響与える立ち位置を取れています。

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全員が正しい立ち位置を取れているからこそ、最終的な出口が空き、出口となった選手が前を向き、ルックアップをする時間を十分に確保できるわけです。

この時は関根のもらう位置がやや低かったことでその後の展開には至りませんでしたが、前線に武藤、武田、明本が留まっているため斜めのパスを入れる余地は確保しており、繋がれば中央や逆サイドへの展開も可能だったはずです。

5分で見せるリカルドサッカーの真骨頂

サイドの出口を起点に前へボールを進めていた浦和でしたが、よりゴールへ近い場所や中央のエリアを使いたいところ。

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5:45では柴戸がCBの間に降りることでCBをさらに横に広げ、ボランチ的な立ち位置に武田と小泉が入る3−2の配置で前進することも試みていました。

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この時は3枚気味で中央を封鎖する清水のファーストラインから更に岩波が距離を取れるようにするのと同時に、出口となる西に更にゴールまで近づけさせるような位置を取らせることができました。

実際にそれまでより高い位置で西が前を向き、よりゴールに近いところでプレーできたと思います。相手のやり方を観察し、その間をそれぞれが取って相手が届かない経路でゴールまで前進するための手札を複数持ち、それらを開始5分で複数のパターンを表現できたシーンでした。

また、8:20では流れの中から小泉がCB間に立ち位置を取ると、岩波を解放。その分、幅を取っていた西が相手のSH中村に影響を与え、武田がボランチ周りに立ち位置を取って引きつけることで中央へのコースが開通。

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最後は関根から武藤のパスが合いませんでしたが、右⇨縦パスで中央⇨左⇨中央とボールを動かせました。配置を取ってコースを作り、縦と横に揺さぶりながらゴールまで迫ることができており、決定機になってもおかしくない場面だったと思います。

このように、相手の配置や守備のやり方を観察し、それに対して何が最も効果的なのか、自分たちが持っている手札から効果を確かめるように複数の選択を表現できたことは、少しずつリカルドのサッカーにおける積み上げが行われている証左ではないでしょうか。

方向づけの守備

試合の主導権を握り、自分たちのコントロール下で時間を進めていた浦和に取って欲しいのは当然先制点です。

クリーンな前進で相手を押し込むことに成功したことと、広範囲をお掃除する柴戸がいることでトランジションも安定し、理想とする「ずっとこっちのターン」を実現していましたが、待望の得点はセットプレーから生まれました。

しかし、そのコーナーキック獲得した経緯は、守備からボールを回収したところからでした。試合を通して清水もGKの権田を使って前進したいという意欲は見せていましたが、浦和の非保持守備が上回っていたと思います。

後半に河井とエウシーニョが入った右サイドには手を焼きましたが、複数人で方向づけをしながら追い込む守備がよくできていたと思います。

浦和の守備は武藤と武田が最前線で追い込むところからスタートしますが、決してひとりでボールを取りに行くような守備はしません。必ず縦か横を封鎖するように距離を詰めることで、次の守備者が予測を持って移動することを可能にしています。

この辺りは昨年から継続している部分もあるかなとは思いますが、能動的に方向づけをして追い込むための動きを愚直に実行できる、前線で起用されている選手の献身性もあってこそ。

コーナーキック獲得シーンでは清水が始めたビルドアップに関根が縦と外から切って下げさせると、武田も同様に縦切りのプレス。ロングボールには柴戸と回収サポートの位置を取っていた明本で対応し、素早く前につけてコーナーキック獲得まで繋げました。

この時の清水の攻撃を見ると、鈴木が持つ時点でヴァウドが深さを確保する立ち位置が取れていないことなどの稚拙さもありますが、逆に浦和の最終ラインが良い立ち位置を取れていることとの対比もできる場面だったかと思います。

最後まで続けることの意味

後半に入ると、少し強度が落ちたように見えた浦和。そこにエウシーニョと河井というボールプレイヤーが入ったことでボールの支配は多少譲ることになりますが、最終ラインから立ち位置を取り、相手の間を取ってボールを握ることに粘り強くトライできていたと思います。

64:00ではビハインドの展開で清水が西川までプレスを仕掛けに来ますが、開いた立ち位置を取るCB、背後と間で顔を出せている小泉、柴戸らで前進します。

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73分前後もスローインから常に相手の間と背後を取りながら三角形や四角形を確保しているので、ポゼッションとポジションの回復と相手のラインを越える縦のパスも入れられています。

疲労からか、時間の経過とともにその先でのミスや立ち位置の取り直しの減少でボールを明け渡すシーンも増えますが、選手交代で強度と預けどころを担保しつつ試合を進められました。

ATに生まれた健勇のスーパーゴールも、88分前後から間を取って前進したり、自陣でボールを回収してもクリア一辺倒にならずに繋いで回復の時間を取れていたからこそ生まれたものでした。

連戦の中で強度や正確性が落ちてきても、相手を見て立ち位置を取るという大原則に沿ってプレーする。そのことで複数のパスコースを確保し、安定したポゼッションを確立、その結果として試合をオープンな展開にすることなく自分たちのコントロール下に置いて時計の針を進められていたと思います。

最後までコントロールした試合を無失点で締め、リカルド体制初の連勝を飾りました。

まとめ - 手札と選択

中3日での試合で同じメンバー、トレーニングが予定通り進まなかったことなど、影響が出そうな事柄はありましたが、目指すサッカーを表現しながら勝利を得られたことは非常にポジティブに捉えています。

また、最後の崩しの場面でも5レーンの配置からレーンを移動して相手の裏を取る選手、その選手がいた場所に入る選手、ビハインドサポートをする選手と、いわゆる旋回・ローテーション・ローリングと呼ばれる動きのスムーズさが出てきていると思います。

残念がら今節では決定的なところまで持っていくシーンは少なかったですが、より精度やスピードが上がってくるとサイドやハーフスペースのレーンかつ、ピッチの一番奥を取ってマイナスの折り返しをする、といった場面も増えてくると考えています。

ビルドアップも含めてポジションの入れ替わりは激しい方だとは思いますが、大枠の中で役割がスイッチするだけなのでバランスを崩さずにできている点も試合の主導権を握ってコントロールすることに大きく寄与しています。

また、前半見せたように、ビルドアップでは相手の出方を見てどの手札を切るか、という選択がチーム全体で徐々にできるようになってきていると思います。

これまでも最初の前進は行えていることは多かったですが、鹿島戦からの違いは必要最低限の人数でそれを行えているということ。柴戸は我慢して降りないことが多いですし、CBも含めて立ち位置を取るかつ、相手を十分に引きつけることも試合を重ねるごとに表現できるようになってきています。

出口としては西の存在も大きいですが、相手のFWライン、MFライン、DFラインの背後を取って待てるようになってきており、各ラインを越えたあと、さらにスピードアップすることや、中央を使ってオープンスペースへ展開することなどができるようになれば得点もより近づいてくるのではないでしょうか。

相手の配置とやり方を見て、相手が届かない立ち位置を取ることで試合を自分たちのコントロール下に置くことに成功したこの2試合。3連戦最後はリカルドの古巣・徳島です。

チームとしては4年以上の積み重ねの差がありますが、誤解を恐れずに言えば選手の質は浦和の方が上。ホームでリカルドのサッカーを見せて徳島を上回り、勝利を掴むことを期待します。

今回もレビューを読んで頂いたこと、感想や意見をシェアして頂いたこと感謝です。ありがとうございます。

試合をコントロールして初の連勝を挙げた今節。レビューを読んでの感想や意見はぜひ下記Twitterの引用ツイートでシェアしてください!


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