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【レビュー】発展途上 - 2021 J1 第4節 横浜F・マリノス vs 浦和レッズ

この記事でわかること

・難しくなった先制点
・ビルドアップの良し悪し
・ロングボールの判断、カウンターを受ける要因
・運ぶと移動はセットで
・小泉への依存と呼応
・途上、産みの苦しみ

「ビルドアップが詰まりすぎ」「バックラインが低すぎ」

前節、横浜FC戦で今季初勝利を挙げた浦和。

過密日程真っ只中で、怪我人も抱える中、戦術浸透を目的としてリカルド監督はメンバーをやや固定気味で起用しているため、今節も同じメンバーが並びました。

結果は0-3の敗戦。開始早々の先制点で試合を難しくすると、横浜FMのハイプレスの餌食となったり、カウンターを受けてはピンチを迎え、もっと多くの失点をしてもおかしくない試合内容でした。

では、何が良くなかったのか。その中でも希望はあるのか、解説していきます。

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※今節はカメラがかなり近く、全体を見ることが難しかったため、推測に含まれる部分がいつもより多いことをご了承ください。

押し上げられないバックライン

昨年の大敗を彷彿とさせるような負け。特に試合開始直後にあっさりと先制を許したことはゲームを難しくしてしまったでしょう。

J1でもトップレベルと思われる横浜FMの前線のスピード。どのチームも対抗するのは苦労すると思いますが、とりわけ浦和のバックラインは走力で不安を抱えるメンバーです。

守備の局面では、中盤から前でしっかり追い込んでボールを奪いたい浦和ですので、開始直後から4-4-2ブロックから相手へ圧力をかける姿勢を見せます。

しかし、0:15ではGKまでプレスをかけにいったにも関わらず、バックラインの押し上げができず、MF-DFライン間には大きなスペースが生まれていました。その結果、セカンドボールの回収はできず、簡単に前進を許してしまいます。

カメラが近すぎて見えないので推測も含みますが、WG、この時は仲川が大外で最終ラインの押し下げを行っていたのだと思いますが、ハイプレスをかけるのであればバックラインの押し上げとセットで行えないと無効化されてしまいます。

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その後、ゴールキックから一旦浦和がボールを持って敵陣に押し込みますが、山中⇨槙野のバックパスが少しずれたところを前田に猛然と詰められ、たまらず西川まで下げます。

そこから汰木へロングボールを蹴りますが、これが横浜FMボールになるとすぐに前へ。ここでもバックラインの押し上げが間に合っておらず、アタッキングサード侵入を許します。

一旦は浦和がクリアしますが、再びボールを奪われるとまたしてもバックラインが押し上げる前にゴール前へ運ばれ失点。

速く、そして早くボールを縦のスペースに刺し、カウンタープレスやハイプレスを仕掛け、早いテンポで試合を推移させるのは横浜FMの戦略。その土俵で勝負を強いられれば劣勢となるのは当然です。

ゲームを落ち着かせる前に、開始2分で失点してまった浦和。横浜FM側からすれば狙い通り。自分たちが活きる試合展開から先制点を得て、より勢いを持ってハイプレスを仕掛けてきます。

立ち位置とその認知

今季からボール保持を強調している浦和。後ろから繋ぎ、前から来る相手を十分に引き込んでその裏をつくことを目指したり、押し込むことでボールを失っても即時奪回のカウンタープレスで試合の主導権を握ろうとしています。

しかし、今節は相手のハイプレスに窒息する場面が多く見受けられました。確かに横浜FMの強度とスピードが優れていた部分はあります。ただ、いくら前田や仲川が速いからとはいえ、サッカーのピッチの広さをFP10人でカバーすることは物理的にできません。

「物理的に難しい」を作るために、ピッチという箱を最大限大きく使い、相手の配置を見てこちらが配置を取ることで前進経路を作る。今季を戦ううえでは欠かすことのできない、必須の動作といえます。

今節のようにハイプレスを仕掛けてくる相手には、GK西川を組み込んで自陣深くから繋いでいき、相手をあえて引き出して前進することはキャンプからの共通認識です。

では、なぜ捕まってしまったのか。まず、うまくいった例を見た後、逆説的に足りなかった部分を解説していきます。

12:30は相手をうまくいなしたシーン。西川がボールを持った場面で、槙野が西川と同じ高さで大きく開いた立ち位置を取っており、相手の間に敦樹もしっかり立っています。

その結果、仲川を困らせ、槙野自身がボールを持った時に十分な時間とスペースを獲得しています。その後、間に立っていた敦樹にボールが経由し、相手のハイプレスを発動させずに逆サイドへと展開することに成功しました。

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また、この時岩波がオープンにボールを持った際に運ぶドリブルを実行し、それに合わせて相手のMFラインを超える移動をする宇賀神も良かったと思います。

裏への長いボールを選択してカットされますが、宇賀神にパスを出したら面白かったかもしれません。

逆説的に見ると、ハイプレスにハマってしまう時はこの立ち位置が取れていない時や、その立ち位置を有効に使うことができていない時になります。

西川を使っても、そのサポートができていなければ効果を発揮することはできず、ただ後方でプレーするリスクを背負うだけになります。

2失点目となった25:00のシーン。右サイドのパス交換でプレスを受け、西川まで戻す場面で、最終的には同サイドで追い詰められ、敦樹でロストして失点に直結。

槙野の横のサポートがもう一歩間に合わなかったり、岩波のパスが弱かったり、阿部ちゃんのパスが難しいものだったり、敦樹が難しい選択を迫られたりといくつか要因はありますが、良いビルドアップと比較すると、岩波がもう少し良い立ち位置を取ることもできたのではないでしょうか。

岩波から西川にバックパスが出た際に、ポジションを取り直す時間は十分にありました。確かに難しいパスを処理する必要がありましたが、もう少し低く、開いておけば体の向きも窮屈にならずに済んだかもしれません。

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その結果、右サイドから左へ相手の圧力から逃れて手薄な逆サイドを攻めることができず、同サイドで窒素してしまいます。

ここでのロストを前提にはしておらず、むしろ広く立ち位置を取ってプレッシャーを引き出したうえで解放することを前提としているので、失った直後にゴール前が空いてしまうのは必然です。

また、単純にパスのスピードが遅すぎるという場面もあります。この辺りは相手のプレッシャーに屈したのか、自信や受け手への信頼がないのかなど原因は考えられますが、立ち位置を取り、それを認知し、相手を外すためにボールを動かすリカルドのサッカーはまだまだ途上であると言えます。

ロングボールの判断

開幕から継続して課題として挙げられているのが、ゴール前に人が足らない、流れの中からゴールが取れないということです。

明本を2トップにしたり、今節は後半から健勇をトップ下にしてみたりと試行錯誤が続いていますが、バックラインの判断と運び、それに呼応する移動が不足している場面が見受けられます。

今節目立ってしまったのが、岩波のロングパス。精度の高い長距離砲は彼の武器ですが、それを使う判断については一考する余地があります。

今季の浦和は、相手にダメージを与える配置をベースにしてボールを動かし、失ったら即時奪回のカウンタープレスで奪い返す、いわば「ずっと俺のターン」を理想としています。

開幕戦のレビューでも言及した通り、即時奪回のカウンタープレスを実現するためには「スイッチを入れる」とか、「切り替えの意識」だけでは不可能です。良いネガティブ・トランジション(攻⇨守の切り替え)には、良いボール保持が必須です。

例えば28:20のシーン。バックラインでボールを持った岩波から高精度ロングパスが発射され、大外の山中へピタリとボールが届きます。

しかし、そこから何かが起こるわけではなく、ボールロスト。その際にカウンタープレスは発動しなかったため、自陣ゴール前までカウンターを受けて下がることになります。

なぜ、理想とする即時奪回を目指すプレスがかからなかったのか。この時に見るのはひとつ前の状況です。岩波がロングパスを蹴った際の状況を見ると、ロングパスの準備ができていたのは岩波と山中だけです。

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バックラインには阿部ちゃんが降りて数的優位でビルドアップを始めようとしており、敦樹は宇賀神へのパスを指示しています。要となるボランチ2人は一気に飛ばすパスではなく、後方からのビルドアップを始める準備をしているわけです。

この状況で大きく前へ蹴ると、受けた山中はボランチのサポートを受けることもできず、相手に囲まれて不利な状況に陥ってボールを失います。

周囲にサポートがないということは、カウンタープレスをかけられる部隊もいないということ。相手にオープンな状況でボールを持たれると、そこにアタックすることは得策ではないため自陣まで後退するしかなくなります。

71:40では岩波自身が良い立ち位置を取って時間とスペースを獲得した良いシーンですが、その時に再び蹴ってしまいます。

この時も周囲の状況を見ると、ボランチや田中達也が相手を引き出そうとする立ち位置を取っている状況で、前へのロングボールの準備は完了していません。

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結果、相手に跳ね返されるとセカンドボールを回収する部隊は準備されていません。回収部隊がいないということは回収はおろか、相手にこぼれた際のカウンタープレスは物理的に不可能な状況ということです。

確かに、岩波のロングボールは大きな武器です。しかし、その発射タイミングを間違えれば、リカルド監督の攻撃的なゲームモデル、それを実現するための原則であるネガティブ・トランジション局面でのカウンタープレスによる即時奪回を実現することは不可能になります。

ハイラインを敷いている横浜FMを下げさせるために長いボールを使うことは決して悪い選択ではありません。しかし、チーム全体が「今はロングボールで相手を下げる」という共通の認識を持てていないと、次への局面の準備ができずにゲームのコントロールを失うことになります。

本記事の始めで取り上げた、開始15秒の横浜FMのロングボールがお手本になると思います。

運びと移動はセットで

相手の第1ラインを超えるために「運ぶ」ことを求められているのは昨年から同じです。昨年は槙野の意識が日に日に高まっていくことを目にしていたサポーターも多いと思いますが、今節でもいくつかそういった場面が見られました。

しかし、その時に一緒に「移動」しなければ効果は半減してしまいます。気になったのは31:50の山中。阿部ちゃんが2トップ間で相手を引きつけ、さらに岩波が相手に向かうドリブルで中央に寄せた後、槙野へパス。

前方へのスペースを得た槙野は運ぶドリブルを開始しますが、山中はその場で待ってしまいます。

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おそらく、リカルド監督がここで求めているのは、山中も槙野と一緒にMFラインを越える立ち位置を取ること。そのことで相手のSHに影響を与えれば、中間ポジションを取る汰木へのケアとの判断に迫られて位置的優位を獲得することができるわけです。

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ラインを越えなかったこのシーンで、SHに入っていたエウベルを見ると特に影響を受けていないことが伺えると思います。結果、相手の陣形は動くことはなく、汰木へのパスコースやスペースは空かず、中央の密集を解消させることも叶わずにカウンターを受けます。

逆サイドでは先述したように宇賀神がこの動きをしっかりと見せています。このあたりは昨年から続いている課題です。後方からビルドアップを行い、優位を得ることはできても、その途中で優位の貯金を減らしてしまえば最後にシュートを放つゴール前まで届けることはできません。

現状、ビルドアップに多くのリソースを割かなければ安定しない側面もあるため、健勇や明本、汰木、小泉らがゴール前で仕事ができる舞台を整えるためには、それまでの過程で優位を獲得して届ける必要があります。

小泉への依存と呼応

後半に入ってボランチに小泉を配置した浦和。相手の間を取り、両足でのターンなどでボール前進を助ける小泉でしたが、その後の効果的な攻撃には繋がらず。

試合を決定づける3失点目は53:30。昨年、同じ場所で散々やられたはずのクイックリスタートで決められてしまいました。

このシーンでは2トップ背後でボールを受けてターンした小泉を起点に前進し、汰木に渡ったあとも小泉が空いた位置を取っていますがボールは出てこず。

その他、バックラインに降りてCBを広げようとする小泉に岩波らが呼応できなかったり、ターンやその場で1人で旋回(いわゆる"カラコーレス")して相手を外して前を向いても周囲が反応できていなかったりと、なかなか活かしきれていないのがもどかしい状況です。

0-3の状況かつ過密日程でもメンバーを替えられない事情もあって、頭の方も疲労があったかもしれませんが、このあたりも上積みできるようになればより良くなってくると思います。

まとめ - 途上、産みの苦しみ

立ち位置を取り続けることなどの個人戦術という範疇において、リカルドのチーム戦術を実行するに足り得るスキルセットをまだ満たすことができていないのが正直なところではないでしょうか。

とはいえ全くできていないというわけではなく、やろうとしているし、実際にやっているし、できている時もあります。一瞬、判断が遅れて動くのが遅くなったり、次の局面への移行が不利になってしまう判断があったりという場面がまだまだあるのが現状です。

また、ボールを保持するという局面においては小泉に依存する部分が多く、解決を頼る場面が多くあります。

ビルドアップを助ける小泉がトップ下に入れば、ゴール前のリソースが減ってしまうのは必然です。後半のボランチ起用はそういった側面もあったかと思いますが、意識や姿勢は見てとれるバックラインの挑戦が成果として現れるにつれ、今の苦しみは解消していくと思います。

それまでにいかに勝ち点を積んでいけるか。トーマスや西の復帰で解決を目指す選択肢も当然あるでしょう。

一方で、横浜FMの強度が高かったのも事実。他のチーム相手では、ビルドアップにおいて致命的なミスを誘発されて失点に繋がったことはなく、ぎこちないビルドアップの弊害としては、ゴール前の迫力が不足するにとどまっていました。

ミスとして許される範疇を狭くされ、どうにかならない場面を多くされた横浜FMにパフォーマンスによって追い詰められた部分もあったと思います。

Jリーグ全体を見渡しても、今節のようにビルドアップ能力を試される相手として挙げられるのは、チャンピオンチームの川崎と、そもそもマンツーマンなので仕組みとしてハイプレッシャーをかけてくる札幌あたりでしょうか。

そう、次の相手である2チームです。開幕連戦の最後で試される浦和のボール保持。過密日程の中でどこまで見せられるか注目です。

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