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2021年型浦和レッズを戦術的に理解する3つのステップ

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この記事でわかること

・2021年型浦和レッズの戦術
・ポジショナルプレーの捉え方
・ゲームモデルに基づくチーム
・リカルド監督のゲームモデル
・試合を戦術的に観る手順

新時代の到来

リカルド・ロドリゲス新監督を迎え、新時代を予感させる戦力の獲得に成功した2021年の浦和レッズ。しかし「ポジショナルプレー」など、キャッチーな用語が飛び交い、半ばひとり歩きしている側面もあります。

また、2020年からスタートした「3年計画」では、大枠のコンセプトを策定することで、ある一定の基準をトップチームに設けました。

近年の度重なる監督交代とその時々の監督に合わせた選手獲得により、当座を凌ぎながらも、加入時期によってバラバラの特徴とスタイルを持つ選手たちが集まっていた状態でした。その結果、歪な編成と固まらないスタイルで限界を迎えたわけです。

いずれにせよ、過去の失敗から学び、原因を究明し、その原因に対して論理的にアプローチする計画を立案し、リソースを割り当てて実行に移しているフロントは明らかに変わりつつあります。

当然、一番大事なのは結果ですが、それだけに集中していてはその場をしのいで終わることになるのは何度も経験済みです。

中長期的に継続的かつ安定的に結果を残し、我々が立つべき場所であるアジアの舞台に戻るためには、クラブ、チーム、そして我々サポーターが目線を合わせる必要があります。

そこで今回は、実際に試合・シーズンを観ていくうえで、どのような注目点を持っていれば、チームの戦術を理解して観戦・応援することができるか、3つのステップに分けて解説します。

1. 「位置の優位」でポジショナルプレーを知る

リカルドが監督に就任してからというもの、「ポジショナルプレー」という言葉が飛び交っていますが、実際のところどういう意味なのでしょうか。

「プレー」と名前がついているのでややこしいのですが、大抵の場合、ポジショナルプレーは戦術ではなく概念・コンセプトであると説明されます。

こういうプレーがポジショナルプレーだ!というわけではなく、チームで共有する考え方と捉えると良いかもしれません。戦術やパターンといったものよりも抽象的なものなので、その説明にも一定のバラつきが出やすくなります。

ですので今回は、なるべく浦和レッズを例に挙げて、リカルド体制のポジショナルプレーを噛み砕いていきます。

前提の理解

では、ポジショナルプレーとは実際にどういう考え方なのか。

という説明の前に頭に入れておく前提があります。それは、サッカーがどういうスポーツかということです。

サッカーとは決まった大きさのピッチで、11人同士で戦い、90分経過した時点で相手よりも多くゴールを奪ったチームの勝ちです。

何を今更、という話ですが、戦術や今回のような話をする際には必ず意識しなければなりません。どんなチームも、試合の勝利やシーズン目標の達成というという目的のためにプレーし、いかなる戦術や考え方もそれを達成するための手段だからです。

ポジショナルプレーという考え方

ポジショナルプレーとは、ゴールを奪う・守るという、サッカーで勝利するための目的を、3つの優位性 --- 主にポジションによる優位(位置的優位) --- を活かすことで達成する考え方、と覚えておくと良いかもしれません。

試合をなるべく自分たちの思い通りに運ぶための3つの優位性として、数的優位、質的優位、位置的優位が挙げられます。実際の試合では、それぞれの優位を相互に作用させることで試合の主導権を握ろうとしますが、わかりやすいように分解して解説します。

そのうえで、ポジショナルプレーを採用するリカルド体制の浦和がピッチ上で見せる姿を、多くなるであろう攻撃の局面で紐解いていきます。

〇〇優位と聞いて、どのようなワードが浮かぶでしょうか?

数的優位

「数的優位」という言葉がサッカーではもっとも一般的かもしれません。文字通り、ある局面において味方選手の数が相手選手の数より上回っていることで優位を得ることです。

もっとも簡単な例はサイドにおける2vs1の局面でしょうか。汰木がサイドでボールを持った時、後方から山中が猛然と駆け上がって瞬間的に2vs1の局面を作り出す場面をイメージしてみてください。

また、相手の2トップに対して、最終ラインを3枚にすることで数的優位を得る場面もよく見るはずです。

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質的優位

単純に、選手の質で相手を上回ることです。例えば関根や汰木が相手と1on1の状況でドリブルを仕掛けることができたら、多くの場合で上回ることができるでしょう。

昨季までの例だと、サイドへのロングボールで相手に競り勝つ橋岡が質的優位を発揮していたと言えます。(マルちゃんもね!)

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位置的優位

リカルド体制のサッカーを理解するうえで最も外せない優位性がこの位置的優位です。立ち位置、つまりポジショニングで優位を得てゴールに迫るという発想です。

そのポジションに立っていることで、相手を困らせることを指します。まずは画像をご覧ください。

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相手が4-4-2の場合の例です。シャドーの選手(武藤・武田)が立っている位置によって、MFとDFの複数人を困らせていることがわかると思います。また、ボールを持っている山中の位置も相手の構造上どうしても空く場所です。

いわゆるライン間、中間ポジションに位置することで、相手のDFとMFは誰がアプローチするのか?という判断を強制することができますし、大外にポジションを取っている汰木と宇賀神のおかげで相手のSBにも2択が突きつけられています。

さらに次の場面で、CBの選手がアプローチに出た場合、穴のないはずの相手の配置を意図的に動かしたことになります。すると、数的不利のはずだった興梠が、相手DFと数的同数になるというメリットを享受できます。

SBが絞ろうとすれば、サイドに大きなスペースが空き、汰木の1on1ドリブルによる質的優位をより活かすことができるわけです。

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当然、相手を困らせる立ち位置というのは固定ではなく、相手の配置や味方の配置、ボールの位置によって常に変化し続けます。しかし、今回のようにオーソドックスな4-4-2を例に見ると、いわゆる5レーン理論、ハーフスペースが重要視されているのも腑に落ちるのではないでしょうか。

相手を困らせる「立ち位置」で意図的に相手を動かし、スペースを獲得することで、他の優位も獲得しながらゴールまで迫る。そんなイメージを持っておくと、ポジショナルプレーという考え方の一端が理解できるかもしれません。

位置的優位を重要視する今季の浦和

そして、今季の浦和はその位置的優位を獲得するやり方、つまり、相手が一番困る立ち位置を取り続けることを強く意識していることは、会見などからも明らかです。

今季はボールを持って攻撃する局面が長くなると予想されます。

まずはこの「位置的優位」を理解し、今季の浦和が相手の守備陣形やプレスの高さなどから、どのように逆算してどのように優位を獲得しようとしているか、どのように相手を困らせようとしているか、という点に注目すると、よりチームの戦術を理解できるかもしれません。

また、位置的優位を活用して相手に最もダメージを与える方法を取るということは、フォーメーションの数字を先に論じることはあまり意味のないものであることを示します。

4-2-3-1がどうだとか、3-4-3に変化して、という話ではなく、相手の配置に対してダメージを与えるために取ったポジションが、結果としてそういう数字として現れたという認識の方が良いでしょう。

今回は割愛しましたが、「社会的感情の優位」や「動的優位」という用語も目にします。気になった方は調べてみてください。

2. ゲームモデルとプレー原則を4局面で仮定・観察する

ゲームモデルという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

チームの作り方の一種で、選手の意思決定の方向性を示し、チームで統一性を持たせるための基準を作るというイメージで、今季から浦和の分析官に就任した林舞輝氏の著書では下記のように定義が紹介されています。

出典:書籍「サッカー」とは何か / 林舞輝
「ゲームモデルが全てだ。理想のサッカーに自分たちの状況を考慮したもの、それがゲームモデルである」 --- ヴィトール・フラーデ

「ゲームモデルとは、監督が持つチームのビジョンである。試合中のいついかなる時も選手に実行して欲しいもの、チームとしてあるべき姿を表現するものであり、最大限のパフォーマンスを引き出すチームの『ガイド』である」 --- タマリ

サッカーというゲームにおいて、選手たちは絶えず変化し続けるボール・味方・相手の位置や状況を認識し、自分のプレー、どこにパスを出すか、どこに走るか、どこにポジションを取るかという意思決定を連続的に続けます。

その意思決定がバラバラだと、チームは機能しません。一旦ボールを持とうと思っている選手と、早く前線に送れと考えている選手がいれば、それぞれのプレー選択や行動にズレが生じるからです。

意思決定の方向性を11人で合わせるために監督が構築するものがゲームモデルで、日々のトレーニングはその落とし込みに費やされ、チームはそこで得た「ガイド」に沿って試合中の意思決定を行う。

例えば、ボールを保持して攻撃で主導権を握っていく、ボールを失ったら即座にプレスをかけて奪い返し、再び攻撃に転じる、といったように。

本書では、「戦術的なチーム」の定義を次のように示しています。

明確なゲームモデルが全選手に浸透して脳内に同じ地図を持ち、全ての選手がそのゲームモデルによるプレー原則に基づいた判断とプレーが適切に行えるチーム

ゲームモデルはシーズンを通して見せるべきチームの姿であり、チームで共有する試合全体のガイドラインです。

そしてそれは、あくまで試合中に連続的に行われる意思決定の基準に統一性を持たせるもので、プレーを固定化・パターン化して選手を縛り付けるものではありません。

共有した基準に基づいた判断・選択をする自由は選手にあります。基準や制限があるから創造性は生まれるものです。。(自由度・裁量は監督によって現実的にコントロールされる)

ゲームモデルによるチーム作りでは、ここから実際のプレーに落とし込むにあたって、試合の状況を4つの局面に分け、それぞれの局面でチームに行ってもらいたいプレーを「原則」として設定していきます。
(そこからさらに準原則・準々原則と具体的にシチュエーション化・タスク化して落とし込んでいくが、今回は割愛)

4つの局面とは、ボール保持、ボール非保持、攻⇨守の切替(ネガティブ・トランジション)、守⇨攻の切替(ポジティブ・トランジション)。

それぞれの局面で実行するべきプレーの基準を原則として設定し、実際のプレーに落とし込むことでゲームモデルを実現します。

リカルド監督のチーム作り

奇しくも、林舞輝分析官と徳島時代のリカルド監督が試合後会見で質疑応答を行った日があります。その受け答えを読むと、リカルド監督がゲームモデルに基づいたチーム作りを行っている可能性は高いと推測できるのではないでしょうか。

従って、今季の浦和を観ていくには、リカルド監督のゲームモデルを観る側であるサポーターも共有する、少なくとも予測する必要があると思います。

今季の浦和がゲームモデルに基づいてビルディングされたチームだと仮定すると、チームを戦術的に観察・評価するには、結果が出ている・出ていないに関わらず、その内容がゲームモデルに沿った意図的なものだったのかを気にする必要があります。

偶発的なゴールも生まれるのがサッカーです。意図したプレーやチームの姿を見せられずにバラバラの状態でも、特定の個人やユニットの能力、突拍子もないスーパーゴール、相手の致命的なミスなどによって勝利を得ることもあります。

しかし、それは意図して起こしたものではないので、次も起こせるとは限らない再現性に乏しいものです。そうなると、特に試合数が多い今季が進めば進むほど、ゴール・勝利の確率は低いところへと収束していきます。

安定的かつ継続的に意図したプレーをすることで再現性を高め、勝利の可能性を引き上げる。理解しようとしなければいけないのは、リカルド監督のチームがどのようなゲームモデルを採用し、各局面でどのような振る舞いをすることで主導権を握ろうとしているのかです。

もちろん、全て公開されるわけではないので、試合から読み取ったり、会見やインタビューからその内容を推測する必要がありますが、既にキャンプのコメントや相模原戦からヒントは出ています。また、3年計画で策定されたコンセプトも含まれているでしょう。

2021年型浦和レッズのゲームモデルとプレー原則

シーズン開幕前の現時点で予測するならば、例えば次のようになるでしょうか。

ゲームモデル

ポジショナルプレーの考え方をベースとしたサッカーを展開して主導権を握り、前向き・攻撃的・情熱的な試合を展開すること。浦和のために最後まで走り、闘い、貫く姿勢を見せること。

プレー原則

ボール保持の局面では、ボールを持つ時間を作ることで正しいポジションを取り、相手に効果的なダメージを与えるために位置的優位を活かしてゴールに迫ること。

ボールを失ったネガティブ・トランジションでは、敵陣で即座に奪回して再び攻撃に転じることで、攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーを実現する。

ボール非保持では中盤〜敵陣から相手を同サイドで追い込み、高い位置でボールを奪うことを第一の選択肢とする。

ボールを奪った直後のポジティブ・トランジションでは、前にオープンなスペースがあればカウンターを仕掛けるが、そうでない場合はボールを繋いで時間を得ることで効果的なポジションを回復し、ボール保持攻撃に移行すること。

仮定したこれらのプレー原則に沿ったプレー選択がされているか、ゲームモデルに基づく試合を実現するために、ピッチ上の11人が同じ方向の意思決定を行えているか。または過去と比較して進歩しているか、どのような基準を共有していそうか。

もちろん仮定に対する完全な答えは出ません。しかし少なくと観る側も基準を仮置きし、それを踏まえたうえで試合を観れば、その時点でリカルド監督のチームがどの程度、戦術的なチームになっているのかを測ることができるでしょう。

もちろん本コンテンツでも、そういった観点から解説するマッチレビューを行っていきます。

3. 試合観戦 - 相手の意図を考える

では最後に、実際の試合をどのようなステップで観ていけば、リカルド監督のチームの戦い方を理解し、戦術的に観戦できるのかを確認していきます。

今季、一番長い時間を過ごしそうなボール保持の局面とネガティブ・トランジションを中心に確認していきます。

ステップ 1 - 相手の意図を探る

相手を困らせる立ち位置を取るためには、まず相手がどんなサッカーをするのかを認識することから始まります。試合が始まる前、始まった直後は、相手がどのような配置を取るのか、どこまでプレスに来るのかなど、意図やスタイルを把握します。

事前の分析は当然ありますが、試合の最序盤は浦和がボールを回しながら相手の出方、様子を伺う展開が基本となるのではないでしょうか。

ステップ 2 - 浦和のリアクションを観る

そうして把握した相手の特徴や戦術を確認し、浦和がどのようなリアクションを採るか観察します。当然、ゲームモデルに基づいて設定されたプレー原則に沿ったものであることが理想なので、その内容を頭に入れながら観ていきます。

ステップ 3 - 効果を確認する

次に、そのリアクションが本当に効果的なのか、相手にダメージを与えられているのかを確認します。

優位を獲得できているか、相手のFWのライン、MFのライン、DFのラインを越えてシュートまで到達する過程で、位置的優位をはじめとする優位性を獲得しながら、その優位を最後のフィニッシュに届けられているかどうか。

効果が確認できなければ、それはチームの判断が間違っているのか、11人が同じ方向性で意思決定できているのかなどを気にしてみると、何が悪いのか見えてくるかもしれません

ステップ 4 - 再現性を確認する

相手の意図を探り、そこから逆算されたリアクションをチームが取り、効果を発揮していそうだと感じたら、それが連続的に再現されているかを確認します。

チャンスが生まれたら、それが偶発的なものだったのか、チームが意図した展開の結果だったのかを観ることで、本当にうまく戦えているのかが見えてきます。

そして、浦和が見せているプレーが効果的ではなく、再現性がない状況になったなら、再びステップ1に戻り、同じ作業をすることになるのではないでしょうか。

まとめ - 「抽象的」と「具体的」

今季の浦和が採用しているであろう、ポジショナルプレーとゲームモデル、それに基づくプレー原則。戦術解説というよりは、ベースとなる考え方の部分や、チームや選手が意思決定をする際の基準となるものを解説してきました。

これらは例えばミシャの時のように、1トップ2シャドーがフリックやスルーなどのパターンを繰り返し練習し、無意識に実行できるようになって相手を上回ったアプローチとは異なるものでしょう。

本文中で気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、チームの作り方や位置的優位を獲得するという観点から考えると、昨年の大槻体制から大いに継続性があります。

ルールというほど厳密なものは設定せずに原則を適用していたことや、「正しい立ち位置」など、同じようなキーワードが大槻前監督の会見ではよく出ていました。

「やり方」と「やること」

相手の意図や特徴に対してダメージを与える試合を展開しても、相手もその時の状況に応じて戦術や配置の変更を行ってきます。

ですが、ポジショナルプレーをベースとしたゲームモデルを採用する浦和は、「相手にダメージを与える立ち位置を取って優位を獲得する」ことでゴールに迫り、勝利を得ようとするので、ディテールは変わっても根本は変わりません。

ピッチ上でプレーする選手の判断や選択が変わっても、その判断や選択の「基準」は常に変わらないのです。

ポジショナルプレーが考え方であり、ゲームモデルとプレー原則が選手の意思決定に基準を与えるものであるが故に、「やり方」は変わっても、「やること」は変わらない。

最終的に目指すのは、同じ方向と基準を共有している浦和が、あの手この手で対策を繰り出してくる様々な相手に対し、後出しジャンケンのように勝利していく姿でしょう。

シーズン序盤はチームとして初めて遭遇する相手のやり方や、試合状況、場面に困惑することが幾度となくあると思います。キャンプ中、完全なマンマークを採用する札幌に完敗したことが良い例です。

そういった具体的な個別の事象を前に、チームの意思決定や選択にバラつきが出ることも予想できます。

しかし、チームがポジショナルプレー、ゲームモデル・プレー原則といった一段階抽象化された枠組みへその経験を昇華し、そこからまた具体的なプレーを表現することが日常となった時、本当の意味でリカルド・ロドリゲスの浦和レッズが観られるはずです。

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いかがだったでしょうか。今季の浦和レッズを応援していくうえで、少しでも参考になれば幸いです。感想や意見、質問を下記Twitterでお待ちしております!

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