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【レビュー】選択した現実主義 - 2021 J1 第5節 浦和レッズ vs コンサドーレ札幌

この記事でわかること

・現実と向き合った90分
・繋ぐより前、マンマークとの攻防
・苦戦した対"ミシャ式"
・割り切りの撤退とその安定感
・新戦力の光明
・リカルドが保つ理想と現実のバランス

「いつもより長いボールが多いな」「前に出られずに5バック化してしまうな」

今季目指している姿とは違うように見えた、中2日の日程で迎えた今節。札幌は前節が中止になった影響で中6日での試合となりました。

メンバーは関根と金子がスタメン起用され、結果は0-0。惜しいチャンスはありながらもボールは札幌に支配される時間が長くなりました。また、いつもと比べて後方から繋ぐより前に蹴る場面が多かったと思います。

なぜ、今季の志向と少し違う展開が現出したのか。それをリカルドが狙ったのか否か。完全に意図したわけではないものの、そこにはリカルドのリアリストとしての側面があったように思います。

今節の前提条件を加味した、リカルドのゲームプランにおける戦術的な選択、その狙いや内容について解説していきます。

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繋ぐより前に。マンマーク部隊との攻防

メンバー変更もあった浦和は、その試合内容についてもいつもと違う様相を見せます。試合開始直後から気付かれた方も多いかと思いますが、今節の浦和は後方から繋ぐよりは早めに前へと蹴っていく姿勢でした。

これが、今節の現実主義のひとつめ。メンバーを固定せざるを得ない状況で中2日の浦和と中6日の札幌、おそらく後方から繋いで完敗したであろうキャンプでの経験など、今節の前提条件を考慮したリカルドは致命的なボールロストを避けるための戦術を採用したのでしょう。

リカルド監督 試合後会見 抜粋
「今回の試合で言うと、我々は中2日で、どうしても消耗している状態でした。さらに、あれだけの強度のあるチームが1試合飛ばしてフレッシュな状態での試合だったので、もちろん試合に勝ちたい思いはありますけど、そういう状況を加味すると、今回の勝ち点1はポジティブに捉えられると思います。
今回の試合は相手の強度もすごく高いので、中盤で簡単にボールをロストしない、というところがありました。そういった意味でダイレクトなプレーを選択することが多くなりましたが、それも準備の時間などを含めると仕方がなくて、ポジティブに捉えていいところだと思っています」

ただし、札幌のマンマーク戦術に対抗する意味合いも含まれていたと思います。

マンマークを採用する札幌は浦和のバックラインがボールを持つと、アンデルソン・ロペスと金子が人を捕まえることからスタート。それに呼応して駒井も前に人を捕まえに行き、ボランチの深井も小泉をマンマークするというのが基本的な構造でした。

前線から人を決めてマンマークしにいく彼らを第1部隊とすると、それ以外の選手は第2部隊としてバックライン近辺で待機し、前線の標的が決まったら自分の標的へと前へ出発するようなイメージ。

表記上はボランチとされている宮澤も、主に明本のマーク担当としてバックラインに立っている場面が多く見受けられます。

浦和がボールを持つと第1部隊が人を決めて捕まえに行き、それに合わせて第2部隊が後方から出ていくような構図が基本となりました。

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これに対して浦和は、後方から繋いでひとつずつ外していくことは避けます。まだシーズン序盤ですし、戦術の浸透や継続を含めて後方から繋ぐ選択をすることも悪くはないと思いますが、ゲームプランにおいてはリアリストの側面も持つリカルドは別の選択をしました。

先述の通り、札幌のマンツーマンプレスの構造上、中盤に大きなスペースが空きます。表記上はボランチが立ち位置である深井が前へ人を捕まえに行き、宮澤はバックラインで第2部隊、明本のマーク担当として待機しているためです。

そこを逆手に取るため、または繋ぐ過程で奪われることを防ぐため、浦和は中盤のスペースで健勇や明本が起点になることを狙い、繋ぎすぎずに早めにボールを入れるような姿勢を見せました。

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ただし、後方から前方へアタックする構図となる札幌の第2部隊のマンマークに苦労する場面も多く、いつもよりは競り合い、ポストプレーでの勝率も低かったように思います。

その中でもチャンスに繋がった場面の例は31:20のシーン。今節、コンディション不良の宇賀神に代わって右SBに入ったのは阿部ちゃん。

宇賀神のようにSHと共に内と外を使い分けるよりは内側でのプレーが主となりましたが、その位置から中央へのロブパスを健勇へ入れて逆サイドへの展開に成功しました。

健勇が起点となった位置は、札幌の1トップ2シャドー+深井が人を意識して前に出ているかつ、宮澤が明本のマンマークをしていることで空いている、先述の通り狙っていたと思われるスペースでした。

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1回目の攻撃は防がれますが、トランジションから再び左サイドを攻略すると健勇の惜しいシュートシーンに繋がりました。

相手のマンマークに対してひとつずつ外すのではなく、構造的に空く中盤のスペースを使って展開する、今節の狙いと致命的なミスを避けるための選択をした、現実主義が見えた場面だったと思います。

また、繋がないという観点では、ゴールキックでも前方へ蹴ることを徹底。これまでのようにボランチが西川の隣に立ち、繋いで始めようとする場面は一度もなかったのではないでしょうか。

苦戦を強いられたミシャ式と中野の技術

狙い通りにチャンスを作る場面も前半のうちに迎えましたが、試合全体を通して同じようなチャンスはあまり作れませんでした。その要因はそもそもボールを持つことができなかったから。

札幌のボール保持に対し、浦和は前から追い込む姿勢は見せますが、お馴染みのミシャ式ビルドアップと、今節からスタメンとなったGK中野の確かな足元の技術によって空転させられてしまいました。

札幌はボールを持つと、我々にとってはお馴染みの4-1-5が基本的な立ち位置。浦和は2トップと小泉で相手の2-1ビルドアップ隊(キム・ミンテ+宮澤、深井)を追い込みに行きます。

状況に応じて4-3-2-1のクリスマスツリー型のようにも見えるハイプレスを仕掛けますが、札幌のロンドと+1としての性能を存分に発揮するGK中野によって4vs3の状況を作られ、かわされる場面が大半を占めました。

また、5枚を残している前線へのロングボールを効果的に使われることでも回避され、前から走り続けた浦和のファーストディフェンスの労力とは裏腹に、引っ掛けるシーンはほぼ作れませんでした。

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ほとんどのシーンで無駄走りとなるハイプレスでしたが、それでも試合最終盤まで追い続けた2トップは身体的・精神的にも疲労感があったと思いますし、最後までよく走ってくれたと思います。

ファーストプレスが外されると、今度は幅と深さを存分に使って相手を揺さぶるのもお馴染みのミシャ式。4バックを基本とする浦和は構造的に大外が空くことになりますが、SBを極力外に出さずにSHが下がって埋める対処をしました。

前半20分ほどまではなるべく下がりすぎないような意識があったかと思いますが、それ以降は関根を中心に5枚、札幌のストッパーが上がれば6枚になることも辞さなかったように見えます。これも今節の現実主義のうちのひとつでしょう。

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その分、中央の危険なゾーンに人を残すことはできていましたが、鳥栖戦で見せたような、健勇を起点にして汰木や関根を使うロングカウンターは立ち位置的に難しいものとなりました。

割り切りの撤退と安定感

ポスト直撃シーンはあれど、無失点で前半を凌いだ浦和でしたが、後半も基本的な構造は変わらず。あまりボールは持てず、札幌の攻撃を受ける構図が多くなりました。

時間の経過とともに、日程面での不利が強度や体力により反映されていきます。ここでもリカルドは割り切りを選択。53分に関根に代えて田中達也を投入後、60分前後から押し込まれた際には田中達也を落としてはっきりと5-4-1へと移行。

理想や今季の志向としては、やはり前から追い込みたいところですが、ここも現実主義的に選択したひとつの戦術なのではないでしょうか。

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一方で、意外な側面かもしれませんが、今季の浦和の撤退守備は安定感があります。鳥栖戦では細かいミスが続いて失点してしまいましたが、開幕戦からここまで、撤退した際に危ない場面を作られるシーンはそれほど見られません。

今節のように頻繁にPA内深くに押し込まれると、さすがに西川のビッグセーブが飛び出したり、偶発的な事象がひとつ起こるだけでゴールに繋がってしまうので好ましくはありませんが、PA内ではスペースを埋めるためにボランチが下がることが約束事のようになっており、跳ね返す力があることは見せています。

何度か危ない場面はありましたが、撤退守備の安定感に支えられなんとか無失点で切り抜けることができました。

新戦力の光明

ただし、撤退し続けていても埒が明かないのは必然です。先述の中盤を使うボール保持や、トランジション、ロングボールのこぼれからチャンスを生み出したい浦和は64分に敦樹と大久保を投入します。

オンザボールで相手を見る余裕を持てる敦樹と、プレシーズンの相模原戦、ルヴァン杯の湘南戦ではまだコンディションが上がっていないように見えた大久保がキレを取り戻していたように見え、ひとつポイントとなります。

70:10の阿部ちゃんが蹴るFKを獲得したシーンでは、今節初スタメンとなった金子の良さも出たシーン。西川がロングボールを蹴った瞬間に下がり気味だった金子が前方へ反転し、こぼれ球へ素早いアプローチをしたところからマイボールになりました。

77:00の田中達也のシュートは敦樹の安定したオンザボールのスキルで打開しましたし、この2つのチャンスに関わった大久保は、さらに91:00の決定機のきっかけにもなりました。

大久保のスピード、停止と切り返しは、後半の深い時間帯で疲弊する相手に対して効果を発揮していたのではないでしょうか。

今後も、新加入選手たちが良いアクセントになり得ることを示したと思います。

セットプレーや決定機を決め切って勝利すれば、現実的な選択をした今節のミッションコンプリートでしたが、得点を奪うことはできず。スコアレスドローで勝ち点1を獲得しました。

まとめ - リカルドが保つ理想と現実のバランス

常日頃から、「攻撃的なサッカーを展開する」「勝敗関係なくファンが誇りに思うサッカーを見せたい」と自身の哲学を語るリカルド。

コラムで解説したように、その理想からゲームモデルを策定してチーム作りを行っていると推察しますが、ことゲームプラン、つまり目の前の試合に対する戦術的な選択においては、リカルドがリアリストな側面も持っていることが伺える試合となりました。

キャンプでの完敗、連戦続きの中2日と中6日、戦術浸透を促進させる目的と怪我人・怪我明けの選手の多さによるメンバー固定という現実を考慮した結果の今節だったと思います。

とはいえ、完全にゲームモデルから逸脱しているわけではなく、その範疇の中での選択であると思います。後ろから全く繋がなかったわけではないですし、ただ前方へ蹴ったわけではありません。

相手の配置を見て、ダメージを与える場所に人を配して届けるという面ではいつもと何ら変わりはありませんでした。

今節を迎えるに際して横たわっていた前提条件の中で、勝ち点1を拾えたのは及第点と言えるのではないでしょうか。試合後会見でもリカルドはこの試合をポジティブに捉えようとしています。

次が連戦最後。中3日でチャンピオンチームと対峙します。間違いなく苦戦は強いられると思いますが、シーズンを見据えれば、試合数以上の勝ち点は稼ぎたいところです。

川崎も同日にアウェイで試合を行っており、日程面での不利はありませんが、王者である川崎と力量差があるのは事実です。

リカルドがこの差をどのように認識し、理想と現実のバランスをどのように取るのかという視点で見ても面白いかもしれません。

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