【2020 J1 第16節 コンサドーレ札幌 vs 浦和レッズ レビュー】荒廃したピッチの上で
浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析。試合後1~3日後の18時にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。
この記事でわかること
・大味な試合だった要因
・札幌の極端な戦術と脆弱性
・最後まで解決しなかった浦和の課題
・よくわからない後半
はじめに
4-4-2の守備で組織的にスペースを守り、相手の秩序が整わないトランジションで一気に攻撃、ボールを保持したらなるべく配置を動かさずに、相手を崩してゴールを目指すよりはロスト後にこちらのスペースを使わせないことを優先する、こちらが"コントロール"する試合を目指している、大槻監督率いる今季の浦和。
しかし、今節ピッチ上で繰り広げれたサッカーは、無秩序で混沌。ゴール前からゴール前へとボールが行き来し、"コントロールする権利"を奪われたというよりは、どちらも試合をコントロールしていないという荒れ果てた試合でした。
乱打戦になるのも納得の試合内容で、最後はなんとか押し切って4-3の勝利。どっちが勝ってもおかしくなかった、というよりは、どっちもどういう試合なのかよく分からないといったところでしょうか。
その要因は、札幌の極端なマンマーク守備と脆弱なネガティブトランジション、そして浦和がサイドの不利に対する解を最後まで見せられなかったことでした。
お互いの脆弱性が導いたオープン展開
やはりミシャの札幌はボールを保持してゴールを奪うことが最優先。浦和は4-4-2でブロックを組み、ボールを奪ったら素早い攻撃でゴールを陥れたいところでした。
しかし、試合を通して札幌の保持に対して劣勢を強いられます。まず、2トップ間で出入りする荒野を含めた3~4人への対応に苦慮。規制をかけて意図的にサイドに誘導することはできず、荒野に収縮された2トップの横のスペースを使われることが多くなります。
ボールの行方を予測できないため、SHは無闇に前にプレスはかけられません。大外に張っているWBも見なければいけないため、武藤や関根は低い位置で対応に当たることが多くなりました。
すると、組織は押し込まれ、もともとSHがいた位置を使われることになります。左には高精度のパスを配球できる福森がいて、ここから大きなサイドチェンジで逆サイドのルーカスフェルンナンデスを使ったり、中央のジェイを活かしたアーリークロスや楔のパスを撃ち込まれることに。
試合開始直後からこのような現象が見られ、7:30には2トップ間の荒野に当てて2トップが収縮した後、その右脇から宮澤が大きなサイドチェンジ。左の大外は武藤が対応したので、福森がフリーになり今度は逆の大外へというボールの流れ。
2トップから規制して誘導ができないため、逆のサイドへ振られるとスライドが間に合わずに時間とスペースを与えることになるので、簡単にクロスを上げられることになります。また、ゴール前にボールは多く来ることになるので、それに付随してCKの数も増えていきました。
試合トータルでは札幌のクロスは35本(ルーカスフェルナンデス12本、福森9本)、CKの数は15を数えました。これだけ回数が多ければ、3失点するのも当然の結果といえるでしょう。
しかし、非保持の機能不全を解消できなかった浦和ですが、札幌にとっての機能不全、ネガティブトランジションも相当な穴となっていました。
札幌はボール保持の際、福森と進藤も攻撃的なポジションを取ります。福森はやや後ろ目の位置から配球し、進藤は右サイドでサポートの位置を取ったり、駒井やルーカスフェルナンデスのローテーションに組み込まれ、サイドの深い位置まで進出することもあります。
荒野もボランチの位置でサポートに入るため、後方は実質、宮澤と田中だけという場面も少なくありません。ミシャらしいといえばらしいのかもしれませんが、浦和としては非保持が機能せずに押し込まれても、ボールがこちらに転がってきさえすれば前方には広大なスペースが広がっている状態でした。
マイボールになれば特に苦労せずとも速くゴール前までボールが進んでいく状況でしたが、その過程でまたボールが札幌に渡ると浦和の押し上げも間に合うはずがないので、ゴール前からゴール前へとボールが行き来するオープンな展開がずっと続きました。
極端な札幌のマンマーク
また、札幌は極端なマンマーク戦術を採用しているチームで、浦和はこれを利用することでチャンスを創出、2点目にも繋げることができました。
多かれ少なかれ、DF - MF - FWという3ラインを構成し、その枠組みの中で人を捕まえるチームはJリーグでも多いですが、こと札幌においてはその枠組みすらないようなものでした。
札幌の選手は、明確に自分の担当する相手が決まっており、基本的には自身のポジションに近い選手がマーク対象となっています。左右の3バックはSHにつき、中央の2トップにはCBとボランチが付くという徹底ぶり。
思い切っていると形容すべきかは分かりませんが、仮にも中盤の選手が相手のFWをマンマークするチームは世界中を見てもそう存在しないのではないでしょうか。
また、相手が相当にポジションを離れない限り、札幌の選手は付いていきます。それが例え自分がいるポジションのスペースを大きく空けることになってもです。故に、"DFライン"や"MFライン"といった概念は無いに等しく、スペースを守るという意識は皆無。そもそもボランチをFWに付けている時点で、ラインは意味がないわけです。
とはいえ、担当する相手が決まっているの札幌は前からどんどん人を追いかけます。対する浦和もこれを外してボールを前進すればチャンスを作れるわけですが、残念ながらそれができるボール保持の力量は今のチームにはありません。
この結果、浦和は何を狙ったかというと質で上回る2トップがマンマークの性質を逆手に取ることでした。詳細はコラムで解説しましたが、マンマーク相手との純粋な勝負になることが多いこと、人に付いていくので、動きによってスペースを創出されやすいことでした。浦和もそれを認識し、活用しました。
まずは、1on1で杉本の質的優位を活かすこと。マンマークで追いかけられ、それを外すボール保持は持ち合わせていませんが、ピッチ上で唯一マンマークを受けない選手がいます。GKの西川です。
オープンにボールを持てる西川を使って、ロングボールを杉本に蹴る場面は複数回ありました。札幌でマンマークを担当するのは宮澤。杉本は宮澤に対してほぼ全勝で、ひとつの前進方法となりました。
また、2トップの関係性でマンマークをずらして裏を取ることも狙っており、2点目はまさにその狙いから生まれます。
20分、札幌の攻撃が不発に終わり、青木がボールを持つ場面。マンマークで前から追いかける札幌は全体がとにかく人へ、人へと前がかりに。降りる動きを見せた興梠と杉本に対して宮澤、田中も食いつき、最終ラインがハーフラインよりだいぶ前にきます。これで、裏に広大なスペースが生まれました。
また、マンマークということは純粋に1on1なので、フェイクで裏を取った杉本の勝利。ボールホルダーがオープンにボールを持っている時にラインを上げるのはセオリーの真逆ですが、それでも人を優先した札幌の守備を逆手に取れました。
課題への解はなく、ピッチは混沌へ
札幌はハーフタイムでキム・ミンテ投入。杉本にマークをつけることで、浦和のロングボールに対する優位性を消し、前進の拠り所を封鎖します。
さらに、浦和は2トップからの規制がかからないために発生するサイドでの不利も前半から引き続き解消せず、後半も押し込まれる展開。
しかし、札幌のネガティブトランジションの脆弱性もそのままですので、相変わらずボールはゴール前を行ったり来たり。この展開を予期していたかどうかは分かりませんが、久しぶりにベンチ入りしたマルティノスを55分に投入してからは、非保持の組織はより体を成さなくなりピッチ上は荒れ果てていきました。
結局、試合の最後まで両チームともこの無秩序で混沌とした状況に蓋をすることはなく、ボール追いかけたり、跳ね返したり、ゴール前まで迫ったり、またボールがこちらのゴール前まで戻ってきたり、と何やかんやしながら最終的にどっちが多くゴールに押し込めるのか、という展開になり浦和が勝利しました。
まとめ
点数もそうですが、内容としてもかなり大味な試合となりました。お互い抱えた課題を克服することはなく、それを晒しながら撃ち合ったため、当然の帰結ではありました。
戦術的、という観点からはキム・ミンテを投入して杉本を拠り所とした前進を封鎖されたあたりまでで、そのあとは混沌としたオープン展開であまりロジックは読み取れませんでした。(オープン展開で何かを起こす選手を投入する、という意味では論理的かもしれませんが)
第1ラインの2トップがしっかり規制・誘導して意図した場所で回収することが今季の生命線ですが、しっかりビルドアップで優位を取る仕組みがあるチームにはあまり表現できていません。次節もその仕組みを備える川崎が相手。1週間ありますので、何かしらの進歩が見たいところです。
とはいえ、これで勝ち点3を得たのも事実ですし、ここまでチームに貢献しながらも、ゴールがなかった杉本に2得点が生まれたのもポジティブです。
ACLも射程圏の勝ち点を積みながら、次節でリーグは折り返します。また、中2日でアウェイ→ホームという厳しい日程が組まれており、この期間、試合に出た選手の戦術的練習はほぼ不可能と言って良いでしょう。
試合を行いながら上積みをと考えたくなりますが、言うは易し行うは難し。それでも内容面から進歩することを願いつつ、厳しい連戦を観ていきましょう。
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