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【レビュー】経験の蓄積 - 2021 J1 第11節 浦和レッズ vs 大分トリニータ


この記事でわかること

・相手を動かせた先制点
・明本の裏をめぐる攻防
・活路が見えなかった対5−4−1
・経験値の蓄積がもたらすこと

良い内容ながらC大阪に敗戦しましたが、週中のルヴァン杯では逆転勝利を収めて迎えた大分戦。

主力を抜かれながらも片野坂監督のサッカーを継続する相手に、「どちらがボールを握るか」が焦点になりそうな試合となりました。

結果は3−2の逆転勝利。開始直後に先制点を獲得して期待とともに始まった試合でしたが、その後は苦労が多かった試合でした。

浦和は大分のどこに苦労したのか、それでも勝利を勝ち取れた要因とともに振り返っていきます。

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電光石火の先制点

どちらがボールを握れるか、浦和が握ったら大分の変形する組織をどう崩していくか、という点が戦前は注目されていましたが、開始2分でいきなり先制に成功しました。

大分の守備組織は5バックを敷きながらも自陣ゴール前まで撤退はせず、中盤で縦の狭さを維持して前向きな守備を狙っていました。

前線はシャドーやボランチが1トップと同じ高さまで上がってプレスを仕掛け、縦の距離の近さと、5枚いることでピッチの横幅をカバーできることを担保に、迎撃する守備を実行。

この中盤で狭く、かといって最後のところでは人数もいるという相手をどう動かして攻めていくか、というのが浦和のポイントでした。

ひとつの答えとなった先制点のシーンでは、明本と健勇のランニングで5バックの中央3枚を中央のエリアから引っ張ることに成功しました。そのスペースを眈々と狙っていたのは西大伍。早いタイミングでの先制点は大きなアドバンテージになりました。

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先制したことで無理に攻め込む必要も薄れた浦和は、相手の様子を伺いながらボールを持ちます。大分がボールを持ってビルドアップをするシーンは8分ごろまでなかったと思います。

小泉のカバーと大分WBの役割の変化

大分のボール保持は背後を4枚気味にして優位を取り、幅を目一杯使ったWBと中央で駆け引きをする1トップ2シャドーが受け手になるような形。

浦和から見て左サイドから作ってくる場面が多かったと思いますが、足りない分は明本を前に出して対応しようとします。

8:40がその具体例で、大分は明本が出てきた背後のスペースでシャドーが受けて前進しようとしています。この時、WBの松本が浦和の最終ラインと同じ高さで幅を取っているため山中は前にズレることができません。

そのため、小泉が明本の背後をカバー。ボールが中央にある時は相手のボランチをケアしているため、タイミング的にはやや遅くはありましたが相手のトラップミスもあり事なきを得ました。

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続く15:00では、明本が中央へのコースを切りながらのプレスに成功したため、小泉が予測を持ってサイドへ。明本の裏で受けようとする相手のシャドーからボールを奪うことに成功しました。

惜しくもラインを割ってしまいましたが、徳島戦の前半の反省を活かして、明本が下がらずに前からボールを取り戻しにいく姿勢は見せられていました。

明本の裏でシャドーが受ける、この仕組みがやや機能していなかった大分は22:00に別の方法で前進を仕掛けてきました。

この試合初めてだったと思いますが、これまで高い位置で山中を留めていたWBの松本がポジションを下げ、明本の裏で受ける役割に回りました。大外で受ける松本に対して、これまで同様に小泉がカバーに出ますが、大外の受け手に対してはシャドーに比べて距離があります。

前を向かれ、今度は最終ラインを留めていた町田とのワンツーで自陣深くに侵入されました。際どいクロスは跳ね返しますが、背走していた浦和に対して前向きな切り替えができた大分にボールを拾われ、同点弾に繋がりました。

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ゴール自体は槙野に当たっていてやや不運なものでしたが、同じサイドから別の前進の仕組みで浦和の最終ラインを動かし、背後を取った大分の質も高かったと思います。

その後、ボールを持てはしますが、大分の前から来る守備と中盤に5-4-1気味にセットする守備に苦戦します。特に、セット守備に対しては後半にかけて苦労しました。

40:00に自らのゴールキックから逆転を許します。自陣深くで相手を引きつけて前方にスペースを生み、ボールを送ることはチームとして問題はありません。

しかし、槙野のボールが相手に渡った瞬間に切り替えのプレスがかからず、危険な中央で相手をフリーにしてしまいました。これまでの試合では、ゴールキックからうまく前進することの方が多く、あまりなかったパターンの切り替えという側面もあったかもしれません。

とはいえ、失った瞬間の切り替えがうまくいかなければ、前進のために取った深さと幅を使ったポジショニングのデメリットが一転して表出します。

最後は流れたパスが槙野に当たって相手にこぼれるという、不運がまたしてもありましたが、痛い逆転弾を献上した形になりました。

5−4ブロックへの停滞

ビハインドで迎えた後半、健勇に代えて敦樹を投入。リカルドの試合後会見によると、健勇にはIH的な役割を課していたようです。

正直、どのような役割を期待していたかはあまり読み取れなかったです。武田的な役割を期待したのなら、関根に出てきたWBの裏を取ってローテーションに参加したり、関根を中に入れて健勇が大外に出たり、相手のMFの間で顔を出したり、ということになります。

それは彼の特長にはマッチしない役割だと思うので、前半はうまくいかなかったのかもしれません。

いずれにせよ、その役割を小泉に担ってもらうための敦樹投入でした。しかし、連敗中の大分はよりセット守備に比重をかけます。

片野坂監督のコメントを読む限り、後半も前からプレッシャーはかけたかったようですが、中盤で縦に狭くセットする機会が多くなりました。おそらく、連敗中というメンタル的な部分が作用したのではないでしょうか。

結果的に浦和がボールを持つ時間が長くなり、ハイプレッシャーは受けないのでビルドアップで奪われることも前半よりは減りました。しかし、セットした相手をどう崩すか、という点で苦労することになります。

サッカーのピッチの横幅は、4枚で守るには広いですが、5枚いればおおよそカバーできます。しかし、ひとつのラインに5枚を配置しているということは、どこかを削っていること。大分の場合は、1トップの周辺でした。

浦和は主にCBがボールを持つことになりますが、ここから単純に前へパスをつけるだけでは相手の組織は動かせません。動く必要のないブロックの前をボールが移動するだけなので、相手はそれを見て前向きな守備を行うことができます。

またそういった展開から、背後で受け手に回るはずの選手も徐々にブロック前への下がってきてしまう悪循環見られました。

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相手を動かす手法のひとつとして、昨年の大槻体制から求められている「運ぶドリブル」があります。今回の試合では1トップの脇にスペースがあることが多かったため、中盤の選手に向かっていくことで相手が立ち位置から動いて止めに行くべきか否か、の選択を突きつけることができますし、受け手を視野から外させることができるからです。

また、それに合わせて前線が裏抜けのランニングなどで最終ラインと駆け引きを行うことで、相手を動かしてライン間のスペースや人の間にギャップを生み出せる可能性があります。

34:40に槙野が運ぶシーンがありましたが、同じような形をもっと再現できれば先制点のような場面が増えたかもしれません。

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この辺りはリカルド体制になってさらに意識も高まっているとは思いますが、この試合ではあまり表現ができませんでした。また、運べた時に前線が裏を狙う動きも、特に前半は少なかったように思います。

後半開始直後は武藤がその動きを積極的に行っていましたし、交代した興梠や田中達也も同様の動きを見せていたので狙いとしてはあったかと思います。

しかし、大分の組織も圧縮していながら、後方のスペースもよくケアされていました。ボールを握ることも同じように重要な試合だったので、裏を狙ってボールを失うリスクとの兼ね合いもあったかもしれません。

結果として、相手のブロックの前でボールは持てるものの運んでラインを越える動きや、連動した裏への牽制もあまりできず、そこからどう相手を動かすか、という部分で停滞を招きました。

そのツケは、大分の前向きなプレッシャーを受ける浦和の受け手に回ってきます。山中がその1人で、56:30にはプレッシャーを正面から受ける形になり、ロスト。

大きな武器のひとつである山中のクロスも、チームとして相手の組織を越えていないため、発射する場所の確保が難しい状態でした。狭いスペースで相手と対峙し、静止状態から剥がしていくプレーは山中の特長とはマッチしません。

ですので、ドリブルで剥がせるタイプとして汰木、さらに同じパワーを出せる明本を後方に配置したのかもしれません。実際に、相手と対峙した汰木がドリブルを仕掛け、最後の4分の1まで侵入する機会も増えます。

重要だった同点ゴール

しかし、セットした組織をひっくり返してシュートを打つ選手に十分な時間とスペースを提供することに成功していたとは言い難い状況でした。

もどかしい時間が続きましたが、その手詰まり感をセットプレーから解決します。流れの中から中盤に進出した槙野が得たFKは跳ね返されますが、小泉のクロスを槙野のねじ込み、なんとか同点。

いくら両足で蹴れるからとはいえ、左足であの場所にボールを落とせる小泉と彼が信じた「嗅覚がある人」であった槙野の素晴らしいゴールでした。

この後、大分は再び前に出てくることになるのですが、セット守備をどう動かすか、という点で難しい時間を過ごしていた浦和にとって勝ち点3を得るうえで大きな得点でした。

相手を見た前進、汰木の進化

同点になったことで、大分も再び前からプレスをかけ始めます。前半はこのプレスを受けて2失点目を喫した浦和ですが、だからといって怖がらず、今季取り組んできた「相手を見た前進」にトライ。その姿勢が逆転弾を生みます。

80:45、右サイドのスローインから西川にボールが渡った場面。槙野が西川と同じ高さまで下がった立ち位置を取れています。これにより、相手から距離を取れているため、ボールを持った時に相手を見る余裕が確保できます。

前に来たシャドーの裏で受け手になった汰木に縦パスが入ると、背後からアタックにきた坂に体を当てながらボールをキープ。簡単にワンタッチで叩かなかったことで明本がスプリントする時間を生み出し、前から来た相手をひっくり返しました。

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今季の狙い通りの前進を行った浦和。背走する相手が戻り切る前に小泉、興梠、田中達也がエリア内に侵入して逆転に成功しました。

チームとして狙っている形を表現できた素晴らしいゴールでしたが、中央で相手を背負って時間を作った汰木のプレーは重要なポイントでした。

純粋なウインガー的要素が強かった汰木は、3バックを敷く加入当時のチームで得意なポジション自体がなく、シャドーで起用されると役割と特長がマッチしないという状況でもありました。

昨年からサイドの攻撃的なポジションが用意され、そこでブレイクを遂げましたが、今年に入ってからは内側でのプレーに磨きがかかっています。

このシーンは顕著な具体例で、サイドで相手にドリブルを仕掛けたり、ロングカウンターで発揮するスピードに加えて新たな武器をリカルド体制で獲得しつつあると思います。

リードした浦和は、小泉を中心にボールを保持して時計の針を進めましたが、ATにピンチの連続。しかし守護神がビッグセーブを連発して全て防いでくれました。

大分のブロック守備に対峙し、難しい時間を過ごした浦和でしたが大きな勝利を得ました。

まとめ - 経験と応用

「相手の配置や守備のやり方を見て、効果的な方法を選択する」

今季のチームが原則として持っていることです。今節の大分は、浦和としては初めて遭遇した「相手の配置や守備のやり方」でした。

これまでの試合では主に、4−4−2の初期配置からSHを前に出してくる、ボランチが前に来て埋めにくる、という相手を観察して対応することが多かったのです。

また、相手の最終ラインが4枚の場合、中盤のラインを越えると逆サイドが空きやすいという試合も多かったと思います。

そういった相手に対して、ビルドアップに人数を割きすぎない論理的な前進や、セットした攻撃を行えるようになったのが4月で、それに伴って結果もついてきました。

しかし、今回の大分はこれまで対戦してきたチームのいずれとも違う配置・やり方で、変化の幅も広く持っていたので「相手を見て効果的な選択をする」という点で苦労がありました。

中盤で狭くセットされた5−4のブロックにどう対処するかという面においては、解決はできなかったというのが正直なところです。

だからこそ、セットプレーの流れから追いつけたことは大きかったです。前半は苦労する場面も多かったハイプレスに対しても、原則を忘れずにプレーできたことで3点目を奪えました。この得点の取り方は自信になるはずです。

難しい試合になった一方で、そういった相手と対峙した経験を積めた試合でもありました。シーズン前のコラムでも記載した通り、今節のような具体的な経験値がチームに蓄積することで応用の幅も広がり、徐々にできることが増えてくるのがリカルドのチームだと個人的には期待しています。

次はルヴァン杯を挟んで福岡戦。整理されたブロック守備を備える相手ですし、昨年2戦2敗とリカルドにとって相性が悪い長谷部監督との対決にも注目です。

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