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絵本「からすたろう」

17年にも渡って子供と4000冊続けた読み聞かせ。
その間には、一生の思い出になる絵本との出会いが何度もありました。
八島太郎著「からすたろう」は、その一冊です。

6年間孤独にすごしたチビ

「からすたろう」の主人公チビは、遠い山里から一人小学校に通ってきていました。チビは、最初教室が怖くて床下にかくれたり、机に座れなかったり。他の子とはコミュニケーションもとれず、勉強もついていけず、そのまま5年間誰とも友達にならず放っておかれ過ごしました。

自分なりの楽しみを続けたチビ

だが、チビは一人過ごす間に窓の景色の移り変わりや天井や机の板の模様の面白さ、草花や虫をじーっと眺めて、自分なりに楽しんで過ごしたのでした。

6年生で運命的な恩師との出会い

6年生になった時、担任になった「いそべ先生」は、今までの先生とは違っていました。先生は、チビの芸術的センスや自然の生き物に対する観察力を見抜き、チビの絵や習字を壁に張り出しました。

そして、学年最後の発表会では、「烏(からす)のナキゴエ」という演題でチビを舞台に立たせました。。

最初はびっくり仰天した村人でしたが、チビの唄う「あかちゃんが生まれた時のカラスの声」「朝はやく鳴く声」「村に不幸があった時の鳴き声」「からすが嬉しいたまらない時に鳴く声」「いっぽんの木にとまって一匹でなく声」・・様々のカラスの鳴き声に聞き入りました。そして、いつの間にか観客の心は、遠くチビの住む山里に心は飛んでいき、涙していたのでした。

学芸会の後、「チビ」のあだ名は改められ、「からすたろう」となりました。小学校卒業後、胸を張って家業を手伝う「からすたろう」の姿が時折まちで見かけられました。。

現在の教育の在り方に疑問を投げる

この絵本は、子供達だけではなく大人に向かって「現在の教育のあり方」を問う強烈なメッセージを投げていると感じました。

強烈な人生を生き抜いた著者

この絵本の強烈なインパクトから、読み終わった後、子供達から「この話は本当なのかなあ?」という疑問が出てきました。

そこでもう一冊この絵本の著者「八島太郎」さんの著書「水平線はまねく」を借りて読んでみました。

それを読んでびっくり。。

絵本に登場するカッコいい恩師の一人「磯部先生」は実在したとのこと。(実際はいそべ先生は、二人の先生をモデルにした。)
児童情操教育の全国的指導者として児童たちの才能を導きだす素晴らしいのびのびとした自由な授業も続けられたとのこと。でも「せっかくきづいた才能を、世の中がつぶしてしまう」という言葉を残されて戦死されたとのことでした。

そして著者の八島太郎さんは、本名「岩松淳」さん。漫画やイラストレーターとして成功するが第二次世界大戦前に夫婦でプロレタリア運動に加わり、何度も投獄されたとのこと。

授かった子供のために運動から脱する証言をして、なんとか出獄するが、結局日本の社会の在り方に耐えられず、夫婦で子供を残して渡米。

戦後、自伝「あたらしい太陽」が全米に大反響を巻き起こし、作家としても画家としても活躍されたそうです。日本から呼び寄せた息子さんは、ハリウッドスターになったんですね。

この絵本の裏には、日米の間で華やかながらも、自由を求めるがために苦渋の選択を何度もしてきた著者からの「本当の人間の自由とは何か」「こどもの才能を生かす教育とは何か」を問うメッセージが込められていたのか、と改めて納得しました。

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