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小説「汗をかくアイスコーヒー」

「結婚するんだ」
わたしの隣で婚約者がそう言うと、目の前のコーイチは「おめでとう」と嬉しそうに笑った。地元の駅のコーヒースタンドで3人はいつものように向かい合う。

中学生の頃から付き合っている婚約者は、コーイチの部活の先輩だ。コーイチはわたしの幼馴染みで、コーイチが帰省する時、このコーヒースタンドで3人で集まるのが常だった。

「オレもっと、女の子らしいコがいいですよ」

中学生のあの時、わたしはコーイチの何気ないひと言に傷付いて、静かにその恋を諦めた。あの時もこんな、夏の暑さのゆるむ薄暮だった。

「先輩、ホントにこんなのでいいんですか」

ふざけたコーイチがそう笑うので、わたしはジロリとコーイチを睨んだ。

「それなら今から奪ってみせてよ」

なんて、弾みで口をついてしまいそうになるのを、わたしは必死で堪えた。ひどく腹が立ったので、脇腹をつついてやった。

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