【エッセイ】だからきっと、手書きが好き
今日は、「11(いい)」「02(もじ)」の語呂合わせで「習字・書道の日」だそうだ。
ありがたいことに、私の字は整っている方である。
就活のときに書いた履歴書は、友人から「パソコンで打ったのかと思った……」と言われたし、就職してからも賞状や御祝儀袋などの代筆を依頼されることが多かった。
私が整った字を書けるのは、小学生の頃に通っていた習字教室のおかげだと思う。
私が住んでいた町には、おじいちゃん先生がやっている習字教室があって、町の子どもの多くがそこに通っていた。
ぎしぎしと音のなる古びた階段を登っていくと、六畳一間の部屋に生徒用の低い机が6つと座布団が12枚並べられているような、小さな教室だ。
先生は1番奥に置かれた7つ目の机の前に座っていて、私たちを見守っていた。
「先生が書いたお手本の通りに、10枚書いたら終わり」というなんともゆるいノルマの中で、私たちはおしゃべりと集中を繰り返したものだ。
10枚書き終わると、白いビニール袋に無造作に入れられた多種多様な飴の中から、好きなものを3つ選んで帰る。
私のお気に入りはカンロ飴で、いつもカンロ飴を3つ取っては、先生から「おまえはいつもそれだねぇ」と笑われていた。
カンロ飴はいつも袋の中に入っていたから、もしかしたら、先生はわざわざ買ってきてくれていたのかもしれない。
そうやって週に1回。たった10枚の練習でも、数年通えば上達はするもので、このときの数年間が私の文字の基礎をつくってくれた。
今はもう、先生も亡くなり、教室があったトタン屋根の建物も長らく雨戸が閉まったままだけれど、その前を通るたびにあの頃の思い出が蘇る。
ありがとう先生。
先生のおかげで、私は自信をもって字が書けます。
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