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『創作論』



これまでの人生で味わった感情を可能なかぎりかき集めて、ぐっと力をこめて丸めてみた。黒ではないけれどすこし後ろめたいようなさびしい色をしたそれはまるで爆弾のようだと思ったけれど、それはわたしの感情を凝縮させたものなのだからまさに爆弾といってしまってよさそうなものだった。わたしの言葉はそこから生まれる、美しい色ではないけれど、わたしはそれを、愛しいと思った。

(爆弾といってはみたけれど、)わたしはそれを滅多に爆発させないし仮に爆発させたとしてその爆風で熱で近くにいる人を傷つけたりはしない。一瞬の閃光ののち樹々を瑞々しく奏でる風は辺りに染みわたり、肌をしとやかに撫でる熱はこころに沁みわたる。閃光も爆風も熱も、そのたったひととき。生まれた、という控えめな合図と、かすかな余韻して存在するもの。
破壊と再生をくり返して育んだ感情の発露は、人に血を流させるものであってはならない。わたしの爆弾は、人を傷つけない。派手な爆発もないのに人のこころを掴めるはずがない、そう思うのならそれでいい。その生まれる一瞬に、きらりと光ればいい。ただそこにあってなぜだか思い出せないけれどずっと前から知っている気がするような、柔らかなものでありたい。わたしはそんな柔らかなもので満たされていたいし、そんな不確かなもので、言葉を紡いでいたい。


『創作論』






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