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樋口円香は誰のために歌うのか。Landing Point感想・考察

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アイドル・樋口円香は誰かのために、歌っていない。
そんな誰のためでもない歌を、アイドル・樋口円香は激情を持って歌う。

そんな矛盾を引き起こした。透明を望んだ彼女の哲学。

※ネタバレあり
「Landing Point」、その他「樋口円香」に関するコミュ

エンジン

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アイドル・樋口円香の出発点であり、終着点でもあった、【カラカラカラ】のトゥルーエンド「エンジン」というコミュ。
樋口円香が敬遠するアイドルというものを続けている理由でもある。プロデューサーがこのエンジンの車を止めるまでは、乗り続けるという意味を含んでいた。しかしこのコミュの冒頭で、プロデューサーは車を止め、円香の答えを待った。車に乗せるのではなく、円香の自由な意思を聞くために。まるで対比するかのような始まり方だった。

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海へ寄り道がしたくなる

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まるで当てつけかのように挟まる回想シーンと電車での乗客の会話。「海へ行く」というのは、ノクチル・樋口円香にとって重要なことで、「アイドルを目指す」という浅倉透が出した答え。優秀であった樋口円香は、人生というレールの上で、良い席を確保できたはずだ。そこそこな人生を歩める程度には「良い席」を。それが今現在、アイドルというレールから寄り道するような人生を送っている。途中で降りてしまったかのように。

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プロデューサーが見た夢

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冷たい風というのは、樋口円香が一度例えている。自分を評価するような、そして蔑み、誹謗するかのような声。それに耐えられなくなった円香がアイドルをやめて去ってしまうというもの。アイドルであることを諦めてしまうかのように感じたプロデューサーの違和感がここなのだろう。

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望む空へ羽ばたけるように

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これは出会った頃にプロデューサーがしつこく円香に言っていたセリフ。「望む空」というものへ固執している。しかし、それが同じ空を見つめているのだろうか、という疑問がプロデューサー自身の中に浮かんできたのが現状ということになる。

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では教えて下さい。アイドルとは?

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おそらく今回のシナリオで最も重要なもの。これは真に意味を探るということではなく、「アイドル・樋口円香にとって、アイドルとは?」という哲学。自身が敬遠し、忌み嫌うほどだったアイドル。その概念そのものが、一体どういうものなのか。それを理解してしまったのが、今回の円香。

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樋口円香を見ています。

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これに恐怖した。樋口円香という偶像を見せているつもりだったが、本当に望まれているのは、樋口円香そのもの。これは樋口円香が最も忌み嫌っていた概念だ。自分が見られたくない部分。表現したくない部分。誰かに消費しつくされてしまう自分。これがアイドル・樋口円香が出した「アイドルとは?」という疑問への答え。


ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに

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これは【ギンコ・ビローバ】でのトゥルーエンドのコミュにて。スーツとは、プロデューサーにとって優秀な人間であることの象徴。欠点や愛嬌を長所に変えることのできる、樋口円香が嫉妬した部分。これは逆に言えば、誰かによく見られるために、折り目正しく美しいスーツを着ているとも言える。それも今もなお着ているのか、と自分の問いかけるようなシーンが「だらしない格好のあの人」の話。

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樋口円香には激情がある

そして【ピトス・エルピス】のトゥルーエンドにて、プロデューサーが出した答えは樋口円香の激情だった。透明を望み、自分そのものを見られたくないという思いを持っていると同時に、激しく、強く表現したいという感情を持っている。だからこそ、プロデューサーは、樋口円香に対して、強く敵対した。樋口円香に樋口円香の表現を強要したのだ。

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こうした哲学のぶつかりあいが起こったのが、あの河原での出来事。今回のシナリオの中枢。これからアイドル・樋口円香がどう歩んで行くべきなのかを真剣に殴り合った。

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これに対して、「あなたを掴むくらいなら溺れて死ぬ」と表現した。【カラカラカラ】のホームのセリフ「ガラスの向こうから見つめないで 一緒に溺れる気もないくせに」とあるように、樋口円香の哲学には「溺れて死ぬ」ということが強く重要視されている。それは自分が「海へ向かっている」ということへの後ろめたさからくるものだ。樋口円香は溺れることを一番呪う。

樋口円香の間違い。混じり合う色

樋口円香が表現した恐怖。それが混じり合う空の色。誰よりも透明を望む彼女とにとって、誰かに色づけられ、いずれ真っ黒に塗りつぶされることに恐れ慄く。そんな空は望む空ではない。

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しかしこれは完全な間違いである。「色」というのは混じり合えば黒に近づくが、この樋口円香が表現している「空の色」は違う。混じり合って黒に近づくのはCMYKで表される色の三原色だが、光の三原色は混じり合うほど、より白、無色透明に近づくのだ。

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太陽の光は、分解するとカラフルになる。これは逆に言うと光の色が集合すると、透明に近づくという結果になる。光は、混じり合うほど太陽に近づく。真っ暗な夜にはならない。

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この決定的な間違いに気づかせてくれたのが、照明スタッフのシーン。

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そして樋口円香は誰のために歌う

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自分のためでも、ましてやファンのためでもない。それでも唇から零れ落ちる激情。その喉から溢れ出した衝動。そんな誰のためでもない歌だからこそ、誰のものでもない。

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だからこそ誰もが受け取ることができる歌。これを表現することが、樋口円香が新しく見つけ出した哲学。

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大切にしまわれたオルゴールのネジをカチカチと回すことのできる理由



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