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実質と化生

ちょっとフォイエルバッハについて調べてみたのですが、大変興味深いです。今日は少し彼の説の傾向性について思うところを簡単に述べてみたいと思います。

|283| Der wirkliche Idealismus Feuerbachs tritt zutage, sobald wir auf seine Religionsphilosophie und Ethik kommen. Er will die Religion keineswegs abschaffen, er will sie vollenden. Die Philosophie selbst soll aufgehn in Religion. [Friedrich Engels, "Ludwig Feuerbach und der Ausgang der klassischen deutschen Philosophie", '' より引用]

(私訳)私たちが彼の宗教の哲学や倫理に達するとすぐに、フォイエルバッハの真の理想主義は明かになる。彼は宗教を決して取り除かないだろうし、彼はそれを成し遂げるだろう。哲学自体が宗教の中に明らかになるべきである。

以上はエンゲルスの『ルートヴィヒ・フォイエルバッハとドイツ古典哲学の終結』(フォイエルバッハ論)のパートⅢからの引用です。

私の中でマルクスの系統の人という認識のあったエンゲルスですが、彼らへの「宗教」に対して抱いている観念はどうも複雑な様相を呈しているように思われます。どうも単純に宗教そのものを排斥しようとしているというわけでもないのかもしれません。むしろ「哲学自体が宗教の中に明らかになるべきである」というふうな主張をしていることから、宗教を包摂するようなニュアンスが読み取れます。マルクスたちの思想の解読も一筋縄ではいかないのだな、と思います。

前回取り上げさせていただいたマルクスの『経済学・哲学草稿』においては「神学」の概念をかなり批判的に取り上げられていたのですが、その仲間のエンゲルスによるフォイエルバッハ論からは単純な意味での宗教への「敵意」のようなものは見受けられません。これはどう考えるべきなのでしょうね。ふむ……。

マルクス、エンゲルス、フォイエルバッハ……とても難しいです。そもそも歴史上の天才の思想を何か出来合いのスキーマに落とし込もうとすること自体がおこがましいことなのかもしれません。彼らの論理は非常に複雑ですが、その分、繊細ですね。結局のところでは、全方位的に理想的なバランスを保っているから古典として持続しているのかな、とも思います。

マルクスの『経済学・哲学草稿』の序文では、フォイエルバッハに対してかなり好意的であるように見受けられるのですが、そのフォイエルバッハが宗教を排斥しているわけではない……。すると、マルクスも宗教の趣旨を少なくとも全否定しているわけではない、とも言えるのかもしれません。どちらかと言えば、宗教と哲学の一体化に向かって突進しているのでしょうか。色々な読み方ができる余地がありそうです。その様々な読みの中でどれが一番妥当な解釈であるのかを決定するためには、みなさんの忌憚のない意見が必要であるかもしれません(笑) マルクスやフォイエルバッハ達の意見について一家言ある方々にはぜひともコメントしていただければいいなと思います。これらの偉人たちについて知らない方たちの意見ももちろん欲しいです。初見で彼らの文章に触れて、どのような印象を持たれるのかにも非常に興味があります。

ひょっとするとマルクスもユング的な意味でのエロスな人だったのかもしれません(笑) 色々な概念が一体化していく形跡はわりとみられるように思います。私もロゴスよりはエロスよりではあるので、なんだかマルクスに親近感が湧いてきました。マルクスが少し好きになった感じがありますね。うん。

今回取り上げたエンゲルスのフォイエルバッハ論はすごく面白い感じですね。全体的に。引用した箇所以外にも面白い点がたくさんあるように思います。気になった方は翻訳でも原著でもご自分のペースに合わせてお読みになってください。めちゃくちゃ楽しいと思いますし、そしてその読んで解釈した成果などをブログやnoteにアップして下さるとさらにみんなにとっても有益だと思います。みなさんの「マルクス論」や「フォイエルバッハ論」を見れる日がとても楽しみです。

さて、宗教と哲学の間の境界をエロスの作用なり、弁証法なりによって溶かしてしまって、その上で何の誕生を期待できるのか? という問題。一般には、宗教と哲学は別分野であることになっていると思うのですが、そうした文化が絶対的なものであるとは言えないようですね。少なくとも、エンゲルスから見たフォイエルバッハはそうした人であるように立論されているようですので、その点からしても、宗教と哲学の概念をある程度にせよ接続しようとした試みは見受けられるように思います。

ここで仮に、宗教を聖なる何かとして哲学の方を世俗的な諸々の事象を取り扱う何かであるとして対置すれば、これは分かりがいいです。前回取り上げたマルクスの『経済学・哲学草稿』で言うところの「神学」と「実証」の対立の相似形ですね。と言うのも、神学的なものをフォイエルバッハ論でいう「宗教」として読みこみ、エンゲルスの言う「哲学」の概念を「経験的分析」に依拠した「実証的」なものであると捉えれば、ほとんど無理なく解釈可能であるように思われます。つまり、エンゲルスは宗教を単純に排斥してしまうよりも、哲学を宗教とある種の仕方で「溶け合わせる」方策をある程度重視していたのかもしれません。だからフォイエルバッハ論を書いた……そういう推理も成り立ちますが、要研究ですね。少なくともフォイエルバッハとマルクスとエンゲルスの著作を全て見てみないと何とも断言はできません。そんなことしてたら、本当に一生が瞬く間に終わりそう(笑) マルクス達の著作を読みこむというのは本当に大変なことですね。幾多のマルクス研究家の人たちには感謝です。偉人の原著はもちろんとても優れていて、すごく面白いのですが、色々な研究者の方たちが書いてくださった解説書などもそれはそれで意義深いものだと思いますね。少なくとも私がここに書いている解説? よりは大分優れているものも多々あるように思いますから、この記事をきっかけにしてマルクスたちの思想に興味を持つようなことがあれば、ぜひ、色々なマルクス研究家の方たちの著作も見てみてください。「それぞれのマルクス」が浮き上がってくると思います。そして、同じ研究対象について書くのでも、その研究家の方の「色」があって、独特な部分も多くあることに気づくと思うのですが、そういう「個性」というか解釈的な「独創性」ですね、そういうのがとても新鮮な風味を醸しだしていて、極上の体験ができること間違いなしです! そして、そうした愛ある研究者達の知恵に触れて、マルクスたちの原典にも触れられれば、それは本当に素晴らしいことだなと思います。文章を書くというのは本当に大変なことだと思います。だから、著作家の方たちは本当に偉いな、と思いますね。ホント著作活動って圧倒的贈与ですよね。自分の利益だけ考えるなら、別に人が間違った道に行っているのを見ても諫める必要も批判する必要もないのですから。でも、人を見捨てられない優しい人たちがおそらく各々の能力に応じていっぱい頑張って文章を書くわけですね。文筆の文化、というか文学? は本当に尊い。うん。すごいですね。

それで、フォイエルバッハと宗教の関連については研究してみると、すごく面白いかもしれません。これはかなりマルクス哲学の基軸に影響を与えられる重大なトピックであるようにも思えますね。私には。私なんてなんとなく宗教とマルクスを単純な対立関係で捉えすぎていた気さえします。無知は怖いですね。人生は勉強の連続。世界には知らないことがいっぱいあるな、と思います。

今回の結論は、「やっぱり厳密に見ていくと色々なことって一体化していたりして、それに至る道筋は本当に色々なので、何事も一筋縄ではいかないものだな」という感じだと思います。そして、私は「難しい」ということを強調していますが、多分「シンプル」と「複雑さ」というのもエロス的には一体化していくのでしょうね。ロゴス的に分離してはいるけども。そう考えてくると、本当に奥深くて、神様はどうしてこんなふうに世界をお創りになったのだろう? という疑問もわいてきたり、神秘に耽溺してしまいます(笑) 耽美派はならぬ、耽神派(笑) もちろん、「美」と「神」が必ずしも単純に対立関係を持つとも言いませんが。それにしても考えてみれば、美と神ってどのように違うのかとか気になりますね。この辺りはバウムガルテンの美学とか参照しつつ議論を展開していくといいのかもしれません。やるべきことありすぎて本当にヤバいですね。無限に書くべきことがあります。

それで、私が何でマルクスの本を最近頻繁に取り上げているのかと言いますと……。マルクスの理論が共産主義の端緒だからですね。簡単に言うと。と言うのも、例えば統合失調症などの精神病って資本主義の悪い部分の影響も受けていると思うんですね。逆に言うと、資本主義をアップデートしてもっといい制度を確立できれば、こうした障害を減らせると思うんです。その意味で、マルクスたちの理論は精神障害の行く末にもダイレクトに響くと思います。実はそういう理由があったわけです。さすがの私も何の意味もなくマルクス大先生を召喚するほどに大胆ではありませんよ。さすがの私も……。ね?

世の中には、それらしい理屈もあれば、実質的な理屈もあって、色々な理屈があるのですが、みなさんがそうしたたくさんの物事の中でも、迷うことなく自分の道を進むことができますように。祈ります。

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