効果的な臨床家の特徴
岩壁茂はその著作の中で「効果的な臨床家の特徴」についてPatterson, C.H. (1985) The Therapeutic Relationship: Foundations for an Eclectic Psychology. Brookes/Cole. から抜粋して表を作成している。
以上の効果的な臨床家の特徴から、効果的な臨床家とは何かについてある程度推察することができる。
例えば、これらの基準を応用すれば、その臨床家がどの程度効果的な臨床家であるかを査定しうるだろう。この効果的な臨床家の特徴に書かれている条件に合致していればいるほど、その人は効果的な臨床家としての資質を有しているものと考えうる。これは効果的な臨床家をクライエントが探り当てるための一つの指針足りえるだろうし、あるいは心理学の研究者が公認心理師や臨床心理士のような人々を養成する際の何らかの手掛かりにもなるだろう。
このように様々の条件を要約し、簡潔な「リスト」として再編成して、読者が少ない労力で一覧できるようにする作業には大きな意義があり、それ自体が既に「創造的な」情報資源の活用手法であると言える。
先述した効果的な臨床家の特徴のリストに示された概念はどれも興味深いものだが、ここでは特に、8.神聖体験、大洋感覚(自然など自分より大きな存在との一体感を意味する)をもつことができる、の項目に着目してみたい。
私は統合失調症の診断を受けており、その経験があるが、こうした「神聖体験」は統合失調症ではしばしば起こるように思われる。神様の声が聞えたり(幻聴)、自他の境界が弱くなり(自我障害)、自分と神様や自然や世界が一体となるような感覚も生じる。こうした統一的、統合的な一体感は統合失調症においては顕著であるように思われる。このことから、統合失調症というのは「統合性」が「失調」しているわけではなく、何らか一般的な常識とは別の仕方での統合性が生じているものと考えた方がより自然であるようにも思う。そのように捉えるとすれば、統合失調症も負の資質ではなく、よりポジティブな「才能」として捉え直すことができる余地が生まれる。
私個人の経験からすると、統合失調症の体験を経ることで自分の能力が飛躍的に向上しているように思うので、――また、自分の他の統合失調症患者の知的卓越性からしても――、統合失調症は善きものであるという印象を持つ。
また、神聖体験の他の効果的な臨床家の特徴においても、統合失調症の特徴に合致しているように思われる。この直感が正しければ、統合失調症を経験しているという事実は、心理臨床などにおいて無駄になることはなく、むしろアドバンテージにさえなりうるのではないか……そのような積極的な可能性を予期することができる。
これらの知見を応用して社会的な施策を具体的に行うとすれば、例えば「ピアカウンセリング」のような概念を充実させる方針が考えられる。
一般的に言って、障害については障害者こそが専門家である。ピアカウンセラーによるピアカウンセリングを積極的に社会に展開することで、より「効果的な臨床家」を輩出できる可能性があり、そのことは社会における障害者独自の文化を創出するのを助け、社会の創造的発展にポジティブに貢献しうるだろう。