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駐在員になって(ほぼ)鬱になった話。

私は、当時ものすごい勢いで経済的発展を遂げていた中国に、駐在員として2年ほど住んでいました。

世界中から人が集まり、国中が勢い立っていて、活気というよりアグレッシブなエネルギーがそこかしこに漂い、そこには「生命力」みたいなものに混ざって、人間の欲や黒い部分も影に隠れもせず、あらわになっていた・・・
そんな不思議な空間でした。

私が中国に行ったのは、当時勤めていた会社から派遣されたのが理由なのですが、「中国とインドネシア(バリ)とどっちがいい?」と聞かれ、本当に本当に、なーんにも考えず、「え?じゃぁ、近いから中国で。」←本当にこんなノリでした。

これが・・・・2年弱でほぼ鬱になって帰国する結果になるとは、全く考えていませんでした。

今はどうか分かりませんが、当時は、埃や排気ガス、汚染で反対側も見えないような道路で、地べたに座って鍋から直接お昼ご飯を食べてる工事のおじさんがいると思えば、月に家賃が数百万もするマンションに住んでいるお金持ちの中国人や駐在外国人がいて、その対極にいる人間が同じ空間に存在していることに、頭がくらくらしていました。

のし上がるためには簡単にウソをつく人々、道路で殴り合いをする人々・・・

玉の輿に乗ろうと外国人に集まる現地の女性と、それで勘違いする外国人駐在員・・・

朝会社に行くと、パソコンごと盗まれていたり、社内のお金がなくなっていることもあり、「マーケティング」という肩書のスパイが雇われていたりもしました。

スーパーに行けば、卵の期限切れシールの上から、日付を書き直したシールを客に隠すこともなく堂々と貼り直す店員さんがいたり・・・

私の留守中にマンションのオーナーが部屋に入ってくつろいでた形跡があったり・・・(マンションのセキュリティーに聞いたら、「オーナーであれば止めることはできない」と言われました)

とにかく人間の素の、一般的には「はしたない」といわれるような部分がむき出しになった環境でした。

そんななか、仕事は信じられないほど忙しく、24時間電話で拘束され、そしてレストランで食事中であろうが、シャワーを浴びていようが、夜中寝てようが、その電話は本当によく鳴りました。

私は心の安らぎを求め、3ヵ月置きくらいに日本に5日ほど帰る生活を続けていました。

当時、女性としては本当に良い待遇だったと思います。
生活費も全て会社持ちだったため、頂いたお給料からは食費以外何も払う必要がなく、貯金はみるみる貯まりました。

でも、銀行の預金残高が増えるのに比例し、私の心はどんどん、どんどん病んでいっていたと思います。

忙し過ぎる仕事とそのおかしな環境に、私の思考は麻痺し、自分が病んでいることにさえ気が付いていませんでした。

外は白い服を着ていると、バッグとの接触部分が黒くなり(汚染で)、道路は痰だらけで、それをよけながら歩く日々。

太陽の光はスモッグで曇り、風が吹けばケミカルな匂いが漂ってくる。

この勢いのある国で夢を掴んだ人もたくさんいるのでしょう。

私の仕事も、電話拘束以外は楽しかったのです。
世界中の医療専門家と一緒に働けるなんて、そんな機会、普通に日本に住んでいたらきっとなかったと思います。

駐在してもうすぐ2年という春、私は一時帰国し、実家からすぐそばの田舎の駅のホームにいました。

ホームから見えるのは田んぼや木々、それからのんびり通り過ぎる人々や、はしゃぐ子どもたち。

空は青く、ちゃんと目を開けて空を見れないほど眩しい太陽がそこにありました。

その時、私は自分の足元に視線を移し、

「あ、影がある・・・」そう呟いていました。

そう言えば久しぶりにこんなクッキリした影を見た気がしました。
(中国で影を見なかったのは汚染のせいか、忙し過ぎたせいかは分かりません)

その影は、当時の私には美術館の絵画のように美しく感じられました。

久々に感じた子どもの様なワクワク感で影をみていたその時、風が吹きました。

私の頬を春の生暖かい風が撫で、草の香りが心地よく私の脳を刺激しました。

気が付いたら涙が頬を伝っていました。
次から次へと流れて止まらない涙。

そうか、私はこんなに病んでいたのか・・・・その時初めて気が付きました。

あの2年間は、本当に夢を見ていたかのように実感がないんです。
きっとブラックといわれる企業で働いている人が辞められないのも同じ状況なのではないか、そんなことを思いました。
(注:私がいた会社はブラックではありません。電話拘束は、途中から3交代にしてもらいました)

そういう時は俯瞰してみる。

一度離れてみることが大事なんだな、と思いました。

そして、今あるものを失うことを恐れてはいけない、そう思いました。

人生、この先に何が待っているかは、私たちの想像できる範囲を超えています。
(この当時、私は将来フランスに住むなんて思ってもいなかったし!)

道の向こうは暗闇で見えない・・・怖い・・・
と思っていても、曲がり角を曲がると、そこには素敵な風景が広がっているかもしれない♥

この時は、心の平安を優先し、条件の良い仕事を失った結果・・・

同じ会社の東京社からお誘いをいただき、同じくらいの条件で、最高に楽しい東京ライフが私の人生にやって来ました。

あの時、私を眩しく照らし、影を作ってくれた太陽と、風と草の香りは、きっと一生忘れないと思います♥


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