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カメラの話で飲もうや 1軒目 Nikon F

2019年、ニコンFが国立科学博物館の「重要科学技術資料(未来技術遺産)」に登録されたんだそうです。そんな、日本の高度経済成長期を支えたニコンF。ご年配の常連さんが集う居酒屋さんにでも持って入ったりしたら、自他共に認める「ニコ爺」の皆さんがどこからともなく集まってきて、あーでもないこーでもないと議論が始まりそうなカメラの筆頭ではないでしょうか。この時代のカメラの本を読むと、特にニコンFは特別な存在のようです。
そんなカメラを、ニコ爺になりきれなかった不祥私めが語ります。

ニコンFにはさまざまな形のファインダーが用意されていましたが、やはり最初に気になったのはトンガリ頭のアイレベルファインダーが付いた、「これぞ一眼レフカメラ」という風体のモデル。
先っちょを指で触ったら刺さりそうなほどトンガったあいつです。
さらにこだわる方は「富士山マークがついた初期タイプ」や、さらに重症の方はシリアル番号の頭3桁が640であることに価値を見出すようです。
かく言う私は実用性を重視し、使う上でなるべく状態の良いものを探しました。結果、富士山マークもなく、シリアル番号も731で始まるモデルを我が家にお迎えすることになりました。前のオーナー様は業者ではなく、ご自身が長く大切に愛用されていたようです。外観もファインダーもとても綺麗で、ストラップやレンズも当時のスタイルを反映した、よく似合うものが付けられていました。

Fはエッジの効いたシャープなデザインもさることながら、シャッターがいい音を奏でるんです。後世のカメラにはない良い意味での暖かさというか優しさを感じます。ゴルフで言うとアルミやチタンでできたアイアンの痩せたショット音ではなく、軟鉄の繰り出す豊かなショット音と言ったところでしょうか。

Fはニコン初のプロ向けの一眼レフフラッグシップ。プロカメラマンやハイアマチュアの皆さんがこぞって絶賛した「最高の仕事道具」だったわけですが、半世紀以上の時が経ち評価が変わってきているように思います。高効率や高性能ばかりを追求したイマドキのカメラと違い、撮影という行為にきちんと向き合うことができるという意味です。
数多あるFのレビュー記事を見ていると、やれ裏蓋が取り外し式でフィルムを交換しにくいとか、シャッターの位置が手前すぎて押しにくい、とかそのような記載を多く見かけます。1枚のメモリカードに何百枚、何千枚と記録できる時代にあえて36枚しか撮れないフィルムを使っておきながら、フィルム交換が面倒というレビューはなんなんでしょう。シャッター位置にしても慣れの問題で、ライカなら良くてニコンならダメな理由もよくわかりません。
実際に使ってみると、実用上は非常に欠点の少ないカメラだということがよく分かります。

私はアイレベルのFだけでなく、フォトミックFTnファインダーも入手しました。なぜか2つあります。このフォトミックファインダー、最初に写真で見た時にはずいぶんと不恰好だなぁと思っていたのですが、いろいろと調べていくうちに、「ぶさかわ」という言葉がよぎりました。
トンガリ頭のアイレベルファインダーは紛れもなくスタイリッシュで、誰が見ても一眼レフカメラであることがすぐにわかります。しかし頭デッカチのフラットトップであるフォトミックファインダーはその存在感が圧倒的なんです。昭和の時代にはその頭デッカチさから「違法建築物」と揶揄されていたようですが、令和の時代となっては「デザイナーズビルディング」に見えてきます。人の感性なんてそんなものです。ある意味、時代を先取りしすぎていたのかもしれません。
何種類かあるフォトミックファインダーのうち最後のモデルとなったフォトミックFTnファインダーから「ニコンのガチャガチャ」対応になります。
子供の時分に父に教わったこの「ガチャガチャ」を、この歳になって再び味わえるようになるとは思ってもいませんでした。
フィルムカメラのレビュー記事を読むと、やはり「ニコンのガチャガチャ」に特別な思いを抱いている方も一定数はいらっしゃるようで、みな同じ時代を生きてきたのかな、と勝手に壮大な思いを巡らせてしまいます。
酒を飲みながらFを愛でる日もあります。無性にガチャガチャしたくなったりもします。そしてシャッター音が聴きたくてつい空シャッターを切った…つもりが、実はフィルムが入ってました、なんていう失敗談もありやなしや。

そうこうしているうちにFに似合うレンズってなんだろう、と考えるようになりました。Fを愛機にされている方、あるいは過去にFを使われた方にはそれぞれ思い入れの強いレンズの1本や2本はあると思います。通常お気に入りのレンズというのは作風で選ぶことが多いのですが、私はまだそこまで使いこなせてはいないので見た目重視で選びました。それはやはりFマウント初期に多かった、先端がシルバーのいわゆる「サキジロ」と呼ばれるレンズです。Fの発売と同時にリリースされた、Nikkor-S Auto 5cm f2はお気に入り。先端が白く、焦点距離の表記がmmではなくcmであるのが泣かせてくれます。実際にFにつけてみると、貼り皮の黒をアクセントに、ペンタから軍幹部にかけてのシルバー、セルフタイマーやレンズ脱着ボタンのシルバー、そしてレンズ先端のシルバー、このバランスがなんともいえません。実に美しい。そしてこの時代の立体的なローレット加工もやはり質感の高さを物語っています。ついつい酒が進んでしまいますよね。長く大事にしていきたい逸品です。
そういえばこの時代のデザインを引き継ぎサキジロで立体的なローレット加工を施したレンズが2021年になってもなおフォクトレンダーから新発売されています。
COLOR-SKOPAR 28mm F2.8 Aspherical SL IIs
APO-SKOPAR 90mm F2.8 SL IIs
つい1年前までニコン本家からMFのAIレンズが現役として売られていたことも大したものですが、さらにサードパーティでこんなデザインのプロダクトにGoサインを出したコシナさんには敬服いたします。
Z Nikkor 28mm f2.8 Special Editionはもうちょっとどうにかならなかったのでしょうか。

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