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華流ドラマ感想「明蘭~才媛の春~」は激動の時代の家族の崩壊と再構築(2)

 今年の春に日本の大学を卒業して、「国際人文の在留資格」で、働き始めた中国人女性と知り合った。きっかけは、仕事がらみだったが、親しくなれたのは、中国ドラマの話で盛り上がったからだ。
 そのとき、話題にしたのがこの「明蘭~才媛の春~」だ。最初は、日本語のタイトルである「明蘭…」と言っても、”ウン?”という顔をしたが、「チィホー、チィホー(知否知否)…」と言ったら、すぐにわかってくれた。

「それって、まだ新しいドラマじゃないですか。もう見たんですか?」とちょっと一目置いてくれた。そこで、わたしは、このドラマのどこが面白かったかを、20代で、未婚で、仕事にも恋にもこれからっていう夢と野心にあふれた中国人女子に得々と語ったのであった。

  このドラマのストーリー
時代は北宋。官僚の家庭で身分の低い側室の娘として生まれた盛明蘭。父親から愛情を得られず、父の正妻や異母姉妹たちにも虐げられて育った彼女だが、亡き母の教えを守り、自分の才能や美しさを隠しながら生きてきた。そんな明蘭が、御曹司の顧廷燁に見初められ、顧家の女主人となったことで人生の転機を迎え…。実生活でも夫婦となったビッグカップルが贈る!強い絆で結ばれた夫婦の愛を描いたラブストーリー!


見どころ①激動の時代の権謀術数の倍返しが満載のストーリー
 

このドラマで描かれるのは、時代劇ならではの、正室、側室、跡目相続満載の家族関係だ。それだけでなく、並行して、王室の権力争いや政権交代、クーデターも同じように扱われているところが、また面白い。
 ややもすると、後宮ものでは女性同士の争いが主流で、男性陣の権力闘争の描き方が弱くなってしまったり、逆に英雄豪傑ものだと、やたら、カンフーの空中戦ばかり見せられて、女性が出てきても、その恰好で闘うんですか?と突っ込みたくなることがよくある。「中国ドラマあるある」である。
 しかし、このドラマには、その偏りがあまりないように思う。もちろん、エンターテイメントなので、基本はフィクションなのだが、リアリティのある上品な画面を背景に、バランスよくストーリーが進んでいくのだ。
 ドラマづくりのレベルが高いのにびっくりしたが、くだんの中国人女子によれば、ドラマの制作会社は、中国で一番の会社だとのこと。

 「明蘭~才媛の春~」は、基本的人権などないしっかり「性悪説」を打ち出せる時代背景なので、正室と側室、嫡出子と非嫡出子、相続などの争いも血で血を洗うすさまじさで描かれている。
 政権交代やクーデターの権謀術数のエピソードもふんだんに出てくる。
 
 そして、女同士の世界でも、男同士の権力争いでも、やられたらやり返す、倍返しの連続は、中国時代劇ならではの面白さだろう。



見どころ②明蘭のヒロイン像の新しさ 


時代劇とくれば、聡明な女主人公は、男並みに学問を学びたい。そう思っていたところに運命の相手が現れて…となるのが従来のヒロイン像の定番であるが、このドラマはそうではない。
 確かに、明蘭は、男以上に優秀だが、学問は処世の術を学ぶもの、生き抜くために使うものと割り切っている。
 「世間は女に求めるものが多すぎる」というのは、劇中での彼女のセリフだが、女性に非情な時代だからこそ、女はいろいろと学ばなければいけないので勉強はするが、バカなふりをして、自分の意見も言わない
 正妻の娘より目立っていいことは何もない。誰も助けてくれるわけではない、頼れるのは自分だけだと、母が亡き後、祖母から教えられてきた。
 こういう世の中に対して少し冷めているヒロイン像は、面白いと思った。
 時代劇というのは、今の時代にこそ、言いたいことや訴えたいテーマをオーバーに表現してもいいのだし、そこが面白いのであるが…。
 しかし、このドラマのヒロイン明蘭は、虐げられすぎて、世の中に対して、冷めている少女だった。
 このクールなヒロインが、激動の時代に、崩壊する家族関係を経て、どのように家族を再構築していくのか、それによって、ヒロインはどう成長していくのかが、このドラマの魅力なのである。



見どころ③家族の再構築のためには夫婦愛は不可欠 

 
 中国ドラマの「ラブ史劇」というカテゴリーなので、明蘭の恋愛事情も丁寧にしっかり描かれている。
 「恋とは?」「愛するとは?」「愛されるとは?」といろいろなシュチューションで見せて考えさせられるドラマだ。激動の時代にあっては、惚れたはれただけでなく、男女の人間としての力量が対等で、お互いに信頼し合える関係でないと、家庭を維持するのは難しいという教訓まで含んでいる。
 主演の2人は、一緒に香港旅行していたとか何とかで熱愛の噂もあったらしいが、ウイリアム・フォンは、チャオ・リーィンのことを聞かれて「彼女は演技力のある素晴らしい女優だ」とリスペクトを口にしていた・・・これって、どこかでも聞いたことのあるような話だが・・・。
 何はともあれ、ドラマ終了後にご結婚という超ハッピイエンドを迎えたわけだ。それは、視聴率も上がるわな。
 もちろん、演技派どうしのリアルカップルの演技なので、何も今更言うこともないが、それでも、クライマックスの2人だけのシーン(詳しくはネタバレになるので言えないが)は涙なくしては見れない名シーンだった。

 脇を固める俳優陣もよく、演出も上手い、73話という長編ドラマなのにダレもせず、終盤にかけての盛り上がりも良かった。

 だから、私としては、このドラマ制作陣に、ぜひ社会派の現代劇のドラマを作らせたい、香港を舞台に・・・とつい妄想してしまうのだった。
 それこそ、「知否知否応是緑肥紅痩」なのであるから。


 

 






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