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映画「新感染 半島」レビュー~カン・ドンウォンと終末期の世界の希望~

 元旦に日本公開となった韓国映画「新 感染半島 ファイナルステージ」を観た。
 お正月だというのに、閑散としている有楽町界隈であったが、「東宝シネマズ日比谷」の「スクリーン8」はほぼ満席状態だった。
 映画を観終わった頃は、既に日も暮れていたので、人気のないミッドタウンのイルミネーションがやけに綺麗に見えた。

 「カン・ドンウォン」見たさに行ってはみたものの、正月早々にゾンビものかとちょっとひるんだ。しかし、この映画は、ヒューマニズム溢れるアクション映画で、意外にも、お正月に観るのにぴったりな希望を与えてくれる清々しい映画だったのだ。
 元旦に公開を決めた担当者のセンスは素晴らしい。と思う。

<ストーリー>
人を狂暴化させるウイルスの感染爆発により、わずか1日で韓国の国家機能が停止してから4年後。脱出中の船上で姉と甥っ子を失い、亡命先の香港で失意の日々を送っていた元軍人のジョンソクは、3日以内にソウルに乗り捨てられたトラックから2000万ドルの大金を回収する仕事を受ける。ジョンソクは義兄のチョルミンらとともに裏ルートで封鎖された朝鮮半島に上陸するが、大量の感染者と無人となった国で傍若無人に振る舞う民兵集団631部隊に襲撃される。散り散りとなり危機に瀕するジョンソクだったが、荒れ果てた土地を生き抜いてきたミンジョン家族により間一髪のところを助けられる。ジョンソクの任務を知ったミンジョンは、終末後の世界しか知らない2人の娘を半島から脱出させたいという思いからジョンソクと手を組むことを決意し、かくしてジョンソクたちは任務を遂行しつつ半島からの脱出を図る。

 この映画は、アフターパンデミックの世界で、女子どもがどう生き残るかを、圧倒的な喪失体験の後、男はどう闘うべきかを描いている。
 そして、闘う相手は、芸術的に進化したと言ってもいいゾンビと、ゾンビより話が通じなくなった人間たちである。

 映画館で見たカン・ドンウォンは、冒頭から、スクリーンを支配し、観るものを釘付けにする。
 深い悲しみや葛藤の繊細な表情から、大胆なアクションまでの演技は、ポスト・アポカリプスの世界にドンピシャでハマっている。
 彼の大ファンであるわたしは、「いやあ、上手くなったな、よくぞ、ここまで」と感慨しきりであった。

 もちろん、主演俳優を生かすも殺すも、映画監督の腕次第だから、ヨン・サンホ監督が素晴らしいのである。
 前作「新感染ファイナル・エクスプレス」は世界中で大ヒット、数々の映画賞をさらった。しかし、この種の映画は、目新しさも味方につけているので、同じゾンビ物で、続編と言ったら、トーンダウンするのではと思いきや、予想を裏切るクオリティで、前作以上に面白かった。

 ブロックバスター映画はこうでなくちゃといわんばかりの、大がかりな舞台装置のなか、ゾンビ俳優の動きは芸術味まで帯びてきて、まるで、終末期を描いた動く絵画を見ているようだ。
 どこからどこまでが、VFXなのかもわからないようなダイナミックな映像も素晴らしい。
 ヨン・サンホ監督が、影響を受けた映画として「AKIRA」を挙げていたけれど、まさにアニメの実写版を撮らせたら、この監督の右に出る人はいないんじゃないだろうか。
 特に、ハイライトともいえる後半のカーチェイスのシーンは必見である。

 そして、ストーリーは、複雑すぎないが、いい意味で先が読めない。
 特に、前作を観たものとしては、最後まで誰がどうなるのかハラハラさせられてしまった。けれども、ヒューマニズムと新しい希望がみえるストーリーであった。映画はこうでなくっちゃね。

 主演カン・ドンウォンはもとより、脇を固める出演者の熱演も光る。
 特に、イ・ジョンヒョンは「美しき日々」から、クォン・へヒョは、「冬のソナタ」から知ってるせいか、(どんだけ韓国ドラマ視聴歴長いんかい)なんか外国映画とは思えないのだった。
 
 結論として、この映画は、私流の韓国映画のワクにも韓流映画のワクにもどちらにもあてはまらない。かといって、いいとこどりのトワイライトゾーン映画でもない。そんな枠ではもはやくくれない映画である。

 映画として、国際的な評価を得るのにふさわしい作品だと思う。

 しかし、あくまで、わたしの予想であるが、しばらくは、韓国映画界では、この興行成績だけが評価され、作品として大きな賞を取ることはないだろう。せいぜい人気賞か撮影賞どまりなのではないだろうか。

 うーん、専門家が選ぶ映画賞なのに、私のようなものに、こんな予測立てられるってどうなのかしら。ね。


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