「世界精神型の悪役」とは何か?【統計編】/伊藤計劃研究
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作家・伊藤計劃が広めたフレーズに、「世界精神型の悪役」と言うものがある。
説明そのものは易しく、およそ誤解する事はない。だが、「と呼ぶ」とは何なのだろう。いったい他の誰が、そう呼んでいたのか。
哲学者、ヘーゲル由来の言葉ではある。「世界精神(ヴェルト・ガイスト)」と 当初はしっかり振られていたルビ からも、大元を把握していたと思しい。
しかしその使い方は独自のものだ、正確な由来は判然としない。
判然としないが、ともあれどう考えていたか、手がかりは残っている。
「世界精神型の悪役」とは、具体的にどのようなキャラクターを指すのか?
キャラクター、および日記で挙げられていた回数を集計してみよう。
※日記で「世界精神型の悪役」に触れたのは実質3回と、意外に少ない。3回なら必ず挙げていた事になる。
やはりと言うべきか、上位には偏愛する映画が並んでいる。黒沢清、押井守、デヴィッド・フィンチャー。作家の映画エッセイを読んでいれば納得のいくラインナップだ。
不可解な事件と、そこに見え隠れする黒幕。『虐殺器官』と『ハーモニー』で採用された構図は、同時に『CURE』、劇場版『パトレイバー』、『セブン』の構図でもある。
一方で、作者お気に入りとしても有名なジョーカーへの言及は1回にとどまっている。これはクリストファー・ノーラン『ダークナイト』の公開時期が大きい。映画を初めてレビューしたのは2008年7月23日、亡くなる半年ほど前のことだった。 (「定義編」に続く)
追記:日記では「イデオロギー」こそ11回使われているものの、「イデオローグ」が使われた痕跡はなかった。「世界精神型の悪役」との言い回しは、存外お気に入りのフレーズだったのかも知れない。
追記2: 作家に悪役マニアの側面があったのは確かなようだ。2013年の日本SF大賞授賞式の二次会について、証言が残っている。
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