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「世界精神型の悪役」とは何か?【統計編】/伊藤計劃研究

「だいたい、作者の言いたいこと言ってくれるのは悪役だって相場は決まってるので」

「作家:伊藤計劃 最新作『ハーモニー』を語る」 ※『蘇る伊藤計劃』p37

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 作家・伊藤計劃が広めたフレーズに、「世界精神型の悪役」と言うものがある。

 ある物事を主人公たちに見せつけることそのものを目的とし、その見せ付ける過程が映画になってゆく、そんな悪役を「世界精神型」と呼ぶ。 

2007-07-02 「ゾディアック」

 説明そのものは易しく、およそ誤解する事はない。だが、「と呼ぶ」とは何なのだろう。いったい他の誰が、そう呼んでいたのか。
 哲学者、ヘーゲル由来の言葉ではある。「世界精神(ヴェルト・ガイスト)」と 当初はしっかり振られていたルビ からも、大元を把握していたと思しい。
 しかしその使い方は独自のものだ、正確な由来は判然としない。

 判然としないが、ともあれどう考えていたか、手がかりは残っている。
「世界精神型の悪役」とは、具体的にどのようなキャラクターを指すのか?
 キャラクター、および日記で挙げられていた回数を集計してみよう。

1回  ニコライ・イリイチ (矢吹駆シリーズ、笠井潔)
    リヒャルト・トラクル (『スプライト・シュピーゲル』、
                            冲方丁)
    浅倉良橘大佐 (『終戦のローレライ』、福井晴敏)
    エイリアン (『エイリアン3』、デヴィッド・フィンチャー)
    タイラー・ダーデン (『ファイト・クラブ』、
                   デヴィッド・フィンチャー)
    ジョーカー (バットマン・シリーズ、
           『ダークナイト』『アーカム・アサイラム』など)

2回  間宮邦彦 (『CURE』、黒沢清)

3回  帆場暎一 (『機動警察パトレイバー the Movie』、押井守)
    柘植行人 (『機動警察パトレイバー 2 the Movie』、押井守)
    ジョン・ドゥ (『セブン』、デヴィッド・フィンチャー) 

※日記で「世界精神型の悪役」に触れたのは実質3回と、意外に少ない。3回なら必ず挙げていた事になる。

 やはりと言うべきか、上位には偏愛する映画が並んでいる。黒沢清、押井守、デヴィッド・フィンチャー。作家の映画エッセイを読んでいれば納得のいくラインナップだ。
 不可解な事件と、そこに見え隠れする黒幕。『虐殺器官』と『ハーモニー』で採用された構図は、同時に『CURE』、劇場版『パトレイバー』、『セブン』の構図でもある。

 一方で、作者お気に入りとしても有名なジョーカーへの言及は1回にとどまっている。これはクリストファー・ノーラン『ダークナイト』の公開時期が大きい。映画を初めてレビューしたのは2008年7月23日、亡くなる半年ほど前のことだった。   (「定義編」に続く

追記:日記では「イデオロギー」こそ11回使われているものの、「イデオローグ」が使われた痕跡はなかった。「世界精神型の悪役」との言い回しは、存外お気に入りのフレーズだったのかも知れない。

「イデオローグが大好きなんですよね。今回の御冷ミァハっていうキャラクターも、まあそういう、ある種の、社会に対する反抗するイデオロギーを唱えるって人で、そういうキャラクターをどうしても出したがるので、まあこうなりました」   

「作家:伊藤計劃 最新作『ハーモニー』を語る」 ※『蘇る伊藤計劃』p37


追記2: 作家に悪役マニアの側面があったのは確かなようだ。2013年の日本SF大賞授賞式の二次会について、証言が残っている。

冲方「おめでとうございます~」円城さん「あの、『シュピーゲル』はいつ終わるんですか?」冲方「へっ!?」円城さん「伊藤(計劃さん)も、彼は悪役マニアなのでトラクルおじさんの末路を気にしてました」…これまでで最も重い言葉でした。必ず終わらせます。  冲

https://twitter.com/ubukata_summit/status/307867544906235905

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