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距離を保ちつつ、つながりを強める未来へ

スタートアップ起業家のひとりとして、目の前の医療的問題に貢献できないことにもどかしさを感じつつ、「これからの世界がどう変化し、何が必要になるのか」を日々考えている。SORAのメンバーともこのテーマについて議論し、自分たちなりの解釈や将来の見方を持ち始めたところだ。

これからの世界はどのような方向に進むのか 

先日話題となった安宅さんのブログで、これからの世界で必要となる変化の全体観が示された。大いにインスピレーションを得た人は私だけじゃないはずだ。

そのブログでは、解決すべき課題として5つのレイヤーが示された。

非常にざっくりと言えばこの課題解決は5つの領域(レイヤー)に分けられる。
1)COVID対応、、いかにダメージを少なくし、制圧し(安定的な平衝状態を実現し)、医療システムのキャパオーバー、最悪のケースの崩壊*1を防ぐか。
2)社会の基本コアシステムをどう回すか、、ヘルスケア、ビジネス、教育、行政システム、飲食をどのようにこの状態で回すのか
3)社会のOS的なインフラ機能をどう止めずに回すか、、通信、物流、電気、ガス、石油、上下水道、ごみ処理など(農業・漁業もほぼココ)
4)お金、、経済的に企業や家庭がどのようにしのぎ、立ち直っていくか
5)ルール作り、、これらの不連続かつ急速な変化に対してどのようにフレキシブルかつ大胆に対応し、方向性を修正していくか

また、密閉から開放へ、高密度から疎へ、という「開疎化」のコンセプトも示されている。

私たちは、短期的な局面を乗り越えたあとでも、常に感染リスクのことを頭の片隅に入れながら暮らすようになるだろう。

都市や建物の設計思想は変わり、私たちもよりオープンエアーで、他人との適切な距離をとった生活へ少なからずシフトしていく。そのなかで生活必需品や公共サービスへのアクセスを保つために、最適な配送や効率化が進む。オンライン医療やフードデリバリー、ECがより豊かに発展していくのもおそらく間違いない。

いま多くの企業が取り組んでいるリモートワークもずっと日常的になり、便利なソリューションも増えていくはずだ。

こうした最適化や効率化は間違いなく必要であるし、自分も促進したい。
ただ、ここにあと2つ、重要な課題を加えておきたい。

新しく生じる、幸せと進歩の課題

オープンや分化に進む、新しい世界で重要になると考える課題はこの2つだ。

●人の幸せ、、距離を取る生活の中でやっぱりつながりを求める人の心、心理や情緒面の問題をどう抑えていくか
●進歩、、効率化が進み自分のほしいモノや情報が最短で届く一方で、進歩を生む偶然の発見、異文化の交わり、セレンディピティをどう再設計するか 

●人の幸せ 

すでにストレスを感じ始めている人もいるだろう、リモートワーク生活、不要不急な外出を自粛する生活。これ自体が非常に大切なことは頭で理解しつつも、やっぱり人は人とつながりたい。仮に仕事自体はリモートにシフトできても、同僚との連帯感や雑談、友人との食事など、心理的なつながりを絶たれたままでは相当にストレスが溜まっていくはずだ。
命や健康が最優先であることは言うまでもないが、つながりを求める人の心も満たしていく必要がある。人生の幸せに大いに影響するテーマであるし、メンタル面の健康や、場合によっては命に関わる課題にもなる。 

●進歩 

フランス・ヨハンソンが『アイディアは交差点から生まれる』という本で示し、マット・リドレーが「アイディアのセックス」という言葉で表すように、新しいひらめきやイノベーションは、異文化や異能の交わりによって生まれてきた。もし国と国の関係がより分断に進み、国際的な人の往来が(仕事でも観光でも移民でも)減ってしまうと、こうした交わりの機会も減少する。 

また、Amazonと本屋の違いでもわかるように、ECやアプリ注文は基本的には指名買いの世界である。自分がほしいモノを検索し、すぐに届くようになることばかりに最適化をしていくと、偶然の発見、セレンディピティが減っていく。これはフィルターバブルと言われる情報の取捨選択や、新しい人との出会いにも言える。
どのように、本屋をふらふらと見て回るような、異業種交流会やシェアオフィスで話すような、偶然の出会いによる進歩を促していけるだろうか。

物理的には距離を取りながら、仮想的にはつながりを強めていく社会へ

これらの解決のために想像しているのが、「物理的には距離を取りながら、仮想的にはつながりを強めていく社会」というコンセプトだ。
これをひとまず、PSVU (Physically Separated, Virtually United) というキーワードにし、様々な業界や暮らしのシーンがどのように変化し得るのかを考え始めている。

例えば、「ちょっと会って話そうよ」が気軽にできる、カフェのような仮想的な場があると良い。
もちろんそれは、TwitterやFacebook、Zoomを使ってもできるのだが、既存のプラットフォームはそうした意図で設計されてはいない。どちらかといえばアバターのチャット空間、僕らには馴染みのあるアメーバピグやどうぶつの森の世界観が近いかもしれない。

同じ時間、空間を共有して親密な話ができることや、偶然通りかかった知人を紹介するような、リアルの場が果たしていた役目をバーチャルにもたらすことが肝要だ。

居心地の良い場、というのは人によって異なる。渋谷と丸の内が違った人を惹き付けるように、仮想的な場にも「らしさ」や背景となる文化が加わると、一体感やつながりがより豊かになる。Slackの絵文字が企業の個性を表すように、バーチャルオフィスにも自分たちらしさやカルチャーが表されていくだろう。

微妙なところだが、これが、「カレンダーに会議予定を入れ、その時間だけZoomで話して切断する」という現在の体験と、私がイメージするPSVUとの違いだ。

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せっかく築くなら物理世界の制約を取っ払ったものにしよう

イチからバーチャルを設計していけるならば、元々と同じ人とつながるだけではもったいない。せっかくならば新しい可能性に目を向けよう。

例えば、ビジネスであれば、世界中の人と協働できる可能性が一気に開かれる。地理的な制約から離れて、いま以上にグローバルチームが作りやすくなるだろう。誰かのアイディアに世界中の知性がつながっていく体験は、例えばQuoraやGitHubでも起きているが、その可能性と面白さにより多くの人が気付くことになる。

学校であれば、元々のクラスメイトとだけバーチャル授業を受けていてはもったいない。世界中の大学から好きなコースを選べ、友達・人間関係も多層的に築けるようになる。幼い頃から多様性を知り、視野の広がる子どもたちが増えていくだろう。

企業・学校が変われば、住む場所の制約もずっと低くなる。どこに住むかは、それぞれの価値観やライフスタイル、丁度いいと感じる人との距離感などで選びやすくなっていく。リアルでも充実して、バーチャルでも充実して、という暮らしの実現に近付いていく。

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正直言って、事が収まるのがいつになるのか、また元の暮らしに戻れる日がいつになるのかは今のところほとんど誰にもわからない。もしかしたら想像よりずっと長期化するかもしれないし、もし収まってもそれは「元の暮らし」とは少なからず違った姿になるだろう。

こんな風に未来のことに思いを馳せられるのも医療従事者や官民で懸命に努力している皆さんのおかげだ。そんな皆さんに深く感謝し、命と健康を最優先に意識しつつも、今まで以上に良いつながりを仮想的に作り、明るい未来を構想していくことに目を向けていきたい。

起業家にできることは、未来予測ではない。創りたい未来をビジョンとして提案することと、それを黙々と実現することだけだと思う。このブログも、未来予測ではなく、ひとつの提案として読んでみてほしい。

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