蹴りたい背中 感想
今回は久しぶりに読み返した「蹴りたい背中」についての
感想を書いてみようかと思います。
この作品のいいところは多感な高校生の感情が著者の綿矢りさ節を
ふんだんに効かせながらテンポ良く表現されているところだと思う
んですよね。
それは1ページ目、最初の文章からも滲み出てますね。
「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、
胸を締め付けるから、せめて周りには聞こえないように、
私はプリントを指でちぎる。」
さびしさの表現おしゃれすぎる。
そんなオシャ表現を使いつつ主人公である長谷川ハツとにな川の
物語が描かれています。
この二人はどちらもスクールカースト最下位、つまりは友達がほぼいません。
にな川に至っては友達はいません。
ハツは中学の頃の経験から周囲の人間のレベルに合わせて無理に群れることに嫌気が刺し、仲が良かった絹代と意外関わろうとしていませんでした。
しかし理科の実験のグループ分けであぶれ組としてにな川の存在を認知し、
自分よりも遥かに優れたぼっちであることに気づき、敗北感を味わうと同時に興味を抱きます。にな川が読んでいる女性雑誌に載っているモデルに見覚えがあり、実際に会って話したことがある旨を話すと、にな川が異常なまでに食い付きます。実はにな川はそのモデル、オリちゃんの狂気的なまでのファンで、実際にあったことがあるハツを尊敬します。
ハツは人と群れるのを辞めますが、実際の心情としては人に認められたい。
共感されたい。という気持ちが強くあります。
そのためにな川の存在は満更でもないという気持ちです。
自分と同じで群れず、同じ感性を持っていそうで、さらに認めてくれそう。
しかし実際は、にな川の中にあるのはオリちゃんのみ。
オリちゃんと話したことがある人、という属性にしか興味がなく、
ハツ自体にはさほど関心がありません。
その後なんやかんやでにな川の部屋に行き、秘蔵のオリちゃんコレクションを見ます。その中にあるおぞましいブツを見た時、にな川の一番の秘密、根源的な秘密を掌握した。そんな優越感?を感じ、性的な興奮と錯覚するほどの昂りを感じます。
そんな中呑気にまんまると背を向け、みっともなく、弱々しく存在するにな川。
上から立って眺めていると、より支配したいという欲が湧き出てきます。
我慢できず、にな川の背中を思いっきり蹴ってしまう。
一瞬それでにな川はハツに視線を向けますがすぐオリちゃんに関心が
戻ります。
しかしハツは蹴った快感が上回り、気にしません。
その出来事以降ハツはにな川をいじめたい衝動に何度も駆られます。
特にオリちゃん関連で悲しんでいたりするともっと悲しめ!と心の中で
叫びます。
ただ共感が欲しかっただけの最初の状態からどんどん屈折していく様は、
あー若いとき似たような感じだったわぁという感慨深さを味わえます。
一番仲がいいと思ってた友達にとっての自分は特別でないただの友達だった。的なね!
羨ましいし嫉妬する。自分をもっと見てほしいし独占したい。
わかるわかる。
個人的に一番好きポイントはオリちゃんライブのにな川の感想です。
「オリちゃんに近づいて行った時、おれ、あの人を今までで一番遠くに感じた。彼女のかけらを拾い集めて、ケースの中にためこんでたときよりもずっと。」
きっとハツもにな川に出会って、一番近くに分かち合えるはずの人がいるのに振り向いてももらえない、構ってもらえないもどかしさ。
そんなものを感じながらその言葉を聞いていたのかな?
結局作中のキャラは何も解決しないし、幸せにもなりません。
そんな感じで作品が終わるので続きを勝手に想像してしまいます。
そこにもこの作品のパワーを感じますね。
いい創作物に出会うと、受け手も自然と創作したくなる!
私の生み出すものにもいつかそんなパワーが宿ってくれることを信じたいw
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