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【 第57回 】受け取り方は人それぞれ

◆思いやりがエスカレートし過ぎるとつらい

前回のコラムで「つながること」に追い詰められている子どもたちのことを書きました。
そんな「つながり不安」の子どもたちの姿から感じていることに、相手の状況を想像することが難しいのではないだろうか、ということがあります。

SNSやネットを通じてのコミュニケーションでは、こちらから発信したことを、相手は都合の良い時に確認し返信することができます。ですから、相手の都合を邪魔しない、相手の都合に合わせた思いやりのあるコミュニケーションだと思われていました。

しかし実際は、もう一つの利点である「即時性」に注目が集まり過ぎて、すぐに返信することが相手への思いやり、という風潮になりました。このことも子どもたちにとっては大きな負担になっています。

誰にでも、「自分はすぐに返信がもらえるとうれしい」という気持ちがあります。きっと相手もそうだろう、と思うのですね。まだ想像力が十分に働かない子どもたちは、自分と相手を同化して考えてしまうことがあります。
最初は相手を思いやる気持ちから即返信をするのですが、こちらにも都合があります。でも相手への思いやりを優先して、即返信を続けてしまいます。相手の期待に応えたいという気持ちで即返信していたものが、だんだん、いつでもすぐに返信しなくては嫌われる…という思いに変化してしまい、スマホが手放せなくなってしまいます。

相手を思いやる気持ちは、みんなが持っているのだと思います。それが良い方向に向かっているときは、スムーズなコミュニケーションが取れているのでしょう。しかし、そこにほんの少しのズレが生まれただけで、それが徐々に広がり、いつか大きな亀裂になってしまうのだろうと思うのです。

◆自分がされたら嫌なことは、本当に他人にとっても嫌なことなのか

私は、自分がされたら嫌なことは他人にしないように、と言われて育ちました。そして我が子たちにも同じように言ってきました。
これはいじめ防止の話の中で、今でもよく聞くことですね。

たしかに、自分がされたら嫌だなと思うことは他人にしない、という人がほとんどでしょう。
でもふと、自分がされたら嫌なことと、相手がされたら嫌なことは、必ずしも同じではないのではないか、と思うことがあります。

相手は自分とは違う人間である以上、全く同じ考えであるかどうかはわかりませんし、相手の気持ちは簡単にはわかりません。
けれどコミュニケーションを取るのなら、相手の気持ちを考えるのは必要なことですね。
わからない相手の気持ちを考えるのに必要なのは、想像する力なのだと思います。相手がどう思うだろうか、どう受け止めるだろうか、と想像する力が相手の気持ちを考える助けになると思います。

「こんなことを言ったらどう思うだろうか」「嫌な思いをしないだろうか」と相手の気持ちを想像しますが、果たしてそれが正解なのかどうかはわかりません。それはそうです。あくまでも想像なのですから。でも相手を思いやろうという気持ちはどんどん強くなりすぎて、大人も子どもも過剰に気を回し過ぎているのではないだろうかと感じることがあります。
良かれとの思いでやっていることで、かえって自分を追い詰めてしまうのは残念なことですね。

◆「察すること」にとらわれ過ぎない

「空気を読む」という言葉に象徴されるように、私たち日本人は「察すること」を大切にする文化を持っています。
でもコミュニケーションは、どちらかからの一方通行では成り立ちません。
「空気を読む」「察すること」にとらわれ過ぎて、相手を思いやるために想像することに頼りっぱなしになるのではなく、時々相手に確認してみてはいかがでしょうか。
「私はこう思うのだけど、あなたはどう思う?」
こんなふうに問いかけることで、相手の気持ちや、自分と相手との違いを確認することができると思うのです。
確認し合うことを続けていけば、お互いへの理解が深まります。そうすれば、自然と「察すること」もできるようになってくるのではないでしょうか。
お互いに、相手を思いやっているつもりなのに、実は、それは自分の価値観を押し付けていただけだったのかもしれません。
そう考えると、「こんなにあなたのことを考えているのに、なんでわかってくれないの?」とこれまで人に対して感じていたイライラは、自分だけでなく相手も感じていたのかもしれませんよね。
イラッとしそうになったとき、相手は自分とは違う受け取り方をしているのかも…と立ち止まって考えられるようになるといいですね。

(2017年12月25日)

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2013年4月~2018年3月まで、5年にわたり寄稿・掲載された教育コラムの原稿集です。

保護者の視点で考えていた教育のこと、また先生方へのエールなど、自由に書かせていただきました。


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