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湊かなえさんの「カケラ」を読んで悶絶した話


休職してからだいぶ久しぶりに本屋に行きました。
そこで、昔から大好きな湊かなえさんの著作の著書が目に入り早速読んで、とても面白く
感想を書きたい気持ちになったのでツラツラ書こうと思います
会社入ってから、本とは疎遠になっていました。

しかし、本当に昔から港かなえさんの作品は、登場人物に共感を覚えるリアリティが段違いだなぁって感動させられます
作家さんてすごい!

以下ネタバレ含むので、未読の方は注意

「太っていても自信を持って輝く女の子」という理想の死

ドーナツに囲まれて死ぬ

実はこれは読者として私個人が昔本気でやりたいと思っていたことでした。
とは言っても、私は有羽ちゃんとは全く違うというか
摂食障害で栄養が足りず、ひたすら甘いもの、特にドーナツが食べたいとそれこそ必死に思っていた時期があったからです。

今寛解しているのかは、怪しいラインですが
少なくとも昔よりはその困った脳の癖とお付き合いしています。

なので、この小説は冒頭から心を掴まれると同時にやっぱりかって悲しくもなりました。

「田舎町に住む女の子が、大量のドーナツに囲まれて自殺したらしい。モデルみたいな美少女だとか。いや、わたしは学校一のデブだったと聞いたけど。」

これが最初のフレーズそのまま引用なのですが、私の感じる生きづらさはまさにここにあると思ったのです。

人の生き死にの話する時にまで、その人の見た目の話をする。
小説だからとか関係なく、世の中本当にこう見える瞬間が多くて、その悲しさが3行にすっぽりおさまってるような、そんな1ページでした

最近ダイバーシティだのなんだの言われますが、身近な会話としては容姿の話ばかりという違和感
自分含め、加工した写真しか撮れないしネットにあげない
年齢は関係ないといいつつ、ババアと言われるのが怖い

そんな私は、作中の有羽ちゃんにすごく惹かれたと同時に

「この子はフィクションだ」

とも思ってしまいました。他の登場人物はみんな身の回りに見覚えがある要素を備えたリアルな人格があるのに、有羽ちゃんだけがアニメキャラみたいに綺麗に見えるんですよね。

だから、ミステリーとしてというよりも、シンプルに私が感じたこととしては有羽ちゃんの自殺はある種メタファーだったというか

「太ってても明るくて自己肯定感高くて周りからも人気がある、そんな人がいてもいいという綺麗事が発生して、自分からそんなものはいないと言って自殺して消えていった」

ように感じました。

私は現在20代後半で、昔のことはわからないので、今はこう変わった、とは言えないのですが

少なくとも私が小さい頃に電車の広告に二重整形の文字はなかったし、身の回りにこんなに整形はありふれてはいなかった

整形が悪とかはやっぱり全く思わないけど、デブは自己管理して痩せろと同レベルでブスは整形しろっていう論調が、みんな口では言わないけど態度で現れてるんだよな、気持ち悪い
こんな気持ち悪い世界なんざ、好きなもの人目も気にせず食べながらおさらばしてやるぜ!
というある種理想の概念としての有羽ちゃんに見せつけられたなぁぁ
っていう読後の爽快感

この気持ち悪さを、生き辛さを物語にしてくれた港かなえさんに感謝を送りたいです。

やっぱ人間、どこかで誰かと共感し合いたい
私はこの作品で、何はなくともその気持ち悪さを誰かにわかってもらえたような、そんな暖かさを感じました。

残りは蛇足ですが、個人的にミステリー的な側面で考えて分からなかった点についてです。
読解力のある方、伏線拾えてたらこの真相について、説を共有していただけてら嬉しいです!

決定的に分からなかった二つの真相

有羽さんの自殺の理由

物語の核となる、有羽さんの自殺の理由について
私ははっきり言ってこれだというものはなかったと感じました
だからこそリアル、というか、自殺の理由ってハッキリしたものではないことの方が多いと思う私からするとこれがかなりリアルに感じられたんですよね

そもそも自殺なのかどうかすら割と怪しいというか

それぞれの登場人物は主観で語るので、真実を切り出すのが難しいですが、おそらく現実世界で起きたこととしては

有羽さんの実の母親が、有羽さんの幼い時に死亡

その後有羽さんの実父と横綱さんが再婚

実父の赴任と友に有羽さん横綱さんが2人暮らしを開始

実父が帰国後有羽さんと横綱さん別居

有羽さんが東京で脂肪吸引を行う

有羽さんが地元に戻り、睡眠薬を飲んで死亡

でしかないと思っていて、ここで自殺じゃない可能性と書いたのは他殺というより事故死の可能性、もしくは誰も語らなかった、書いていない出来事に関する自殺の可能性をかなり感じてしまったからです。
常時睡眠薬を飲んでいたが、何かの理由で服用しすぎた、別の疾患と絡んだ、それとは全く関係なく脂肪吸引の後遺症で感染症になった(脂肪吸引は死亡率の高い施術なので、時系列がはっきりしませんが、これはなくはないかなと)

というのも、物語に出てくる有羽さんの印象として、自白も含めて自殺するキャラにあまりにも見えないから(そういう人こそ自殺する線も全然ありますが)なのです。

有り体に推測すれば、小さい頃から不安定な家庭環境の中、心の繋がりのある実母に先立たれた上に、実母の継承者であり有羽さんが心から慕っていた横綱さんに、帰宅後娘と認めてもらえなかった、ということをきっかけにアイデンティティクライシスが起きてしまった。
とかが文章だけから推測できることなのかな?
と思うのですが、作品の中の有羽さんは、きっとそんな時でも母親の不安定さに寄り添い解決に向けて動ける子なんじゃ?
という気持ちの方が強いためなんだかしっくり来ませんでした。

でも、人の死について、赤の他人がしっくりくる理由を見つけたがることこそ、とても浅はかなのかもな、とも同時に思いました。

作中に良く出てきますが、マスコミや第三者は本当に色々なところで原因と結果だけを安易に結びつけるエサばかりみつけ、

「これが本当の理由!真相です!」

と言いますが、だいたいそんなことはないですし、なんなら本人もわからないけど、なんでこうなったのかわからないけどこうなってたことだって世の中たくさんあるんだと思います。

かくいう私も、適応障害で休職する旨上司に伝える時、自分ですら適応障害の診断もらった理由を説明しながら

「事実なんだけど、話してると違う気もする、なんだろう」

そう思っていました。

なので、小説という所謂リアルでない「商品」として出されたコンテンツで
「いやいや、そんな普通簡単に死の真相とか、説明できる方がちゃんちゃらおかしいでしょ」
と投げかけられて自省したというか、むしろ清々しい気持ちになり、読後感としては意味がわからないスッキリさを感じることとなかったわけです。

サノちゃんがなぜここまで有羽さんの死の真相を追うのか

有羽さんの自殺については分からなくて逆にスッキリというか、分からないのも分かる
感じだったのですが、個人的に最強のモヤモヤ、理解できなかったポイントは

なんでサノちゃんはここまでして有羽さんの自殺の件を追うのか

というところでした。
だって、有羽さんはあくまで患者ですし、その母親の横網さんについても、サノちゃんとはお世辞にも仲が良かったとは言えない。
サノちゃんサイドからわざわざ東京から出張ってまで周辺調査する理由みたいなものが本当に理解できなかったです。
(こうなんじゃない?ってのあればコメント欲しいです)

すごーく極端な推測としてですが、
サノちゃん自身が美人の恩恵を受けまくってそれが失われるのが恐ろしく感じてる
そんな時、患者として出会った有羽ちゃんの本気で見た目に囚われていない様にある種憧れを持っていて、有羽ちゃんをおっかけたくなった
のかなぁ?だいぶ無理矢理ですが。
有羽ちゃんは純度100%別の目的を達成するための手段として脂肪吸引を依頼しにくるわけですが、心から痩せることに無関心な女性って現代社会では絶滅危惧種並にいないので、本当に有羽ちゃんみたいな子が身近にいたら、自分も惚れてしまうんだろうなぁとは思いました。

少なくとも、医者の立場から自分のせいで自殺したのかと心配したとか、横綱さんについて罪悪感があるとか、そういうのはあまり想定されないのかな、と文中のサノちゃんは感じさせる離人感というか、どこか当事者じゃない雰囲気のあるキャラクターのため、だからこそ積極的にインタビューしていく姿に謎の違和感を感じたのかもしれません。


この辺はわからないので、誰かわかった!人がいたらぜひ教えてください!

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