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「東京観光日誌」#4|清澄白河|東京都現代美術館

2021年8月27日(金)晴れ。ここ数週間、職場の仕事が忙しくてなかなか自分の時間が作れないでいた。加えてオリンピックや度重なる緊急事態宣言の延長で、この「東京観光日誌」の取材も子どもと一緒に出かけるのがはばかられるような状況となり、自粛しざるを得なかった。ということで・・随分間が空いてしまいました。

私の住む地域では8月25日から小学校がスタート。
夏休みは外出機会も少なくなってしまったが、それでも2回ばかりノノと取材に出かけられたのは良かった。良い思い出になるかな。もっと行きたいところがあったんだけどね・・また行こう。

・ 理想的な鑑賞環境を求めて

さて、時間を作って取材を始めよう。一人で出かけるなら行っておきたい所があった。そこは江東区の清澄白河にある「東京都現代美術館」である。
現在「GENKYO 横尾忠則[原郷から幻境へ、そして現況は?]」というタイトルの横尾展と「海、リビングルーム、頭蓋骨 MOT Annual 2021」という映像作家の三人展が開催中だった。

私が高校生の頃、父親が新聞社に勤めていたこともあって、展覧会の招待券をよくもらい一人で都内へ行って有名作家の作品を観に行っていた。その後ボストンに移ってからは学校が美術館の隣だったので日常的に足を運んでいた。その頃、作品を鑑賞しながらよく感じていたこと・・日本いた頃と違ってボストンでは目の前の作品を含めその空間をたっぷり独占することができること。つまり周りに人がほとんどいなくて作品と対峙できることが嬉しかった。余計なことを考えないでいい。例えば、目の前にゴッホやフェルメールの作品が手の届くところにある。周りには誰もいない。作品と自分だけ。こういう贅沢な状況にあると作品に対して能動的な気持ちになれた。

現在、緊急事態宣言中である。
もしかしたら・・そんな理想的な鑑賞環境が今の時期だったら得られるのではないかと思った。なおかつ平日の開館時であればその可能性が高くなるのでは、と。
前述の通り、このところ仕事が忙しくてテレワークでも気軽に外出できない状態が続いていたが、やっとワクチン接種の1回目が来て、その日一日休みを取ることができた。チャンスだ。予約の時間は午後3時から3時半の間。美術館へ行く時間が十分にあったので、その日開館時間に合わせて早々と出かけることにした。

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初めて訪れる美術館(写真上)である。そもそも子どもができてからあまり美術館に立ち寄ってはいなかった。何回か子どもを連れて行ったこともあったが、作品を観るどころではなかった。
しかし、連日暑い日が続いている。都営大江戸線の「清澄白河」から歩いて10分程度のところに美術館はあった。途中歩いている人はあまりいない。到着して時計を見ると9:40。開館まで20分ぐらいある。すでに先客が3人ばかりいた。気合が入っているな・・。しかし、こんな早い時間に美術館に訪れるのは滅多にないことだ。しばらくするとすぐに入り口の扉が開いた。(写真下:入口付近)

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横尾忠則についてはあまり興味があるわけではなかった。しかし、せっかく来たので二つの展覧会を観ることにする。「横尾展」が一般2,000円(結構な金額だなぁ)。「映像作家の三人展(MOTマニュアル2021)」が一般1,300円。「2展セット券」だと2,900円だったのでこれに決めた。

・ 横尾忠則の作品にのけぞりました

横尾忠則展150dpi

まずは流れに導かれて「横尾展」から・・
横尾忠則の作品は美術雑誌等から時々観ていたので何気に知ってはいたが、やはりリアルな作品を観ていくうちにその表現されたエネルギーに徐々に圧倒されていった。作品の大きさ、色彩、描かれているテーマ、使用している素材、表現方法、そして出品されてる作品量。どれをとっても特出している。想像以上に見応えがあった(2千円以上の価値は十分にある)。とにかく、こんな作家だったんだ~とひたすら驚くばかり。のけぞりました。通して観ていくと作風が次から次へと変わっていく。その中でもこだわっているアイコンがあって度々それが登場することに気が付く。何か惹きつけられる繊細で毒々しい要素を感じた。
作品に集中できたのも、案の定、周りに人が少なかったおかげでもある。展示場では作品に合わせて室内の色まで気を遣っているところがあった。こういうことって人が多いと十分に感じることはできないだろう。
展覧会のタイトルにある「原郷」は作家の根っ子の部分、生い立ち、原風景・・と言ったところか。「幻境」は表現の行きつくところ。「現況」は文字通り今の時点。調べてみると85歳だったんだ横尾さん。確か・・展示の最後の方に「二刀流」という作品があって、大谷翔平を意識した作品が「回転」していた。そう、作品に描かれたシルエットが“投げる”と“打つ”とでクルクル回転していて愛嬌のある作品になっていた。まさに現在の情報で作られているホカホカの作品だ。
こういったフットワーク、横尾忠則とは・・ピカソ級の作家なのかもしれない。そう言えばアイコンの中にピカソもいたな・・意識しているのかも。
時間が経つにつれ人波が増えていったが、何とか吞み込まれずにペースよく鑑賞することができた。
美術展は・・特に人気のありそうな展覧会は平日の開館時間からがおススメと言える。当然ながら会場内は撮影禁止でした。

・ 映像作家の三人展で身体を冷やす

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横尾展が思ったより作品が多くて観る時間もかかってしまった。では、次の企画展に行こう。・・あれ?こっちはほとんど人が入っていない。まだ若い作家だから仕方ないか・・知られていないし・・私も知らなかったけど。

入り口に立つと波の音が聴こえてきた。入ってすぐに目の前に現れたのは、全裸の男が後ろ姿で海に向かって立っているモノクロ映像だった。すぐにその映像が巻き戻しで流れていることがわかる。徐々に全裸の男は服を着始めていた。つまり本当は脱いでいる映像なのだ。海に係る映像作品が、展示物のように置かれていて一つ一つゆっくり観ていく。この「海」の作家は潘逸舟(ハン・イシュ)というアーティストだった。全裸の男は本人のようだ。

続いて「リビングルーム」の小杉大介の作品は日常風景の中で何となくストーリーがありそうな様子が短編映像で流されていた。私には正直あまりピンとこなかったが、きっと長く見ていると何か受け取れるものがあるのかもしれない。この作家は現在ノルウェー人に帰化してオスロに住んでいるらしい。その辺りに作品を知る手が掛かりがあるのかな。

最後に「頭蓋骨」というマヤ・ワタナベの作品を天井の高くて広く暗い部屋で鑑賞した。大きなスクリーンに映し出された映像はモノクロで抽象的・・頭蓋骨を顕微鏡でなめまわすような動きで撮影されているようだが、途中それがどの部分なのか気にしつつも想像とは違う不思議な光景が移り進んでいく。どこか不安がまとわりつく。その後の砂漠のような風景の映像もそうだが何となくざわざわした。

最後の作品を観終わるころには冷房の空気ですっかり身体が冷えていた。どの映像もどことなく身体が冷える内容でもあった。
後で三人の経歴を見ると、潘さんは1987年中国・上海生まれで青森育ちで現在東京在住。小杉さんは1984年東京生まれでノルウェー人となりオスロ在住。マヤさんは1983年ペルー・リマ生まれで現在アムステルダム在住。と皆さんそれぞれグローバルな環境で生まれ育っていて、それが作品にもつながっているように思う。

この三人展の様子は「美術手帖」のサイトで少しかじることができます。

この後、ミュージアムショップを覗いてみた(写真下)。横尾さんのお茶目なグッズがいろいろ売っていた。

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さらに館内の奥に進むと、ガラス越しに白い彫刻を発見(写真下)。後で調べてみたらこの作品は「裂けた球体(Split Sphere)」マルタ・パンというフランスの女性彫刻家のものだった。素材は・・意外、ポリエステルでできているらしい。

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その左側にはコレクション展示室いわゆる常設展があって、どうやら無料で入れそうだ。中では一部を除いて撮影も許可されているらしい。いいじゃない・・早速中に入ってみる。

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目の前に現れたのは重厚な彫刻作品だった(写真上)。これはイタリアの彫刻家アルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」という作品。主に鉄とブロンズでできている。中世の天球儀がヒントとなって作られたと書いてあった。
2階へ上がって「マーク・マンダース 保管と展示」に入る。

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最初に置かれていたのは「マインド・スタディ」という作品(写真上)。マーク・マンダースは家具職人の父親のもとオランダに生まれ、現在はベルギーを拠点に活動している作家と書いてある。

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フローリングの上に粘土で作られたようなブロンズの彫刻がパラパラと風通し良く置かれていた(写真上)。結構迫力がある。手前にいるのは犬の死体のように見える(写真下)。(後で作品解説を見たらどうやら狐のようだった。)こういう作品は空間も含め全体で表現されているインスタレーションという表現である。(私もこういう作品を発表していた。)

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反対側から見るとこんなふうに見える(写真下)。

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発掘調査の現場にいるような雰囲気だ。上の作品は「4つの黄色い縦のコンポジション」とあった(写真上)。
次の展示室に行くと、おお! 宮島達男の作品が光っていた。大きな薄暗い部屋の中で数字がカチカチ・・と。先ほどの作品とは対照的にまるで生きているようだ。この作品は「Keep Changing, Connect with Everything, Continue Forever」というタイトルである(写真下)。訳すと「変化し続けろ、すべてにつながれ、永遠に続いていけ」という感じかな。

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コレクション展示室の作品は結構面白かった。
時計を見ると・・おっと、もう行かなくてはいけない時間だ。思った以上に時間をかかってしまった。久し振りだし鑑賞しやすい環境だったのでついつい没頭してしまった・・。
しかし、お腹が空いた・・もう午後1時を過ぎている。そう言えば、館内に食事できるところがあった(写真下)。ここで軽く済ませていこう。

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「100本のスプーン」はなかなかユニークなメニューが揃うレストランのようだ。サクッと済ませるなら「二階のサンドイッチ」の方かな。
入ると様々な種類のサンドイッチが展示物のように並べられていた(写真下)。さすが美術館。美味しそうだ。

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ゆっくり考える時間もなくすぐにフィッシュフライサンドイッチ(650円)をチョイス(写真上)。写真はかなりシンプルに見えるけど味はとても良い。店内は見晴らしも良く、鑑賞後気軽に立ち寄れる場所だと思った。

おっと、ゆっくりしていられない。とにかく急ごう。1回目のワクチン接種を逃したらどうなるのかな・・2回目も来月予約入れてあるし、面倒くさいことになる。もうこんな時間だ。間に合うかな・・ちょっとギリギリだ。

*その後、何とか間に合いました。理想的な鑑賞環境には“時間”も大切にしましょう。

東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
電話:03-5245-4111(代表)
[開館時間]10:00~18:00
      (展示室入場は閉館の30分前まで)
[休館日]HP掲載のカレンダー参照
公式ページ:https://www.mot-art-museum.jp/

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