見出し画像

夜に駆ける


自己紹介させていただきます。埼玉県私立慶應義塾志木高等学校出身、経済学部1年の松川雄大です。ポジションは後衛です。今回初めて部員日記の担当を務めさせて頂きます。拙い文章ではありますが、ご一読いただければ幸いです。



先日ようやく春学期の全授業が終了しましたが、相変わらずレポートやオンラインテスト等の予定が残っており、テニスコートか家のどちらかにいる生活が長らく続いています。そんなさなか、今流行っているから と弟にすすめられ、良いなと思った曲があります。
それは、



夜に駆ける



という曲です。


聴いたことがある方も、ない方もいらっしゃると思いますが、ぜひ一度ご視聴して頂きたいです。調べたところによると、TikTokを中心に流行が始まったこの曲は、あらゆる音楽チャートを席巻しており、特に今若者に多く聴かれ、大人気だそうです。


この曲は『タナトスの誘惑』という小説のストーリーをもとにして作詞作曲されました。この2分程度で完結するこの小説を読んでから歌を聴くと、その歌詞の意味が深く感じられます。


今回、
なぜこの曲が流行っているのか、曲がどのように構成されていて、どういう技法・アクセントを用いているのか
ということをふと思ったので、noteの投稿をきっかけに分析しようと思いました。

この曲を知っている方もそうではない方も、最後まで楽しんで頂けたら嬉しいです。




●最初に


この曲の構成ですが、

前奏→Aメロ→Bメロ→サビ(Cメロ)→間奏→Aメロ’→間奏’→Dメロ→Bメロ→落ちサビ(Cメロ)→大サビ(Cメロ)→後奏


という流れになっています。

結論から言うと、この曲はJ-popのあらゆる「流行ポイント」を抑えていて、より多くの人がすんなり聴ける曲だなと感じます。

ここからは、この曲に使われている技法の特徴別に、5つのコマに分けて紹介します。



①キャッチーなリズム

J-popはメロディーを大切にする傾向があると言います。この曲も初めから終わりまでずっとキャッチーなリズムで進行しています。


例えば、

【曲中を通しての4つ打ちのビート】

は、単純かつ祭りのビートと同じ要素があるので、昔から日本人に受け入られやすいメロディーの特徴の一つです。

またキャッチーなリズムを維持するアクセントについて切り取ってみると、
前奏後のAメロ、

(1番歌詞)日が沈み出した空と君の姿

の部分に、弱拍部から強拍部を繋ぐシンコペーションを導入していて、この曲の同じ部分はシンコペーションがずっと用いられている点や、

(1番歌詞)いつだってチックタックと〜

から始まる食い気味メロディーのBメロは、ほぼ4拍子に沿って進行してきたAメロとの区別がはっきりしていて、少しファンキーなリズムが現代のJ-popで受けが良いことの反映だと考えます。

また、シンコペーションはサビの語末部分で回帰します。



②音数の多さ

これはJ-pop(邦楽)と海外洋楽の上位チャート曲を聴き比べての結果からも言えますが、J-popは全体的に、歌詞や音を隙間隙間に詰める傾向にあります。もっとわかりやすく表現すると、

【同じ瞬間に鳴っている音数が多い】

ということです。


それがこの曲の最も顕著に現れているのが、

(2番歌詞)信じていたいけど信じれないけど〜

から始まるAメロ'の、「同音連続(連打)」という手法を持つ部分です。SMAPの『世界に一つだけの花』の冒頭部分を想像してもらえると分かりやすいと思います。

また、歌詞だけでなく音に注目すると、上に記したAメロ'終了後の間奏'部分に見られる、

【ピアノでの超絶技巧】

も同じことが言えます。
この曲で唯一、16分音符が長く連続して使われている箇所であり、とにかく音をたくさん詰めたいという作者の意図が、前のAメロ'と併せてよく伝わります。



③抑揚のつけ方

抑揚を一番目立たせなければならない場所はサビです。サビだけで戦える(語弊がありそうですが)曲が多いのも、J-popの特徴と言われています。


この曲ではサビを引き立たせるために、

【Bメロを0.5オクターブ下に設定する】
【サビの前で全ての楽器を無音にする】

というアクセントを用いています。特に後者の手法は「ブレイク」と呼ばれるやり方で、ヒット曲にもよく見られるパターンです。米津玄師はこの手法の使い手で、『Lemon』『馬と鹿』『アイネクライネ』でも用いられています。

また、サビの中での特徴としては、

(1番歌詞)思い付く限り眩しい〜

にみられるような、【隣合う音で上がり下がり】を行う、「順次進行」という手法が使われています。これは隣合う音どうしでメロディーを組むので自然な音の流れが生み出されます。

これに加え、サビ中もうひとつ見られる、

(1番歌詞)“わすれ”てしまいたくて

のような、【オクターブに音を上げる】というアクセントが見られます。この2つ目の手法は、1つ目に対し「跳躍進行」とよばれ、インパクトをつけたい時などに用いられますが、そのボーダーは1オクターブと言って良いと思います。

つまり、最大限の上げ幅を利用して、より激しい抑揚がつくよう考えられたサビだと感じます。かといってむやみに1オクターブの跳躍を使えばいいという訳ではないので、難しいラインだと思います。



④コード進行

ここまでの①~③の全てが重要な役割を持つ項でしたが、ここからの④⑤はそれ以上に、曲の方向性やイメージを決定する要素です。

コードとは、「2音以上の違う音の高さの重なり」のことで、そのコードの繋がりを【コード進行】とよびます。メロディーを支える伴奏の役割を持ちます。


この曲のコード進行に着目すると、

【王道進行】
【Just The Two of Us進行】

の2つのコード進行で、この曲ほぼ全てが形成されています。

1つ目の方はその名の通り、日本の音楽界で最も多用される王道のコード進行です。2つ目はあるアーティストが多用していることから、別名「椎名林檎進行」とも呼ばれます。

またこの曲のこだわりとして、

【大サビまで根音のトニックに収束しない】

という大きな特徴的が見られます。

トニックとは「安定感」を持っているコードのことで、フレーズの最後に使うと聴く人に「曲がきれいに締まった」と安定感を与えることができます。
この「終わった感じ」を出すトニックは、例えると“本トニック(根音に収束)”と“仮トニック”の2種類あるのですが、通常なら曲中にも使う本トニックを、この曲では最後の最後まで使いません。

唯一最後の大サビに、1番の安定感をもつトニックを持ってくることで、曲中で解決しなかったメロディーが一気に綺麗に締まるという手法をとっています。

この大きなこだわりが功を奏して、人気を呼んでいるのかなと思ったりします。



⑤2度の転調

コード進行と同じほど、曲のイメージに大きな役割を果たすのが【転調】です。ただしこの曲には普通の曲には見られない、特別な転調が見られます。


まず、今までE♭(変ホ長調)だったのが

(落ちサビ歌詞)騒がしい日々に〜

の部分から、D(ニ長調)に-1下転調します。

下転調というのは通常は曲の盛り上がりに欠けてしまうので、アップテンポの曲ではあまり見られませんが、この曲にはそれをやる理由があります。

それは『タナトスの誘惑』という小説を読んだ人は分かると思うのですが、今まで死にたかった彼女に“僕”が疲れきってしまい「終わりにしたい」と口にしたあと、彼女が「初めて笑った」、その直後に下転調します。この笑顔の意味が分かると少し恐ろしいです。

僕が知る中でも、ミスチルの数曲や欅坂46『世界には愛しかない』くらいしか下転調を使っている曲は思いつかず、中々珍しいこのアクセントを用いること自体が凄いと感じます。

そして落ちサビが終わったあと、

(大サビ歌詞)変わらない日々に〜

の部分から、F(ヘ長調)に+3上転調します。

+3の転調は、上に記した-1の転調とは逆に、使い勝手が良く印象的にも派手になりやすいため非常に使用頻度が高く、最強の転調とも言えます。
子供に大人気の曲『パプリカ』も、+3の転調をしている曲です。

通常ならキーを1つ上げて(+1)そのまま終わってしまいそうな転調ですが、2度も転調する、しかも最初に下げて最後に3つ上げるという手法はこの曲で最も特徴的です。



●おわりに

今回曲の分析を行い、分析しないと分からなかったことは多くありました。長い作業ではありましたが、こうして一つ一つの技法やアクセントに意味が込められていると考えると、とても感慨深いです。

ソフトテニスでも先輩方やOBさんから様々なことを教わるので、それをノートに写して分析する良い機会にしています。教えてくださる方がいる環境にいられることに感謝して、分析の機会を十分に活かし、今後の体育会での活動を頑張ろうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?