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なぜ学校で金融教育がしにくいのか、本当の理由と原因について

今回は「#お金について考える」ということで、長らく教師として現場に身を置いていた立場から、教育現場とお金の話について実体験・・・をひとつ皆さんと共有したいと思います。

こちらの記事は、全国の高等学校で公民・家庭科を担当する教員471人を対象にしたアンケート結果らしいので、地域や慣習、回答した先生の立場などに偏りがあるのかもしれませんが、それでも高等学校では4割程度が積極的に金融教育に取り組んでいるとまとめられています。

2022年度からは、高校で家庭科を学習する生徒たちに対して、否が応でも金融教育は行なっていきますが、そんな中10人に4人が「積極的に取り組む」と答えた回答結果を拝見して、実際に地方の高校で理科教師として現場にいた私には「意外と積極的にやっていくって人が多いな。」という印象があります。

というのも、私も退職の年度内に(単発ではありますが)金融教育の授業を特別におこなう機会がありました。

実際、授業で金融教育をやってみてわかったのですが、高校の現場で金融教育をこれからも積極的にやりたいか?と聞かれたら、私の答えはNO

すでに退職しているから物理的にできない、という理由ではありません。
教えられないという理由でもありません。
今の学校教育の環境下ではやりにくいだろう・・・・・・・・という考えです。

そこでこの記事では、(理科教諭で学年主任だった)私が実際に・・・金融教育をおこなった経験を経て、高校で金融教育をおこなうには難しいと感じる大きな問題点ついてまとめていこうと思います。

お金を稼ぐためのノウハウやハック的な情報はありませんが、

  • 担任や教科担当者としてこれから金融教育をやる先生たち

  • 教師になりたての人や若い先生たち

  • 現場で金融教育を取り組んでいる人たちの声が欲しい人たち(教育評論家や専門家など)

こんな方々に参考となるような情報が共有できれば良いな思い、執筆していきます。


学校で金融教育ができないと感じる理由…の前に

前提として、これから私が話す内容は私の経験に基づくものが多いです。
そのため、地域差や校種(小学校なのか高校なのかなど)の違いによっても大きく実情が異なることでしょう。

前回(日経×noteの企画)の記事でも記載していたので、そちらをお読みいただいた方には重複する内容ですが、私の状況を事前に知っておいていただいた方が良いと思うので、この記事でも簡単に経歴や当時の状況を記載しておきます。

不要な場合は読み飛ばしていただいて構いません。

  • 高校教師経験者(講師4年、教諭12年、合計16年。教科は物理・理科)

  • 現在は、映像制作をメインとするフリーランスのクリエイター

  • 担任、部活動主顧問、進路指導部副部長、学年主任の経験者

  • 地方在住

そんな私が学年主任をやっていた年度で学年主任主導のLHRとして、自作した教材を使って金融教育を実施した経験をもとにお話ししていきます。

学校や教師が、これ以上「責任」を負わされるのは酷である

早速、個人的に最も重要な結論です。
学校現場で金融教育がしにくい・できないと感じる理由は

これ以上、学校現場が責任を負えない。

これに尽きます。

後でも話しますが、金融教育は【手段を伝えることが重要な教育】の部類に入ると考えています。

いくら知識として「キャッシングは利息が高い」「クーリングオフってのがある」「100万円をどう増やす?」などと教えたところで、知識を活かせなければ『学んでも役に立たなかった』という事態になるでしょう。

お金(を集める、または稼ぐこと)は、目的ではなく手段のために存在しています。

手段を教えるからには

  1. 目的を(あらかじめ)生徒たちとすり合わせておく

  2. 教える側がその手段を使いこなしている

  3. 教える側がその手段を正しく理解している

こんな前提がないと、とてもじゃないですが教えられません。

例えば(私は理科教師なので)理科の実験を例に話してみます。

  1. 今日は何の実験なのか、教師も生徒も・・・明確になっている

  2. 教える側が実験器具や試薬などを使いこなしている

  3. 教える側が実験の手法や器具などの扱い方を正しく理解している

こんな前提がなければ実験の授業が成功しない、というのは理解してもらえるはずです。

反対に、

  1. 今日は何の実験なのか、どんな試薬を使うのかを伏せておく。または生徒たちが聞こうともしていない。

  2. 教える側が実験器具や試薬などを使ったことがない

  3. 教える側が実験の手法や器具などの扱い方を知らない

こんな状況で実験をやったとしたら、当然ですが危険を多く含み過ぎているため、責任問題に発展しかねません。

金融教育の場合、まさにこの状況だなと感じたため「これ以上、学校現場が責任を負えない。」という結論になります。

なぜ教師は金融教育を教えられるだけのスキルを持っていないのか

大人であればお金や経済のことを知っていても良さそうですが、ではなぜ、教師は金融教育が教えられない(既述の「前提条件」が欠如している)のか。

理由は明快です。

金をかけるな、手間をかけろ。

これが日本の教育だからです。決して教師が世間離れしているとか能力が低いからとかではありません。

国から教育委員会、教育委員会から管理職、管理職から平教員へと受け継がれる「金をかけるな、手間をかけろ」という考え方。

この考え方により、学校ではいかにお金をかけずに手間をかけられるか?に重点を置きます。

この状況で金融教育を行うというのは、言うなれば「両手を後ろに縛った状態で実験をしなさい」といっているようなもの。

もちろん適応できる人はいるのでしょうが、多くの時間がかかるとともに、ほとんどの人にとっては知識理解(頭を使った処理だけ)で終わるはずです。

「〇〇教育」が多過ぎて、結果だけが求められている

違う側面からもアプローチしてみます。

〇〇教育と名のつく教育は、すでに40〜50個近く存在していると言われています

  • 情報教育

  • ICT教育

  • ネットリテラシー教育

  • プログラミング教育

  • 性の多様性教育

といった比較的新しいものはもちろん、古くからある

  • 道徳教育

  • 外国語教育

  • ボランティア教育

  • 人権教育

  • 交通安全教育

などといったものもあります。

教える側も大変かもしれませんが、教えられた・・・・・側も、とてもじゃないですが50個近くも覚えていられません。
教える側も教えられる側も、すでにお腹パンパンです。
(大人になってお腹が空き始めてくると「学校でもっと教えてほしかった。」となってくるのでしょう。)

高校生になるまでのおよそ10年間で、のべ50個も100個も効率よく〇〇教育を詰め込まれてきた人たちにとって、もはや「〇〇教育」とはその場限りの条件反射・脊髄反射のようなイメージで向き合っているとさえ感じています。

場当たり的に向き合っているとでも言いましょうか。

ほとんどの人にとっては、魚の釣り方を知りたいと思っているわけではありません。野菜はスーパーに並ぶものだと思っているし、精肉はパックに入っているものと考えるのが多くの私たちです。

トリニクの肉は、なんの肉かわからないのが多くの私たちです。

美味しい魚の見分け方が知りたいとか、美味しい魚を食べられればそれだけで私たちは満足する、って感じに近いです。

生産者に感謝こそするものの、生産者自身がどんな方法で育てているかまでは、小学生の時に農場体験で学んでいたとしても、その場限りでおしまいです。
(無農薬で育てているとかそういう意味ではなく、数ヶ月や1年の時間をかけて、いかに自然とうまく闘いながら育てているのかどうかという意味)

結果だけを覚えて、「野菜づくりは大変だ」「ありがたくいただこう」というところだけ残っていきます。

高校卒業までに12年間、〇〇教育と名のつく教育をのべ100個近く学ばされるわけですから、その教育内容の一つひとつの手段まで覚えておきなさいというのは本当に酷な話です。

ただでさえ、お金や金融は、手段と目的をごっちゃにしてしまいがちなアイテムなのに、「〇〇教育」という、結果だけにスポットが当たりがちな指導方法で、お金や金融を学ばせようとするのは非常に難しいと考えます。

金融教育は手段を教える教育

話を少し戻しましょう。
金融教育は手段を教えることが重要な教育です。

手段を教えるからには

  1. 目的を(あらかじめ)生徒たちとすり合わせておく

  2. 教える側がその手段を使いこなしている

  3. 教える側がその手段を正しく理解している

こんな前提がないと、とてもじゃないですが教えられません、と話しました。

上の1〜3の箇条書きを「お金」に置き換えてみましょう。

  1. なぜ「お金を稼ぐ」について学びたいのか?という目的の確認

  2. お金という道具を教師側が使いこなしている

  3. 教師が道具としてのお金のリスク(利益と損失)を正しく理解している

このように置き換えられますが、違和感はないと思います。

実は、1については、学校で教えやすい部分があります。

「綺麗事だ」「現実を知らない」などと揶揄されようが、「なぜ勉強するのですか」の問いに対して、教育現場には使い古されたもっとも使いやすい言葉があるからです。

幸せに、豊かに生きていくために必要だから。

これは金融教育についても同じです。
したがって、「お金を稼ぐ目的」は、学校の教師なら誰でも言えるはずです。

問題は、具体的な道具の使い方である、2番目と3番目。

お金を使いこなしていたり、お金のリスク(利益と損失)を正しく理解している教師は、ほとんどいないという状況です。

理由は先ほどから出ている「金をかけるな。手間をかけろ。」が土台にあるためです。教師不足の根底にも影響してくる悪しき理念だと感じています。

メタノールを使ったことがない国語教師にアルコールランプを使って実験してもらうことは多くの危険が伴うように、お金を使わずに手間をかけてきた教師にとって、お金を正しく使うための授業をしたり、お金を稼ぐための方法を上手に教えるのは、大変難しいです。

金融教育は手段を教える教育である。

この認識が少なくとも教師側にあれば、

  • 教師こそが、お金を使いこなす経験を増やさなくてはならない

  • 教師こそが、お金のリスク(利益と損失)を正しく理解しておく

この重要性に気がつけるはずです。

その二つのために個人的にちょうど良い教材だと思うのは長期投資、特にインデックス投資を実際にやってみることだと感じています。

  • 「複利」という発明の実感

  • 日本では30年間成長率が止まっているため実感できなかったが、世界はそうではないという事実

など、金融教育としても大事なことが、すぐに学べるはずです。スタートする年齢は関係ありません。そして教師という安定した職業柄、投資費用を捻出することも、そこまで大きな障壁とはならないはずです。

資産運用をすることで長い目で見れば金銭的にも楽になりますから、一石二鳥です。

まだ何も始めていない先生がいたとしたら、今すぐ始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ|高校で金融教育をすることになったら

私が実際にやってみて感じた内容をまとめます。

  • 学校現場は、これ以上責任を負える状況ではない。

  • 教育現場のボトルネックは「金をかけるな、手間をかけろ」であることを認識する。

  • それでも金融教育をするなら、手段を教えている認識を持つこと。

  • すでに〇〇教育はお腹がパンパンの状態なので、生徒たちは結果だけを求めている場合が多いこと。

  • 金融教育は、実験と同じ。教える側がお金道具を正しく理解し、使いこなしていないと教えられない。

  • 道具を使いこなしていれば自身も理解が進み、教える際にも非常に役に立つので、少額でもいいからお金を使って行動(できれば資産運用)してみること。

こんなあたりです。
余談ですが、私が自作した教材を使って金融教育をしたときに最も反応が良かったのは、教える側である教師の方でした。

研究授業をしたときに、生徒たちよりも参観にきている他所の先生たちの反応の方が良かった、みたいな構図ですね。
色々と経験があるからこそ、金融にまつわる内容を興味深く聞いていただいたのかもしれませんね。

最後に

私ごとで大変恐縮ですが、先日めでたく受賞したことをいいことに、懲りずに2作目を投稿してしまいました。

選定に携わっていただいた皆様に対して、この場を借りて改めてお礼を申し上げるとともに、今回も(個人的に)書きやすいテーマを選定してくれたことに、重ねてお礼を申しあげます。

2連続受賞という偉業と話題性を目指して(夢見て)

  • 日経とnote

  • 読者や学校現場関係者

この三者にとって「三方よし」となるような記事になっていれば、幸いです。

#お金について考える

以下毎記事のテンプレをどうぞ。


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