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【喧嘩稼業:芝原剛盛】について:マンガの合気道をマジで語ってみる

自分でやっててナンだけど合気道ってのはわかりにくい武道だと思う。

たぶん演武を見てても何が起きてるのか素人目にはよくわからないだろうし、実際に触れたことがあるのとないのとでは印象がガラリと変わる。

そんなわけでヤボだと知りつつ、合気道が登場するマンガについて実際の経験や知識からコメントしていこうというのが趣旨だ。

今回の標的は最近、作者がtweetしたこと以外には数年間に渡って何の音沙汰もない『喧嘩稼業』から。

※これが実に7ヶ月ぶりのtweetであり、単行本は3年出てない。


マンガ『喧嘩稼業』の概要

『喧嘩稼業』はシリーズもので第一作『喧嘩商売』の続きになる。

ケンカが強い高校生・佐藤十兵衛がなんでもアリで戦って強敵を倒していくというバトルマンガ(半分)だった。

特色はそのなんでもアリっぷりで、基本的には屋外で戦いスプリンクラ―や空き缶まであらゆるものを利用して戦う。

仮にリングに上がるとしても相手には薬を盛ったり、ドーピングしたり、目つきだとか金的どころの騒ぎではない。

そんな物語なのにテーマとして打ち出されるのは「ノールールで戦った時に最強の格闘技は何か?」というものになっていく。

『喧嘩商売』16巻
互いに試合前から相手を排除しようと盤外戦を繰り広げる

というのが大筋だが間に信じられないぐらいの下ネタギャグパートが挟まるという狂気の作品でもあるので、読む人をめっちゃ選ぶ。

続編の『喧嘩稼業』はそれまでのギャグを大幅に減らして実質的には日本人最強を決めるシリアスなトーナメントが開催させる。

そこで合気道代表として登場するのが『芝原剛盛しばはらごうせい』だ。

真球すら倒す男・芝原剛盛しばはらごうせい

  ↑この表紙の人

芝原剛盛しばはらごうせいという名前から合気道の開祖・|植芝盛平《うえしばもりへい》とその弟子で養神館合気道のトップだった|塩田三《しおたごうぞう》をミックスしているののだろう。

見た目は塩田剛三に近い。

芝原はこの作品において最強キャラである田島彬と戦うために末期癌でありながら薬を使ってトーナメントに挑む。

その活躍っぷりはかなりのもので、なんといっても前作では無敵を誇った秘技『煉獄』を最初に破ることに成功するのは芝原だったりする。

最大のツッコミ所『四方投げ』

ここからは重大なネタバレをするのでヨロシク。

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トーナメントで芝原剛盛はいわゆるフルコンタクト空手の『空手王』と呼ばれる男・上杉均と対戦し、最後に合気道の『四方投げ』という技を仕掛けるのだが……。

この四方投げがかなりまずい。

『喧嘩稼業』13巻より
四方投げに入った瞬間

芝原は結果的にこの四方投げによって敗北しんだけれど、合気道やってる側からすればそりゃそうだと思う。

なにしろこの四方投げは形としては悪いお手本のようだからだ。

相手の身体が崩れていないので、力で引き返されたり何らかの反撃を受ける隙をつくってしまうし、相手の状態を見ることもできない場所から仕掛けてしまってはいけない。

四方投げというのは形だけみると腕を持ち上げて一本背負いのように投げると思われるかも知れないが、実際は力技ではないし、逃がさない工夫もされている。

適当に色んな流派がやってる四方投げを見てもそこらへんのポイントはわりと押さえられているのがわかるだろう。

というかサムネの時点で、四方投げの形が違うのがわかるはず。

合気道創始者との関係

あと創作として面白かったのは芝原のモデルが塩田剛三である以上は、その師匠として植芝盛平にあたるキャラもいるわけで、ふたりの関係性がなかなか面白い。

『喧嘩稼業』12巻より
植芝盛平っぽい人・植田良沢

作中で芝原は合気道の宗教化を止めるために開祖・植田と立ち会って倒し、合気道のトップになる。

これは実際に合気道の創始者・植芝盛平も宗教的な部分があり、塩田剛三はそれを嫌っていたと思われるので、そのあたりから得た着想だろう。

『喧嘩稼業』12巻より

ちなみに実際の塩田剛三は晩年になってそういった宗教的なものの意味がわかるようになったとも述べているので、単に対立していたというわけでもない。

『バキ』シリーズもそうなんだけど、植芝盛平というのは戦後になってから合気道は愛だと言ったりしていたので、格闘マンガで題材にされる時は評価を低くされがちだ。

陰陽の考え方

あと陰陽といった考え方も合気道の一部分をうまくマンガに落とし込んでいて、これはおそらく養神館の呼吸の考え方がベースになっていると思われる。

『喧嘩稼業』12巻より

合気道における大枠での陰陽は、だいたいどんなものでも陰と陽に分けられるというところ。

例えば呼吸だって陰陽だし、昼と夜、男と女、天と地、右と左、入身と転換、色んなものが陰陽なのであり、それらをひとつにすることが重要だとされている。

それから「光と影を行き来できる者が一番強い」といった言葉は合気道のことをうまいこと表現していると思う。

『喧嘩稼業』12巻より

どちらか一方に偏るのではなく、両方を自在に使い分ける、どちらも生み出せるようになるのが合気道の目指すところでもあるからだ。

おわりに

色々書いたけど、格闘マンガとしては普通に面白い。

最強キャラ田島が変則ルールの戦いで小細工だけで戦うことなく勝ってしまったりするシーンは素直に関心した。

途中まででも十分読みごたえがある作品だ。完結するかどうかは知らんけど……。

みんなも四方投げで相手を仕留めようとするときは気をつけような!


マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?