20230830 学会大会の懇親会の話

 最近全然祭関係の論文読めていなくて反省ですが,学会大会は研究者にとっての年に一度の「祭」であり,そこで開かれる懇親会は祭で言う「直会」的な意味合いがあると思うので,研究者の祭を記録する意味合いがあると思って書いてみようと思います。
 
 心理学系の主に若手の研究者が研究自体ではなく研究生活を共有する感じでゆる~くうっすらつながるSlackのワークスペースが存在していてそれに加入しています。私の様な研究歴は長いですが業績が少ない人間が一番忌み嫌われている自覚はあるのでほぼ発言はできませんが,優秀な若手研究者が教えてくれる最新の情報などがありがたくていい場所だなあと。
 
 で,そこで近々開催される学会大会について大学院生から質問が入りました。

「大会で立食パーティー的な懇親会がありますが参加しますか? どういったものでしょうか? 新型コロナ以前はそのようなものはよく開催されていたのでしょうか?」

 新型コロナで祭が中止になっていろいろな継承が途絶えたことが話題にあがりますが,身近な学会の大会でもそういった現象がみられているとは!でもたしかにそうですよね,だいたいどこの学会でも「2年間は完全オンライン+1年間は対面でしても飲食を伴う懇親会はなかった」感じだと思うので,修士だけで終わる人だと一度も学会大会の懇親会を体験せずに終わった人もいたのだと思います。
 
 そのほか,新型コロナの前から基本的には学会大会の懇親会の文化自体は衰退傾向にあったのは確かだと思いますし,私自身「開催校の関係者」としてしか参加したことはなく,用事やしがらみがない懇親会に自費で参加した記憶はありません。おそらくトータルで5~10回くらいでしかありませんが,少ない回数を振り返って書いてみたいと思います。
 
Q(料理の質量などで)参加費の元とれるの?
 
 身分(院生か教員か)や学会によって参加費が全然違うと思いますし,同じ学会でも「準備委員会で懇親会を担当する委員の飲食へのモチベーション」でまったく違うので一概には言えませんが,食べ飲みものに関してそんなに外れることはない気がします。
 
【飲み物】ビール,ウィスキー,グラスワイン,焼酎,ソフトドリンクなどの基本的なお酒が飲み放題のことが多い気がします。そして,担当委員に好き者がいたりとか開催校が酒好きな地域の場合は,地元の珍しい地酒などを取りそろえていてくれたりして,それだけで元とれることも結構ありますが,その場合会場のポスターなどで事前予告されることが多いかなと。
 
【食べ物】食べ物に関しては,その地の名物を出してくれるところもあって,一度仙台で大量の分厚い牛タンを食べ放題だったときは歓喜しましたが,正直それほど地方色を感じることはないような気がして,だいたいどの学会でも一番のご馳走は「寿司と刺身」になる気がします。そして寿司も刺身も量が潤沢にあることは少ないので,学会のレジェンドレベルの重鎮が寿司を確保するのに頑張られている姿を見ることができるのも結構貴重ではないかと。
 
Q参加者はどんな感じの人がおおいの?
 
 これも学会によって全然違うのでしょうがイメージではこんな感じかなと。
(1)その学会の理事会やら代議員などの偉い重鎮の方々(1割)
(2)開催校の委員会のメンバー(2割)
(3)〇〇賞受賞者と次回開催校の委員会のメンバー(1割)
(4)開催校のアルバイト院生・学部生など(2割)
(5)協賛の出版社や企業の方(0.5割)
(5)他者と関係を作りたい一般の参加者(1.5割)
(6)指導教員につれられたり自分で自発的にでた院生(2割)
 
 てな感じでしょうか。
 基本的に年配の方は名前を聞けばどなたか分かる程度の偉い人が多く,そうしたレジェンド級の人と話したりできる機会ができるのが学会大会の懇親会にでる一番のメリットだと思います。
 有名な先生で指導されている院生を引き連れて参加して院生を紹介しまくったりする先生もいた記憶はありますが,その手の先生は自分で「〇〇ゼミ飲み会」を別個に開催することが多く懇親会でおみかけすることは少ない気がします。
 
Q懇親会の雰囲気は?

 
 基本的には「ポスターの貼っていないポスター会場で,数人で話している人たちの名札を確認して名札だけを頼りにその人に話しかける」というコミュ障には厳しい雰囲気であるのは確かだと思います。
 しかも,ポスター会場のように「発表者は一人でいる」こともなく,だいたい上で挙げた(1)~(6)の中での知り合い同士で話しているので,そこに割って入って話しかけるのは内気な人ではなかなか難しいと思います。
 そのため,安心しあえる既知の二人以上で行って,一人ぼっちになった時はその人と話せる安全基地になってもらえる状態を確保して置いた上で「~~に有名な先生発見!話しかけてくる!」みたいな感じでゲーム感覚でコミュニケーションとるといいのかもしれません。
 少なくとも基本的に「誰からどんな内容を話しかけられてもウェルカム」な雰囲気には満ちているので「業績少ない無名な人間に話しかけられても無視されるのでは?」などという恐れは全くないと思っていいと思います。
 あと,お酒が入っていると気が大きくなれる人もいると思いますが,そんな感じで多くの人がお酒が入っていますので,ポスター会場とはまた違った雰囲気で楽しく話せる機会があるのも確かだと思います。
 ただ,業績が少なく知名度が低い私の様な人間が寂しそうに一人でご飯を食べているからと言って,誰かが同情して話しかけてくれるというほどのサポーティブな場ではないので,どんどん話しかける読経のある人以外は一人で参加するのはやめた方が良い気がします。
 
Q懇親会の様子に時代による変化はあるか?
 
 これは結構あると思って,(A)かなり古い時代,(B)文献検索が楽にできるようになった時代以降,(C)SNS流行後の3時代に分かれる気がします。
 
(A)かなり古い時代

 これは正直私も知らないのですが,個人HPを持っている人もそれほどおらず,文献検索をCD-ROMでしていたころなどは,「誰がどのような研究をしているか」というのが本当に学会大会くらいでしか知ることができなかった気がします。また,そのころは心理学部なども少なく,博士後期課程まである大学院も少なく,そのため院生の数も少なかったため,「院生は大会で名を売らないといけない」という雰囲気があったように聞いています。そのため,懇親会に自分の論文の抜き刷りを持参して偉い人にくばりまくったことも結構あったようでした。
 
(B) 文献検索が楽にできるようになった時代以降
 
 文献検索が容易にできるようになってからは,全国学会誌に載らなくても何かしら書いていれば研究を読んでもらえることが増えたので,学会大会で名前を知ってもらうメリットは少なくなった気がします。
 しかし,研究自体は知る機会が増えても,「そのような研究を生めた背景」などについては論文や学会発表を読み聴きしてもわからないので,学会大会では優秀な先生方が懇親会とは別に開かれる飲み会などに参加できる機会を積極的に探してそこに参加させていただくために学会大会を利用していた印象が強いです。そのため,「自分が話をしたい先生が懇親会に参加する場合はそれに参加」,「自分が話をしたい先生が個別の飲み会に出られる場合はそれに参加」という感じで,ほとんどの先生が懇親会ではなく私的な飲み会に参加されていたので自分も懇親会に参加することはほぼなかった記憶があります。
 
(C)SNS流行後
 
 ということで,「学会大会は飲み会などで論文には残らない研究ノウハウを学ぶ場所」であった気がするのですが,SNSが流行して偉い優秀な先生方が研究ノウハウをバンバンSNSやブログで公開してくれるようになってからは,学会大会の飲み会の価値はかなり下がった気がします。飲み会で話しかけなくてもSNSで聞けばすぐに教えてくれますしで。
 そういうのもあって,おそらくSNS流行後の懇親会の参加者数はきっと目に見えて減少したと思うのですがどうなのかなあと。
 
 って,ここまで書いて,「学会大会の懇親会の参加者数の変化」を調べてみたくなりました。たぶん学会の事務局で資料見せてもらうと大会の参加者数と懇親会の参加者数は分かるよなあ…結構上の時代変化のエビデンスを数値で示せると思うのですが…『心理学ワールド』あたりで「学会大会の意義を問い直す」みたいな企画でしてくれないかなあ…。

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